オファニモンが消え、ケルビモンを倒してから数日後のこと。
満点に輝く星空の下。
たき火を囲み、それぞれがこれからに想いを馳せていた。
ボコモンの上でうとうとしているパタモンを見ていた泉が、ぽつりと零した。
「そういえば、何でパタモンだけ"卵"として生まれ変わったのかしら?」
その問いに、皆は顔を見合わせる。
「そういえば…何でなんだろうな?」
「…うーん。死に方が違ったから、とか?」
各々が意見を述べるも、どうも説得力に欠ける。
そんな中、ただ1人意見を出さなかった輝二がふと口にした。
「ひょっとして、すでに"卵"として存在しているのか…?」
パアッ!
突然、輝二のデジヴァイスが光り出した。
「何? どうしたの?!」
「分からない。いきなり光り出して…」
デジヴァイスの画面を見た輝二は、目を疑った。
「このマーク…!!」
輝二の声にただならぬものを感じた皆が、周りに集まってくる。
「おい、これって…」
「オファニモンと通信するときの…?」
画面に映っていたのは、オファニモンが話しかけてくるときに出るマーク。
「まさか…近くにいるのか?」
とは言うものの、ウンともスンとも言わない。
これでは何をどうすればいいのか、分かりようがない。
「あ…」
何か思いついたらしい輝一を、誰もが振り返る。
「まさかとは思うけど、"卵"の中から通信してきてる…とか?」
輝一の言葉に、誰もがまさか…と目を見開いた。
パアッ…
再び輝二のデジヴァイスが光り、立体映像が浮かぶ。
「これは…"地図"?」
方角を表しているらしい矢印と、輝二たちの現在位置らしい赤い点。
そして目的地らしい、点滅する点。
「この近くらしいな…」
輝二は他のメンバーを見た。
全員が頷く。
「行ってみよう!」
地図を頼りに進み始め、10分。
正面に洞窟が現れた。
地図の矢印は、洞窟の中を指している。
「やだ、またコウモリみたいなデジモンが出るんじゃ…」
泉は以前のことを思い出し、背筋が寒くなる。
「…その前に、明かりになるものがないよ?」
辺りを見回していた友樹が言う。
確かに何も持ってない。
「大丈夫。輝二の属性が『光』だから」
輝一の言葉に輝二は困惑した。
「…進化しろってことか?」
確かに、ヴォルフモンは光の闘士。
だがそれはあくまでスピリットであって、輝二自身のものではない。
そんな彼の考えを予想していたかのごとく、輝一は微笑んだ。
「気づいてないの? こんな真っ暗な中、輝二だけ姿がはっきりみえるんだよ」
「え?」
他のメンバーは、それで納得したようだ。
「そういえば…輝二さんだけよく見えるよね」
友樹は輝二を眺めた。
他の誰もが、少し薄暗く見えるのに。
「うーん…『火』じゃ無理みたいだな。輝二、自分で分かるか?」
拓也は自分の手を見るが、どうも『火』は『光』の力には及ばないらしい。
言われた輝二は、さらに困惑した。
…自分ではよく分からない。
「洞窟に入れば分かるんじゃない? どちらにせよ、入らなきゃだめなんだし…」
輝一が提案すれば、それもそうだと一行は洞窟へ足を踏み入れた。
「輝一さんって、話の持って行き方上手いよね」
友樹の言葉に泉は頷く。
「確かに…。それに、輝二のことよく気づいたわよね。
私なんか言われるまで何とも思わなかったし…」
それは友樹や純平も同感だった。
「…なんていうか、以心伝心みたいで面白くない」
ぼそりと呟き眉を寄せた拓也に、泉が笑う。
「あら、拓也ってば嫉妬?」
拓也たちは、輝一よりずっと長く輝二と行動を共にしている。
泉とて悔しいという気持ちが、少しだけあった。
「ちげーよ!」
ぷいっと横を向いて否定した拓也に、また笑う。
「なによ、素直じゃないんだから」
「だから!」
わいわいと言い合う2人に、ボコモンはしみじみと呟いた。
「…賑やかじゃのう」
