『 ねえ、今さら何の用? 』
-「月と太陽」next stage/−ZERO -
C.E.71、ようやく戦火は収まった。
それが表向きだということは、誰だって知っていた。
終戦を迎えた今でも、地球・宇宙を限らず小競り合いが多い。
C.E.72、前大戦の"後片付け"が終わり、連合・ザフト共に軍備増強へ走り始めた。
一般市民の知らぬところで、双方の対立は前大戦同様に深くなる。
双方が"新たな戦争"を予感し始めたその頃。
L4宙域を中心に、ある傭兵部隊が新星の如く頭角を現した。
" GARMR&D(ガルムandディ)"
部隊といっても実際は2人。
『白いはずの翼が真っ黒に塗り潰された』フリーダムらしきMSと。
『開発元から知らぬ間にすり抜けたらしい』核エンジン搭載のMS。
極稀に他の傭兵部隊と共同線を張るらしいが、GARMR&Dは2人だけ。
たった2機のMSが、ザフト側の依頼で連合の基地を1つ潰した。
…それが始まり。
潰されたその基地には、誰1人として生き残った軍人がいなかった。
その数日後、今度はL1に派遣されていたザフト軍が全滅した。
やはり生き証人はいなかった。
瞬く間にその名は広がる。
" GARMR&Death(地獄の番犬と死を飼う者)"
彼らにはもう1つ、特徴があった。
それは『誰もパイロットを知らない』ということ。
MSならば見たことがある、知っている。
けれどそれを動かしているのが誰なのか、見たことが無い。
実際、依頼もどのように彼らへ渡っているのか。
依頼主からの接触手段はない。
情報屋から全てが渡って来るのでは、どうにも出来ない。
彼らの言葉はもちろん肉声などではなくて、ディスプレイに浮かぶ電子文字。
謎が多すぎる2人の傭兵。
なんとか正体を知ろうと躍起になる人間は多かった。
しかしどんな情報を、人を伝っても、必ず途切れてしまう。
それでも彼らを知る者はいた。
…あるジャンク屋グループと、2つの傭兵部隊。
" GARMR&D "は、彼らと接点があった。
そしてもう1つ。
彼らを知る術は、" GARMR&D "という彼らの名前そのものにあった。
「利用しようっていうなら、利用されてあげるけどね」
狂気の夢に生み出された少年。
そこにかつての愛機の面影は無い。
白い翼は、血のようにどす黒い深紅に染まっていた。
「俺たちが何のためにどう動こうと、そっちには何の権限も無いぜ」
狂気の渦の中、生き残った少年。
その身に巣食う憎悪はすでに形を変えた。
黒い炎は際限なく広がり、見えるのはただ、限りない闇だけ。
「置いて逝かれるのは飽きた」
いま一度、世に蘇ったかつての蝶。
以前の姿はすでに幻。
再び舞い上がるは、己を堕とした者たちを落とすため。
「あたしは死なない…」
過酷の中でひたすらに生を望む少女。
知ることはごく僅か、知らぬことは多々。
それでも縋った手の温もりだけは、知っていた。
「殺し合いが一番分かりやすいって」
微かな温もりを支えに、蒼に焦がれた少年。
彼はいつも黄泉帰りの翼を仰いでいた。
その感情の記憶に、たった一つの嘘も存在出来ない。
「アタシは貴女になれないの。でもね、貴女に勝ったのよ?」
自らの姿を、名を偽った少女。
偽りを売り世界を動かし、知らぬ人々に讃えられ続けた。
勝ったものは、偽らなかった心。
「そこまで愚かではありません」
確定要素の無い、不安定な生を受けた少年。
彼もまた、人の愚かさをよく知っていた。
それ以外を与えたのは、後にも先にもただ1人だけ。
「大丈夫。俺も一緒だよ」
喪失を新たな半身で埋めた少年。
紅き蝶は己を護り、表裏のように重なり合う。
求める光は別の色で、そんな彼らを愛した者たちがいた。
「ちょっと〜!シンってば!アタシを無視しないでよ!」
ほんの少しの怒りを含んだ、少女の声。
「だって、レイが"知らない振りしてろ"って釘刺して来たし。隊長に何か訊かれるのも嫌だし」
それに返す、どこか不貞腐れたような『シン』という少年の声。
「…確かにそうだけど」
少女はむっと言葉に詰まる。
「ミーアはいいのか?基地の方にいなくて。仮にも婚約者」
シンはその少女を『ミーア』と呼んだ。
ミーアはシンの言葉にきょとんと首を傾げる。
「アスランなら大丈夫だと思うわ。あの人って、なんか女の人に奥手みたいだし。
格好いいし良い人だけど、アタシの想い人はあの人じゃないもの」
「あれ、違ったの?」
同じくきょとんとしたシンに、ミーアはしてやったりと笑う。
「憧れの人なのは変わらないの。でもね、アタシが演じてる"オリジナルの人"が恋焦がれた方に会ったのよ!
もうホント、信じられない!アタシがこんなことしてなかったら、一生かかったって会えなかったわ!」
星の瞬く空を仰ぎながら、ミーアは嬉しそうに話す。
彼女がそうして話す人物をシンは知っていた。
…あの2人だ。
「" GARMR&D "?」
ミーアは視線をシンへ戻し、頷く。
「そう!まさかお近づきになれるなんて思わなかった…!」
シンは何も返さなかった。
そこへカチャリと扉の開く音がして、2人だった部屋が3人になる。
「…ミーア。もっと声量を下げろ」
不機嫌な様子を隠しもせず、彼女へ注意を促す少年。
涼しい蒼の眼を不快そうに細めている。
ミーアもその少年の言葉にムッと唇を尖らせた。
「余計なお世話よ。アタシはレイみたいに寡黙ではいられないの」
『レイ』と呼ばれた少年は反論せず、別の用件を出す。
「ギルが呼んでいる。明日の演説の件に変更が出たそうだ」
「えぇ〜…あんな長い文章、まだ書き直すの?」
「俺に聞くな。早く行け」
「はぁい。じゃあシン、またね♪」
「うん」
パタリ、と扉が閉じて、部屋の中の人数はまた2人になった。
END?
作成日は 06.1.20 らしいです。
この頃考えていた設定のシンは、二重人格でした。
07.6.11
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