ここにはかつて、天使と悪魔が住んでいました。
その世界は、天使と悪魔の争いで一度壊れてしまいました。

1つにまとまっていた天使はバラバラに。
1つにまとまっていた悪魔はバラバラに。

天使と悪魔は見た目が違うだけなのに。
それだけの違いなのに、争いを起こした。
挙げ句の果てに、世界を滅ぼすところだった。

では何故、ここに今、世界があるのでしょう?

それは簡単。
世界が身を守るために、天使でも悪魔でもない存在を生み出したから。







今この世界には、"人間"という種族が台頭している。
科学技術が発達していて、前の力の名残なんかこれっぽっちもない。

俺が前の"綴り人(つづりびと)"からこれを受け継いだのは、もうずっと昔。
どれくらいの時間が経ったのか、それすら忘れた。
それでも分かる。

今回の"歴史"は、短すぎるかもしれない。


「ねえ!いくら何でも早すぎると思わない?!」
「俺に言うな」
「だって眠いんだもん」
「それは俺も同じ」


何故なら、もう呼び出されてしまったから。


「ちょっと…まだたったこれだけしか書かれてないの?!」
「…いい加減黙れ。見りゃ分かる」
「分かったよ。静かにする。どこまで読んだ?」
「まだ2冊目」
「今回の、全部年月に換算したらどれくらい?」
「2000万も経ってない」
「え…」
「何なら前のと比べてみるか?」
「うん。じゃあ僕は前のやつを見るよ」

「大気汚染率、4.5%」
「え…こっちは0.4%…」
「森林破壊率、17.7%」
「…1.1%」
「生態系変動率、35%」
「…2.6%」
「気温上昇率…」
「あ、ごめん。もう十分…っていうか、救いようがないんだけど」
「最短記録更新か」
「だって救いようがないし…」

前は科学技術なんて、あまり発達してなかった。
それでも同じことが起こってる。

戦争。

同じ種族なのに殺しあう。
それだけじゃなくて、探せば見つかるはずの"警告"も見つけていないんだ。


最近、不思議に思う。

形あるものは滅ぶのが常。
でもなぜ、誰も気付かないんだろう。
前のときも気がつかなかった。
結局、引き返せないところに来て、初めて気付いたから。

繰り返す歴史に、なぜ気付かない?

でもそれを考えるのは、俺の役目じゃない。
俺の役目は、この歴史が幕を閉じるまでを記すこと。

そう、まだ滅ぶと決まったわけじゃない。

でも俺は、早く滅んでくれるなら願ったりだ。
だって博愛主義じゃないし。
次の"綴り人"にこの役目を受け継がせれば、俺の役目は終わる。


そうすれば、やっと待ち人に逢いに行けるから。







天使は白い鳥のような翼を。
悪魔は黒い蝙蝠のような翼を。
世界が新たに生み出した存在は、黒い鳥のような翼を。
その存在の証は、黒い蝶のシルシ。

でも誰もその姿を見たことはありません。
なぜなら、見た者はすぐに死んでしまったから。
その存在は世界を守るために、天使と悪魔を消していった。

では何故、ここに今、人間が住んでいるのでしょう?

答えは簡単。
その存在が姿を消して、何千何万という時が過ぎたから。

では何故、この書は残っているのでしょう?

それは否。
残っているのではなく、今、書かれようとしているから。







前の"綴り人"は、自分の名前を記さなかった。
ずっと長い時を"綴り人"として過ごしていて、忘れてしまったのかもしれない。

でも俺は、まだ忘れるわけにはいかない。
まだその名前を呼んでくれる人がいるから。


俺はシン・アスカ。

それが生きていた頃の、悪魔だった俺の名前。


呼び出された2人の名前は、まだここに記すことが出来ない。
彼らの名前は、歴史の終わりが目前に迫ったときに初めて分かる。
俺も知ってるけど、でも書けない。

まだ、書くことを許されない名前。

それが"破滅"。



"世界"の歴史をすべて知る者。







"破滅"は"世界"の呼び声に応じて現れる。

"世界"を守るために。

"世界"が受けた大きな"傷"を癒すだけの時間と、"世界"が望む"命"を生み出す時間を創るために。


"世界"の意志を代行するために。







そう、







彼らは、











『  世  界  』  そ  の  も  の  だ  。