「にぎやかですぅ〜」
パタモンが同意を返した。
「しかし、輝二はんがおらんかったら、皆バラバラになっとったかもしれんのう…」
ボコモンは輝二を見上げ、感慨深く呟いた。
洞窟の中は本当に真っ暗で、彼がいなければ前に進むことすら難しかっただろう。
当の輝二は、その辺りを考えないことにした。
どうせ無理に考えたって、ここは人間界とは違うのだ。
「うわっ…!」
相当奥まで歩いた頃、輝二のデジヴァイスが更に強い光を放った。
光に照らされて、周りの様子が分かってくる。
輝二たちは開けた場所に来ていた。
デジヴァイスの光がなくなっても周りが明るいのは、天井の岩が光を放つ性質を持っているからだろう。
部屋の中央には石で作られたらしい台座があり、藁がしきつめられている。
「デジタマだ…」
皆が息を呑む。
そこには1つの卵が乗っていた。
「これが…オファニモンの卵…?」
誰も、その場を動かなかった。
「あっ!」
輝二のデジヴァイスから、一条の光がデジタマに向かって放たれた。
すると光を受けたデジタマにヒビが入り、あっという間に亀裂は全体に広がる。
そして…眩い光とともに卵が割れた。
あまりの眩しさに目を瞑ったが、ふと聞こえたデジモンの鳴き声に、皆が我に返った。
『みう〜』
デジタマのあった台座には、小さな犬のようなデジモンが。
「え…?」
「…プロットモン?」
全員の視線がボコモンに集まり、ボコモンは慌ただしくガイドブックをめくる。
「パタモンはエンジェモンに、プロットモンはエンジェウーモンに進化する。間違いないぞい!!」
「じゃあ、お前がオファニモンの生まれ変わり…?」
輝二はプロットモンにそう問いかけた。
プロットモンはしばらく輝二を見つめていたが、パッと顔を輝かせて彼に飛びついた。
『ママ!』
全員の目が点になる。
「…は?」
拓也が代表して、もう一度聞いた。
「お前…、今何て言った?」
プロットモンは輝二を見上げて笑顔で言った。
『ママ!』
沈黙が続いたのは、それでも数秒のことである。
順応性が高いのか、皆は次々にこう言った。
「輝二は綺麗だから仕方ないわね〜」
「輝二って中性的な感じだしな」
「輝二さん髪長いしね!」
まさに他人事。
「俺は男だっ!」
抗議するが、無論効果なし。
輝二はため息をついた。
もちろん、問題の中心であるプロットモンは、輝二の腕の中に収まっている。
「まあまあ、別に言われて減るもんじゃないだろ?」
「…精神力が減るんだが」
輝一もまた、例に漏れず他人事。
彼はお気楽にもプロットモンの頭を撫でている。
(同じ顔なのに…)
おとなしく輝一を見上げていたプロットモンが、何を思ったのか無邪気に笑った。
『パパ!』
…と、輝一に飛びつきながら。
沈黙は輝二の時より幾分長かったが、やはり順応性が高いらしい。
「輝二さんがママで輝一さんがパパか…。いいな〜」
と、友樹。
「絵になる夫婦だなあ…」
と、純平。
「きゃ〜vv 初初しくって羨ましいわ〜♪」
と、泉。
「良かったのう、息子娘や! 可愛い妹が出来たぞい!」
と、ボコモン。
「はいです〜♪」
と、パタモン。
「良かったね。妹だ」
と、ネーモン。
(もう勝手にしろ…)
もはや、何を言っても無駄だろう。
またこちらへ飛びついてきたプロットモンを撫でながら、輝二は再度ため息を吐いた。
天使の忘れもの
end.(2004.2.13)/ 修正 2011.4.3
日付はおそらく、バックアップを取得した日。
まあともかく、クロスワールドに通じるお話の原点です。
元は一二←拓な話だったような気もする(苦笑)
これを起点に「天使シリーズ」としてご好評いただき、作品数もそこそこありました。
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