「…嘘でしょ……シャニ…何で……」



視界の中でフォビドゥンが大破。

途端に頭の中が真っ白になる。

キラは放心状態に近かったが、染みついた戦闘技術が勝手に体を動かして敵の攻撃をかわしていた。






ー 閃光 ー







先程からずっとこちらを伺っているような、白い羽を持つ機体。

カガリは本能とも取れる感覚で"それ"に乗っているのが誰なのか気づいた。

『キラ…お前キラだろっ?!』

別れ際に事実を教えてくれた今は亡き父、ウズミ・ナラ・アスハ。



"事実"

それはナチュラルである自分とコーディネイターであるキラが血の繋がった兄妹である事。






クサナギ、エターナル、アークエンジェル。

連合軍とドミニオン。

ザフト軍部隊。

そして…それぞれの切り札。



『オルガっっ!!!』

突然響いてきたクロトの叫び声。

それに我に返ったキラが反射的に見たモニター。



映っていたのはフリーダムの兄弟機ジャスティスと、"ミーティア"と呼ばれる装備の巨大なビームソード。



『…っ!!てめーらは死ぬんじゃねーぞっっ!!!』



眩い閃光の後に残ったのは、大破したカラミティとオルガの遺した言葉。







『てめえっ!!』

猛スピードでジャスティスに向かっていくクロトの乗るレイダー。








「…オルガ……」

うわごとのようにキラは呟いた。

「…シャニ……」

ゆらり、とキラの意識の中で炎がちらついた。

・・・"憎しみ"と言う名の、全てを焦がす黒い炎が。





『キラ…お前キラだろっ?!』





・・・"彼女"の声が聞こえたのはそんな時。










「シャニを殺したのは…カガリ…?」

自分にしか聞こえないくらいの声でキラは自分に問いかけた。



実際にはデュエルだが、原因を作ったのは彼女の乗るルージュとバスター。

「…いいよ、全部落とすから……」



そう呟くと、キラは何も言わずにビームソードを引き抜いてルージュへと向かった。

『?!キラっ?!!』

カガリはそう叫ぶが避ける暇などなかった。

・・・フリーダムのソードが突き抜けるはずだった。



「『!!』」



しかしルージュに突き立てた剣は、もう一つ別の剣に押さえられていた。

「…邪魔しないでよ、アスラン」

ルージュの前に立ちはだかったのは、レイダーを振り切ったジャスティスだった。



『キラっ!やめろっっ!!』

映像回線が繋がっているらしい。

フリーダムのモニターにカガリとアスランの姿が映った。

『悪いキラ!そいつ逃がしちまった!!』

ジャスティスを追いかけてレイダーもやってくる。

「大丈夫だよ。それよりクロト、僕が押さえてる間にドミニオンに戻って。燃料ヤバイでしょ?」

目の前の二機など完璧に蔑んで、キラはクロトにそう伝える。

クロトは少し迷う素振りを見せたが激戦ということもあり、キラの言葉に従った。







『お前っ、ルージュに乗ってるのが誰か分かってるんだろっ?!』

なおも聞こえてくるアスランの声。

・・・うざったいから映像の方は切断した。

「…分かってたら、何?」



『『!!』』

声だけでもカガリとアスランが息を呑む様子が想像できる。

「兄妹…なんでしょ?でもさ、だから何?」

キラは淡々と言葉を並べる。

「君たちは僕の敵、僕は君たちの敵。…それ以外の、何?」

『『…っ?!』』



アスランとカガリは言葉を失くした。

目の前にいる彼は、本当にあのキラなのだろうか?

「…アスランは、僕に何を期待してるの?」

キラの声が響いてきた。

「トリイはちゃんと動いてるけど。でも"あの頃の僕"を探してるなら期待するだけ無駄だよ」

『…っ!』



「それに、僕がコレに乗る原因を作ったのはカガリ、君たちオーブなんだから」

『…っ?!』

カガリは目の前が見えなくなりそうなほどのショックを受けた。

・・・これが"キラ"?

・・・友達を守ろうとして必死になっていたキラ?

・・・"自分以外の誰かのために"たくさん傷ついて戦ってきたキラ?



