・・・紅い花火が一つ。
赤い花火が一つ。
・・青い花火が一つ。
緑の花火が一つ。
四つの光を後にして。
白い翼と黒い翼が再び舞い上がった。
向かう先は"永遠"と言う名の星の船・・・
-白虹(はっこう)-
『キラ、何するつもりだよ?』
エターナルへと向かうキラにクロトは尋ねた。
もう周りに敵のMSはほとんど見当たらない。
・・・それは当然だろう。
向かってくるザフト軍は数で連合に劣る。
戦いを阻止しようとしている第三勢力は、その中心戦力をたった今…失った。
「アスラン、応答して下さい!アスランっっ!!」
エターナルのブリッジ。
ラクスの悲痛な叫びが響いていた。
「カガリ……」
クサナギの司令室。
キサカが言葉を失っていた。
クロトの問いにキラは答えた。
「ミーティアを奪うんだよ。アレが装備されてる辺りって死角になってたし」
・・・確かにアレを奪えば戦艦並の砲火が得られるだろう。
しかし戦艦に"装備"されているものを奪えるのだろうか?
それを聞いたキラは笑った。
「コンピューターに入ればこっちのものだよ。あ、でもフリーダムじゃ解析容量が足りないかも……」
・・・この方面に余り興味がないクロトにはさっぱりだ。
キラは何を考えたのか、ドミニオンに通信を入れた。
『クロト、いちおう援護しといてくれる?』
『了解。けど早く終わらせろよ』
「機体損傷率30%を越えましたっ!!」
「ゴッドフリート一番、二番、修復不可能!!」
ドミニオンと交戦中のアークエンジェル。
そのブリッジではクルーたちの焦りの声が飛び交っていた。
「推進力はっ?」
「75%に低下していますっ!」
その答えにマリューは唇を噛みしめた。
焦りを隠せない。
・・・そんな時だった。
「バスター!応答してください!!」
MS管制官であるミリアリアの声が響き渡った。
「お願い!応答してっ!!」
・・・涙を堪えながら。
「ディアッカっっ!!」
彼女の頬を涙が伝う。
・・・まだ生きているかもしれない。
けれど、それを確かめる暇などあるはずもなかった。
・・・そんなアークエンジェルを、静かな瞳で見つめる少女が一人。
「アーク…エンジェル……」
フレイだった。
今はドミニオンで通信士を務める。
アークエンジェルでは、ただそこに"居る"だけだった。
「…!」
宇宙なので燃えはしないが、ボロボロに被弾したアークエンジェル。
それを見つめていると外部通信が入った。
「…キラ?」
通信元はフリーダム。
・・・しかし何やら容量が大きい。
フレイは空いている回線を開く。
『あ、フレイ。あのさ、今空いてる回線いくつある?』
何の話か分からないが、とりあえず調べてみる。
「今こうして使ってるの合わせて三つ空いてるわ」
『三つか……ならいけるかな…』
回線の向こうでキラが何やら呟いている。
『じゃあ今から送るデータ、解析してくれる?』
フレイは少し考えた。
・・・戦闘中に言ってくるほどのデータとは何だろう?
フリーダムに故障でも起きたのだろうか?
けれどそれならキラが全て自分で片づけてしまうだろう。
「…一体何のデータ?」
そう聞いて返ってきた答えはとんでもない代物だった。
『戦艦エターナルの内部データだよ。一部だけどね。…出来る?』
もの凄いデータ量になるわけだ。
そして内容も他とは比べるに至らないほど難しいのだろう。
・・・しかしこの辺り、フレイには意地があった。
「バカにしないでよ。確かにキラよりは劣るだろうけど、私だって工学科専攻だったんだから」
同じカレッジに通い、同じ授業を受けていたのだから。
回線の向こうで、キラが笑ったような気がした。
『じゃあ、五分後にもう一度連絡入れるから。それまでに出来るだけやってね』
・・・望むところ。
フレイは次々と送られてくるデータに向き合った。
「ローエングリン照準、アークエンジェル!」
ブリッジに響くナタルの声に、フレイは反射的にモニターを見た。
キラとの会話からまだ五分も経っていない。
しかし戦場ではたった一秒が命がけ。
モニターで確認したアークエンジェルは、先程よりも被弾していた。
・・・ああ、落ちるんだな…
漠然とした言葉がフレイの脳裏に浮かんだ。
・・・ふと思い浮かぶのは婚約者であった"彼"。
「撃てーっ!」
放たれた光の矢を見つめながら、フレイはそっと呟いた。
「…さよなら、サイ……」
・・・私はキラと生きるわ…
ドミニオンよりずっと遠い場所。
キラも同じくアークエンジェルを見つめていた。
・・・大きな天使の翼が、散る。
キラはフレイに回線を繋いだ。
そして送られてきたのは予想以上に解析されたデータ。
キラはふっと微笑んだ。
・・・これなら問題はない。
もう一度アークエンジェルへと目を向ける。
・・・もう翼が消えてしまったかもしれない場所へ。
「…ばいばい、みんな……」
その言葉を誰かが聞き止めることはなかった・・・
END
【白虹…白い霧の中や月の光で見える白い虹】