『よっ、輝二! 突然なんだけどさ、今度の土曜って空いてねえ?』



すっきりと晴れた青い空だ。
「ここにフットサル場なんてあったんだな」
「ああ。でっかいグラウンドもあるし、結構良いぜ〜」
火曜日の放課後に突然掛かってきた電話は、隣の公立中学に通う拓也からのもの。

『フットサルに誘われたんだけどさ、お前もどう?』

サッカーかという輝二の予測は、わずかに外れていた。
「けど良いのか? 俺なんて本当に部外者だろ」
何でも、高校の先輩からフットサルの誘いがあったという。
「友達連れてきて良いって言うから、"じゃあ遠慮なく"ってさ。それに、ほら」
拓也が指差したのはフットサル場の隣、フリーの小さなグラウンドの1つ。
大きく手を振った拓也に、ミニサッカーをしていた1人が手を振り返した。
「あっ! 拓也お兄ちゃーん!」
友樹だ。
拓也の隣に輝二の姿を見つけ、駆け寄ってくる。
「輝二さん、久しぶり!」
「ああ」
友樹の後から駆けてきたのは、デジタルワールドでも出会った彼の級友たちだった。
「お久しぶりです!」
「おう! 勝春たちも元気そうだな」
「はい、もちろん! 拓也さん、今日は高校生のチームに混じってフットサルって聞きましたけど」
もしかして輝二さんも? と問われ、頷いた。
ふと、こちらへ手を振る別の人物の姿が目の端に映る。
フットサル場だ。
「あの人か? 拓也の先輩って」
「えっ? あ、そうそう!」
手を振り返し、拓也は行こうぜと輝二を誘う。
「友樹、泉たち来たら頼むな!」
「うん!」
駆け出しながら、輝二は首を傾げた。
「泉たちも来るのか?」
拓也は当然だと笑う。
「輝一に言ったらさ、じゃあ久々にみんなで会えないかって言ったから」
運良く泉も純平も、その日は空いていた。
久々の面々を思い浮かべながら、輝二も笑う。
「賑やかになりそうだな」

2人がフットサル場へ駆けていくのを見送り、友樹は勝春たちと顔を見合わせる。
「どうする?」
ゲームの続きを始めるか、それとも。
「応援しに行こうぜ!」
もちろん、友樹もそのつもりだった。
「だよね! じゃあ、ボクは泉さんたち待ってから行くよ」
「おう!」

ぽんぽん、とボールを蹴り上げ、リフティングの練習。
キックミスでボールを飛ばしてしまい、追い掛けた。
「難しいなあ…」
手にしたサッカーボールを見下ろしていると、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「友樹ー!」
振り返れば、泉と輝一、純平がこちらへやって来る。
「泉さん! 輝一さんも純平さんも、久しぶり!」
駆け寄ると、真っ先に彼らの手荷物に目が行った。
「すっごい重そう…! これってもしかして」
見上げると、泉の満面の笑みが出迎えた。
「そ、お弁当! 友樹、お友達と一緒に来てる?」
「え? うん」
戸惑いがちに頷けば、ほらな! と純平がなぜか勝ち誇る。
「だから大丈夫だって言ったのさ。他にも人数居るって」
よく分からずに助け舟を求めれば、輝一が苦笑した。
「材料持ち寄って作ったんだけど、作り過ぎた感じでさ。余ったらどうしようかって話になってたんだ」
大丈夫そうで良かったよ、と笑う彼に、なるほどと納得した。
「あっ、ボクも持つよ」
「ありがとう。輝二と拓也は?」
「うん、もう試合始まってるよ! 早く行こう!」
拓也と輝二は同じチームで、広くはないコートを駆け回っている。



「お疲れ様でしたー!」
約1時間ほどのゲームを終え、拓也と輝二がコートから出てきた。
「賑やかだったな〜」
「これだけ人数がいればな…」
友樹たちを見遣り開口一番苦笑した拓也へ、輝二も肩を竦める。
「輝一、その荷物は?」
彼らがそれぞれに手にしている荷物は、どうも重たそうだ。
輝一ではなく、泉がにっこりと答えた。
「お弁当よ。輝一も手伝ってくれるって言ったから、2人で純平のお家にお邪魔したの」
で、作り過ぎちゃったから、勝春くんたちも一緒にどう? って。
「どこで食べようか?」
「そういえば、あっちの方に芝生の広場がありましたよ」
「おっ、マジか! んじゃ案内してくれよ」
「はい!」
勝春を先頭に駆け出した彼らを追い掛けながら、輝二は問い掛ける。
「なんで純平の家?」
一番大きな包みを抱える純平が、指を立てた。
「俺んち自営業だろ? 母ちゃんが従業員の昼用の握り飯とかいつも作っててさ。
量を作るならうちの台所だと扱いやすそうだし、母ちゃんにも手伝って貰えそうだったからさ」
料理に関しては輝一が居たし! と笑う。
(確かに、料理は輝一が一番凄いよな…)
輝二には意味が分からなかったが、いつだか泉が"輝一ってお嫁さんに欲しいタイプよね!"と力説していた。

「これうっまいなー! あ、そうだこの後どうする?」
「ボクたちはサッカーの続きやるよ! 拓也お兄ちゃんと輝二さん見てたら、またやりたくなったんだ」
「ゲームも途中だったしな」
「そか。お前らは?」
「せっかくなんだから、みんなでどっか行かない?」
「じゃあゲーセンとか行こうぜ!」
「なんでそうなるんだ…。別にいいけど」
「あっ、私もさんせーい! 久々にポップンやりたいんだ〜」
「ほら、泉ちゃんも言ってるし! 俺はjubeat一押しだけど」
「そーいや純平って、音ゲー凄いんだっけ」
「俺、一度見たことあるよ。純平のDDR。3曲くらいやるとギャラリー出来てた」
「うわっ、すご。そういう輝一は?」
「はは、アーケードゲームはあんまり…。普通に据え置きのゲームなら」
「輝二はゲーム系全っ然ダメだもんな〜」
「…うるさい」
「んじゃゲーセンで決まりな。けどこの辺にあるのか?」
「駅の向こう側にあるんじゃないか?」
「駅なら、ロッカーにこの荷物置けるわね」
「…結局ゲーセンなんだな」
「まあまあ。見てるだけでもそれなりに面白いだろ?」
「まあな」
「よし、じゃあ行くか!」

拓也の声に頷き、それぞれが立ち上がる。

たとえば、こんな日



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