さて、もう夏休み前です。
受験へ向けての準備が忙しくなる中学3年生、部活動に勤しんできた生徒は特に忙しい。
彼らには、『引退試合』というものが間近に控えているのである。
これは、そんなある日の放課後の出来事。
「だから何で俺がっ!」
「頼むって! お前が一番適任なんだよ〜(T■T)」
3年生のとある教室に、こんな言い争いが響いた。
終礼も終わったしさて帰ろうか、という生徒たちは、何事かと声の方向を振り返る。
声の主の1人は、このA中学が誇る美人(本人は知らない)、源輝二。
その彼に何か物事を頼んでいるらしいもう1人は、現サッカー部のキャプテン。
サッカー部のキャプテンが、何を頼み込んでいるのかというと…?
「適任って、俺以外でもサッカー得意な奴いるだろ! どうして俺なんだ!!」
「どうしても、だ! なあ〜、頼むって!!(T▲T)」
「嫌だってば!」
「そこをなんとか!!(T□T)」
「嫌だと言ってるだろ!!!」
まさにイタチごっこのようなやり取りが続く。
いったい何の話か?
話は冒頭に戻るが、3年生で『引退試合』を控えている運動部は少なくない。
最後の試合はやはりベストチームで挑みたい、それは当然だろう。
が、しかし。
男子サッカー部は欠員が出てしまい、3年生レギュラーは10人。
控えの選手は、みな2年生か1年生。
コーチを含め部員全員で論議した結果、ピンチヒッターを誰かに頼もう! ということになったそうだ。
…で、そのピンチヒッターに選ばれたのが輝二だった。
何度も(サッカー部に限らず)代役として(強制的に)引っ張り出されている輝二を、知らない運動部員はこの学校にはいない。
スポーツ万能の輝二の運動能力には、誰もが目を見張る。
運動部の各顧問たちですら、試合などで欠員が出ると『源に頼むか…』と、即決する始末である。
彼に頼めば、誰もが"仕方ない"と諦めて反発しないから、というのもある。
裏の理由としては、彼が出ると応援動員数が半端ないゆえの、客寄せもあるとかないとか。
…まあともかく、部員たちは毎回、目立つことを嫌う輝二の反発に遭うのである。
「輝二〜! って、何やってんの?」
そこへ廊下からひょいと顔を出したのは、A中が誇るもう1人の美人、織本泉。
帰国子女の金髪美人で、その明るい性格から皆に好かれている。
「あら、サッカー部のキャプテン。輝二に選手代役の頼み込み?」
輝二の怒った顔とキャプテンのうなだれようを見て、泉はまた? と眉をひそめた。
増援が来た、とばかりに、サッカー部のキャプテンは顔を輝かせる。
「そーなんだよ。織本さんも何か言ってやって!(T△T)」
「え? うーん、そ〜ねえ…。何で輝二はそんなに嫌なの?」
正直言うと、泉は輝二がサッカーをするところを見たことがない。
(そういえば、サッカー部のピンチヒッターだけはやってないわよね…)
だから、『見てみたい』というのが本音である。
だが。
「…もの凄く嫌な予感がする」
と眉を寄せる輝二に、少し考える。
デジタルワールドにいた頃も、輝二の勘の鋭さには驚いた記憶がある。
今いるのは人間界だから、危険なことへの危機感ではないだろう。
(危険じゃないなら、良いかしら…)
そんなわけで、泉はにっこり笑ってキャプテンの味方をすることにした。
「私、輝二がサッカーしてるとこ見たことないのよね。だから引き受けて♪」
「お前なあ…」
自分が見たことが無い、という理由で敵に回った泉に、輝二は溜め息しか出て来ない。
「良いじゃない。すっごい忙しいってわけじゃないんでしょ? なら人助けだと思って!」
そこで意味ありげに笑った泉に、輝二はさらなる嫌な予感がした。
「ほら、そこにいる女の子達! あなた達マネージャーでしょ?
輝二を泣き落としちゃいなさいよ♪」
「?!」
結局、3人のマネージャー少女(もちろん下級生)に頼み込まれ、輝二は白旗を揚げるしかなかった。
額を抑える輝二を見遣りつつ、泉はキャプテンへ尋ねる。
「ねえキャプテン。今回の試合の相手って、どこの中学なの?」
「ああ、C中だよ。あそこもメンバーが凄いからな。けどこっちには源がいるし!」
「C中…」
キャプテンの言葉でさらに溜め息をついた輝二を見、泉はようやく気がついた。
「C中って、拓也と輝一がいるとこじゃない♪」
拓也がC中サッカー部のキャプテンであることを、輝二はとうに知っている。
「だから嫌だったんだ…」
さて、試合の結果は…?
続・輝二の受難
end.(2004.2.13)/ 修正 2011.1.27
デジFの過去作品は、どれもこれも文章的に拙すぎて恥ずかしい。
でもネタ的には良い感じと自画自賛出来たので、修正してます。
ただ修正しすぎて過去の良い出来が消えて、中途半端なことに…orz
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