どれだけの時間が過ぎたのか。

ジャスティスもルージュも、あまりのキラの変わり様に"外"への警戒を怠ってしまった。



『滅殺っ!!』

突然受けた大きな衝撃。

『うわあっっ!!!』

大きくはね飛ばされたジャスティス。

『っ…アスランっ!!!』

目の前で起こった出来事に悲鳴を上げるカガリ。



「クロト、早かったね」

モニターで確認した機体は、一度補給に戻ったレイダー。

『ああ。アズラエルに何か言われたけど無視』

キラは"え…"と妙な相槌を打った。

「…って事は……」



ビーッっと音を立ててMS以外からの通信を受信する。

『まったく…君たちにはピースメーカー隊の援護を命じたんですけど?』

聞こえてきたのはキラたちの本艦、ドミニオンに乗るブルーコスモスの盟主の声。

『うわっ、やっぱり文句言ってきやがった!』

クロトは周りのシグーやゲイツを撃ちながら舌打ちする。

そう言えばそんなことを言われたな、とキラは思い出した。

しかし周りを見てもメビウス編隊は確認できない。

「…で、そのピースメーカー隊はどうしたんですか?」

『お前たちがそちらへ向かわないから一度引き上げさせたんだ!』

厳しい口調で返ってきたのはドミニオン艦長の声。

キラはふっと笑った。

「じゃあそのまま待機させといてください。僕もクロトもそんな余裕ないんで」

『あいつらを殺したMSをぶっ壊すんだよ!!』




事実、キラもクロトもその事しか考えられない。

・・・目の前で、一番傍にいた仲間を殺されたのだから。





回線の向こうで盟主と艦長の二人がため息をついている様子が目に浮かぶ。

キラは言った。

「僕たちの周りにいる他とは違うMS四機。それ全部落とせば援護なしで核が打てますから」

『…何故そう言い切れる?』

艦長の疑いを含んだ声が返ってくる。

キラはジャスティスとルージュに向き直った。

「だってNジャマーキャンセラー持ってるジャスティスを倒せば第三勢力の戦力は半減。
で、エターナルもクサナギも自分たちのことで手一杯」



更にキラは続ける。

「ジャスティス以外でそこそこ機動力の高いルージュとバスターを倒せば更に半減。
アークエンジェルはドミニオンで手一杯」

キラたちの本艦ドミニオンは、キラが以前乗っていたアークエンジェルと交戦中。

同型艦なので全ては艦長の力量で勝敗が決まるだろう。

・・・どちらの力量が上か。

どちらの艦長も見てきたキラには一目瞭然の事だ。

「デュエルはザフトだけど、確か隊長クラスのはずだから倒せば倒しただけ混乱するハズだし」

今度は盟主と艦長が頭を抱えている様子が目に浮かんだ。

こう言って話している間にもあちらこちらからビームやミサイルが飛んでくる。

・・・その主な狙撃者はジャスティス。



『くそっ!!』

アスランは舌打ちした。

ミーティアを装備しているので火力は戦艦並、射程範囲も相当広くなっている。

・・・しかし砲火を集中させているフリーダムとレイダーには一つも当たらない。

『アスラン!後ろっ!!』

カガリの声に間一髪でハンマーをかわす。

ルージュはレイダーに向かってビームを連射するが、やはり当たらない。

『どこ狙ってんだよ、バーカ!』

『くっ!!』

・・・おまけに両機共にフリーダムとレイダーに近づくことも出来ない。



キラは二刀目のビームソードを引き抜くとジャスティスへ向かった。

再び両機のソードが甲高い音を立てる。

そのままの体勢でキラは艦長にこう言った。

「とにかくそっちは第三勢力の三隻をこっちに向けないようにしてください。特にエターナルは」

ジャスティスの動きを封じ込めたまま、キラは辺りを見回す。



ザフトと交戦中のエターナル。

ザフトの最新鋭艦だっただけにその装備は凄い。

それに比べ、クサナギはアストレイたちに守られて何とかなっているようなものだ。



数秒の沈黙の後、艦長は諦めたようにキラに言った。

『…分かった。ならばそちらも早く片付けろ』

キラは笑って返した。

「当然。あ、あとエターナルは出来れば最後にしてください。ミーティア奪えるかもしれないから」

『……最後まで残るかは運次第だな』

プツリ、と通信が切られた。






『アスラン!加勢するっ!!』

フリーダムに向けて高圧レーザーが撃たれる。

・・・もっとも、それは盾に防がれて当たることはなかったが。

『ディアッカ?!』

アスランの声に、キラは冷たい視線をバスターに向けた。

・・・フォビドゥンはあれも無効化してたっけ……









・・・悲しみは全て憎しみへと姿を変えて、"種"が弾けた。









『てめえはさっき僕を撃った奴っ!抹殺っっ!!』

『くっ…!!』

怯んだバスターの後方からデュエルがレイダーに向けてミサイルを放つ。

『貴様らにやられてたまるかっ!!』

『イザークっ?!』

デュエルの姿に、キラの表情は一層悲痛で厳しいものへと変わる。

「…シャニ……」





一瞬隙が出来たフリーダムにカガリは銃を向けた。

・・・けれど、やはり引き金を引けない。

ルージュの一瞬の躊躇を、キラは見逃さなかった。

「今撃ったらアスランに当たっちゃうよ?」

『っ?!』

ほんの一瞬の間に、フリーダムはジャスティスとの向き合い方を変えていた。

・・・結果、カガリが狙っているのはジャスティスの無防備な背後。

『カガリ!逃げろっ!!』

アスランは必死に叫ぶが、カガリはキラの行動に大きな衝撃を受けて動けない。

キラはモニターに目をやる。

「クロト、そっちはよろしく。その二機…絶対に落として」

『言われなくてもなっ!撃滅っっ!!』





キラの冷たい声に、アスランは寒気を感じた。





・・・目の前にいるのは"キラ"じゃない。

・・・……黒い翼を持つ、死神。








当分、ルージュは動く気配がない。

キラは全ての意識をジャスティスに向ける。















"キラ"と言う名の"死神"は冷たく微笑んだ。











「ばいばい、アスラン」











ビームソードがかち合うほどの至近距離。








キラは全ての主砲をジャスティスに向けた・・・

















END