最後の授業が終わって、誰もが帰宅準備を始める教室。
私は後ろの席を振り返った。
…でも、その"彼"はずいぶん慌ててる。

「シン?」

小首を傾げて尋ねたら、彼は本当に済まなそうに顔の前で手を合わせた。
「ごめんメイリン!今日ちょっと野暮用入ってさ、そっち行けそうにない…」
私はにっこり笑って頷いた。
「そっか〜…じゃあ仕方ないね。お姉ちゃんたちには私が言っとくよ♪」
私はメイリン・ホーク。
私の後ろに座ってるのは友達のシン・アスカ。
髪は黒で眼は赤っていう、あまり見かけない組み合わせの男の子。
今日は、一つ年上の私の姉、ルナマリアと友達のレイ、そしてシンと私で遊びに行く予定だったの。
…う〜ん、シンがドタキャンするなんて珍しい。
表情から察するに、暗いことがあるわけじゃなさそうだけど。
むしろ…その逆?

あ、すっごく気になってきた。

「ホントごめん!ルナとレイにも謝っといて!埋め合わせはちゃんとするから!」
そう言って、シンは教室を飛び出して行った。
それを見送った私も急いで帰る準備をする。
「お姉ちゃんとレイにも伝えとこっと♪」
ケータイを取り出して、メールを送って、準備完了!

私はこれから、シンの後を付けてみようと思います☆







〜メイリン・ホークの日記帳〜 ×月○日、シンを尾行しました。







「…何をやっているんだ?メイリン」
「ひゃっ?!」
「バレバレよ、あんた。反対に怪しすぎるわ…」

学校の正門を出たところで、どこかに行くらしいシンの様子をこっそり窺ってたの。
そしたら、お姉ちゃんとレイにいきなり声を掛けられちゃった。
…ああ、びっくりした。
「もう、脅かさないでよぅ!シンに見つかったらどうするの?!」
お姉ちゃんは呆れたようにため息をついた。
「こんだけ遠いんだから見つかりゃしないわよ。いきなりメール送って来るから何かと思えば…」
私はちょっとムッとする。

「だって気になるもん!シンってばなんか嬉しそうだったし!時間気にしてるし!
絶対誰かと待ち合わせだよ!!」

最後の一言にお姉ちゃんは反応。
「ふぅん、待ち合わせ?誰とかしら…?」
そして人の悪そうな笑みを浮かべると、パチンと指を鳴らした。
「よし、それ乗った♪私たちを差し置いてまでシンが優先する奴の顔を拝みに行こうじゃない!」
ついでとばかりに私はレイも巻き込む。
「ね、レイも気にならない?気になるよねっ?」
レイはため息をついた。
「どうせ行かないと言っても連れて行く気だろう」
私とお姉ちゃんはにっこり笑った。
「「さっすがレイ!よく分かってる♪」」


そんなわけで、3人でシンの尾行開始!
私たちとシンの距離は、だいたい20m〜50mくらい。
シンが角を曲がったりしそうな時は、ちょっと距離を詰めるって感じで。
…あれ?
この方向って……?

「本格的に待ち合わせっぽいわね…」
お姉ちゃんも気づいたみたい。
…この先にあるのは、大きな公園。
ここの入り口とか広場のモニュメントの前とかは、友達でも恋人でも待ち合わせによく使う場所なの。
ええと、シンは……あ、いたいた。
待ち合わせの相手を見つけたのかな?
公園の入り口に走ってく。
その辺りでシンを見て反応したのは…

「あの制服…隣のP私立じゃないか?」
レイがそう言った。
「あら、そういえばそうよね…」
確かあそこって、2年生が全部仕切ってるらしいのよね。
お姉ちゃんはそう付け加える。

私たちが通ってるのはM私立。
お姉ちゃんはそう言うけど、レイとお姉ちゃんだって生徒会役員でしょ?
似たようなものだと思うんだけどなぁ…私は。
…でも問題はそこじゃなくて。
「なんか…ガラ悪そうだよ……」
私はおそるおそる口に出してみる。
シンと楽しそうに話してるP私立の学生は、3人。

一人は金髪の女の子。
スカートは短くて、制服の長袖部分を改造してる。
…でもスカートの短さはお姉ちゃんもいい勝負だから、人のこと言えない。
もう一人は黄緑っぽい髪の男の子。
なんか大人っぽいんだけど、ブレザーの前は開けてるし目つきも悪い…ような。
でもシンと喋って笑ったりしてるとこ見ると、なんかお兄さんって感じかも。
それから…3人目のこの人が一番ガラ悪そうなんだけど。
くせっ毛の水色の髪した男の子。
ブレザーの前を開けて長袖を捲り上げてて、インナーのブラウスも上の方を開けてる。

