<古都にて> 闇夜を拒む

「闇に統治された世界。それは其方らも喜ぶべきことだ」

鬼童丸の言葉に、リクオは片眉を上げた。
「闇に統治された…世界?」
「その通り。闇の元、秩序ある世界を造り上げるのだ」
リクオはもう、鬼童丸の『畏れ』に引けを取ることは無い。
恫喝(どうかつ)に屈する理由も無い。
(それに…)
祢々切丸の切っ先がほんの僅かに下がり、それを見て取った鬼童丸が怪訝な視線を向けた。
煌めく刃に目を細め、リクオは誰ともなく問う。

「その世界に、光はねぇのかい?」

鬼童丸は嗤う。
「当然だ。人間も妖怪も、我ら京都百鬼夜行の元にのみ、生きることを許される」
「妖怪も、ってぇことは、土地神もかい」
「無論」
「…へぇ」
切っ先を再び鬼童丸へ据え、リクオは嗤った。
「あんたらは、古来よりの神サマも支配しようとしてるのかい」
そいつはちぃと、身の程知らずじゃねぇか?
『畏れ』の気配が濃厚になり、ビリビリと空気が震える。
鬼童丸の刀が、カチリと鍔を鳴らした。
「産土神(うぶすなのかみ)も土地神も縁近き者。我らの力の源だ」
「…天津神は?」
ついでのように問われた単語は、鬼童丸を嗤わせた。

「天津神だと?  あの者たちは、とうに人間界から興味を失しておるわ!
気づいたときには奴(きゃつ)ら、地上へは降りられぬ!」

降りている者が居たとして、どうして我らの敵と成り得る?
我ら京都組、天津神をも呑み込み世界を創るのだ!
「…そうかい」
リクオはそっと刀の柄を握り直した。

人間を操る羽衣狐、あの強大な力を持ってすれば、容易い。
しかも彼女は、鵺と呼ばれる得体の知れぬ妖怪を身籠っている。
闇に満ちた世界?
その世界は人間は愚か、神さえも排除するだろう。
「!」
突如、鬼童丸の目の前からリクオの姿が消えた。
遠野で出遭ったときとは比べ物にならない『畏れ』が、周囲に満ち満ちている。
刹那鳴り響いたのは、音だけで物を粉砕し兼ねない、非常な金属音。
鍔迫り合い不愉快な音を立てる刀の向こうで、リクオは笑みを収めはしなかった。

「あんたらの言う世界に、オレの守りたい奴は居ない。だから」

その野望ごと、全部打ち砕いてやるよ。



End.



10.9.2

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