人を見かけで判断しちゃだめだけど!でも!
この3人、見るからに目立つし不良っぽいよぅ!
あ、目立つっていう点ではやっぱり人のこと言えないんだけど。
だってお姉ちゃんもレイも…特にレイは目立つもん。
それからP私立とM私立って、制服の色が蒼と紅だから正反対なの。
だから紅のシンと蒼の3人が一緒にいると…なんか凄い。
でも…

「…シン、すごく楽しそう」

あんなに嬉しそうに笑うシンって、初めて見たかもしれない。
シンはいつも明るいけど、時々ふっと陰が差すから。
…あ、4人でどこか行くみたい。
「メイリン、まだ追いかける?」
お姉ちゃんが聞いてくる。
…確かに。
シンはまだ私たちに気づいてないけど、他の3人に気づかれるかもしれない。
でも、気になるんだから仕方ないよね?
「もちろん♪」
私は笑顔で頷いた。
だって気になるもん!


また尾行を始めて気づいたんだけど。
シンってずっと水色の髪の子の隣にいる。
その水色の子も他の2人も、それが当然みたいなカンジで。
何でかな?
あ、金髪の子が別の方向に分かれた。
手を振ってるから、帰る方向が違うとか用事があるとかそんなのかなぁ?

「ねえ、なんかヤバくない?」

お姉ちゃんが周りを見回しながら呟く。
私もちょっと心配になってきた。
だって…どんどん人気がなくなっていくから。
きょろきょろと辺りを見回すうちに、裏路地にまで来てしまった。
考えもどんどん悪い方へ行く。
…まさかシン、ひどい目に遭わされちゃうとか?!
そんなことを考えていたら、いきなり後ろから声が掛かった。


「…わたしたちに、何か用?」


「「?!」」
私とお姉ちゃんは驚いて振り返った。
そこには、さっきシンたちと分かれたはずの金髪の女の子が。
「…嵌められたな」
レイがため息まじりに呟く。
えっ、もしかして気づいてたの?!
横の路地には黄緑の髪の男の子。
「ずっと後ろ付けてただろ。俺たちが気づかないとでも思ったか?」
ど、どうしよう…?
「この辺りには寄り付かないはずの紅の連中が挙ってさ〜、僕らのエリア取る気?」
前には水色の髪の男の子。

私はパニックになりかけた。
だって!
私は体術とかすごい苦手なの!!
なのにレイは臨戦態勢に入っちゃってるし、お姉ちゃんは
「そんなつもりはないんだけどね。でも売られた喧嘩は喜んで買うわよ?」
…なんて楽しそうに言ってるよ?!
ど、どうしよう?!
「や、やめて!レイもお姉ちゃんもやめてってばー!!」
もうパニック寸前。
私はどうすれば…?!
そこへ天の助けが。


「うわ?!何やってんだよ?!」


シンだ!
別の路地から走り出てきたシンは、慌てて水色の子の腕を掴んだ。
水色の子は驚いてシンを振り返る。
「シン!お前、危ないから下がってろって言っただろ!」
今度は私たちの前…その水色の子の前に出て、シンは首を横に振る。
「違うってばアウル!こいつらは俺の友達!」
「「「え?」」」
3人の動きが止まって、私は心底ホッとした。



…今日は、命が削られそうになった気分でした。

でもそのおかげで、あの3人が誰か分かった。
3人とも、P私立生徒会の役員なんだって。
でもその実、堅実そうな生徒会なんて名前と裏腹に、P私立の総代…だって。
私たちを(レイ曰く)嵌めたのも、それを狙ってる奴がいるからなんだって。
…やっぱりガラ悪いよ!
でもそう言ったらシンに怒られちゃった。
それで聞いてみたんだけど。
シンって、本当はあの3人と同じP私立に行くはずだったんだって。
でも急な都合でM私立に通うことになったって言ってたよ。
あの3人は前からの親友で、P私立ではシンも有名らしい…いろいろと。
そう言われて考えてみたら、シンってよく絡まれてるよね。
ああ見えてもレイと同じくらい強いから、返り討ちにしちゃうけど。

…そのシンは。
私たちとの約束を反故にしたからお姉ちゃんに怒られてた。
でもシンは譲らなくて、結局レイが間に入って止めてくれたんだけど。



うぅ〜ん、いっぱい書いたら疲れちゃった。
明日はもう少しシンに聞いてみようと思います。

それじゃあ皆さん、オヤスミナサイ☆









END






2004.12.24


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