戦争終結から約半年。
一度は壊滅状態となったオーブも以前と同じ活気を取り戻しつつあった。

「あれ、フレイ。今日は買い物しないの?」
「失礼ね。私はそんな買い物魔じゃないわよ!」

今日は晴天、絶好のデート日和。
キラとフレイは久々に街を散策していた。



戦時中に連合・ザフトの双方と関わりがあったキラとフレイはお互い多忙。
仕事場で会う事はあっても話も出来ない状況だ。
それを見かねたキラの両親と"オーブ代表者"が2日だけとはいえ休暇を取ってくれたのだ。
これは感謝しなくてはバチが当たる。

「…でもよく休暇許してくれたよね」
「あたりまえじゃない!あれだけ働いてるんだから」


他愛無い会話を交わしながら適当に歩く。
端から見ればあまりデートらしくないだろう。
けれど自分たちで作り上げた"平和"をその身で感じるには一番いい。



二人でこうしてこうしていられる事が、二人にとって何よりも大切。






-頑な壁の向こう側-







以前と同じ活気に満ちた街。
しかし至る所に戦争の傷跡が残っている。
それは目に見える物だけでなく、人の心にも。

『トリイ!』

空へと舞い上がっていたトリイがフレイの肩に止まった。
それを手に移らせてフレイは微笑む。
「アナタの作り主にもちゃんと挨拶しないといけないわね」
そう言ったフレイにキラは微笑んだ。
「みんな忙しいからね。でもきっと喜ぶよ」

トリイに視線を戻したフレイだが、やはり不安が渦巻いていた。


戦時中、自分はコーディネイターをどうしようもなく憎んだ。
それこそ取り返しがつかなくなるくらいに。
隣にいるキラをも憎み、彼の心を許されないくらい傷つけた。
自分の居場所がなくなってもおかしくなかった。
・・・けれどキラは自分を見捨てようとせずに、いつも傍にいてくれる。
だから今はコーディネイターもナチュラルも同じだとはっきり言える。
このトリイを作ったキラの親友の人にも会って、謝らないといけない。

でも、その時に私は、同じように接する事ができるの?




いつの間にか街外れにある広い公園まで来ていた。
仕事が終わった後にキラがよく来る場所。
そしてその彼を、フレイがよく探しに来る場所。

『トリイ!』

突然、トリイがフレイの手から飛び立った。
フレイは慌てて追いかけるが、あまり離れていない場所でトリイは別の人物の手に止まった。

「あ、お前ら!偶然だな!」

その人物はキラとフレイに気づくと手を振った。
・・・その後ろにはもう一人、よく見知った人物。
あとから駆けてきたキラは目を丸くした。

「カガリ!…に、アスラン?」

トリイが止まったのは現オーブ代表に近いカガリ。
そして一緒に居たのは、キラの親友であるアスラン。

「カガリは分かるけど…アスラン、プラントにいなかったっけ?昨日…」
久々に会った事を喜びつつも、キラは首を傾げた。
つい昨日、自分はアスランと回線を通して仕事上の対面をしていた。
その疑問にアスランは苦笑する。
「強制的に休みを取らされたんだ、ラクスに。カガリもグルになってたらしいけど」
「あはは、ラクスらしいね。そうでもしないとアスランは休まないから」


楽しそうに会話する二人の少し後ろでフレイは固まっていた。
薄々その理由を感づいていたカガリだが、見かねたのか焦れったかったのか、声を掛けた。


「フレイ、何やってんだよ。そんなとこに突っ立って」


カガリの声にフレイは一瞬、体を強張らせた。
どうしようか、何を言えば良いのか分からなかった。
そんなフレイにカガリは小さくため息をついたが、誰も気づかない。

『トリイ!』

大空を羽ばたいていたトリイが、フレイの肩に止まった。
「えっ…」
トリイの動向など頭になかったフレイは戸惑って、キラとトリイを交互に見つめた。
「そうだ、二人とも初対面だったよね」
キラがそれぞれに問いかけると、その声にフレイもアスランも頷いた。

「彼女はフレイ・アルスター。工業カレッジも一緒だったんだ」
キラはフレイの事を敢えてそう紹介する。
"戦争"という言葉はもう使いたくないから。

「彼はアスラン・ザラ。幼年学校からの幼なじみ」


フレイの記憶がフラッシュバックした。

果てしなく黒い宇宙、たくさんの戦艦、連合、ザフト、戦争。
・・・そして、紅い機体。


「…フレイ?」

キラの声にフレイは我に返った。
私は今、何を考えてた…?

カガリはフレイをじっと見つめていた。
自分が彼らと一緒に戦っていたのはごく短い期間。
けれどキラを無理に戦いへ駆り出そうとしていたあの言動。
フレイの、あれだけは許せなかった。


「アスラン・ザラです。よろしく」
「…!」

差し出された手に、フレイは一瞬躊躇した。
その手と、相手の顔を見比べる。
ふと視線を少しずらすと、カガリが見ているのに気づいた。

それが気に食わなかった。
同時に、自分の決意はこんなものだったのかと、自分が情けなく感じた。
私は…あの時に、戦争が終わった時に誓ったのだから。


フレイはアスランの手を取った。
「私はフレイ・アルスター。こちらこそよろしく」

あの時の決意は、誓いは、何があっても守ってみせる。
それが、キラの傍に居る事を選んだ私の道。


握手を交わした二人に、キラは嬉しそうに微笑んだ。
その様子を見ていたカガリもまた微笑むと言った。
「よし、何か飲み物買ってくる」
「あ、じゃあ僕が…」
「いいからいいから!フレイ、手伝え!」
「えっ、ちょっと…!!」
あっという間に話を進めたカガリは、フレイの手を掴むと走って行った。

「…どうしたんだ、カガリ」
「さあ…あんなに急がなくてもいいのにね」
『トリイ!』




公園の脇にあった自販機まで一気に突っ走ってきたカガリとフレイ。
連れて来られたフレイは完全に息が上がっていた。

「いきなり何するのよ、まったく…」
オーブのお姫様にあるまじき行為ね!と付け足してやる。
言われたカガリも嫌みを受け流せる性格ではない。
「姫じゃなくて結構!…せっかく人が見直してやったのに」
性格悪いのは変わらないのか?と続けてやる。
フレイは眉をひそめた。
「…見直す?」

怪訝な顔で見てくるフレイを横目に、カガリは自販機と向かい合う。
プラスチックの板に自分とフレイの姿が映っていた。

「相変わらず性格悪いみたいだけど…考え方は変わったんだな」

カガリが何の事を言っているのか、フレイにはすぐに分かった。
コーディネイターを憎んでいた頃の自分を、カガリは少なからず知っている。

「表面だけでアスランと握手したんじゃないんだろ?」

憎しみや悲しみは消える事はない。
薄らぐ事はあっても、消える事は滅多にない。
・・・だからカガリはフレイを疑った。
表面だけ繕う事ならば、誰にでも出来るから。

フレイはカガリを睨んだ。

「馬鹿にしないで。私はキラと一緒に、キラのために変わるの」

確かに父親を殺された、あの憎しみが残っていないと言われれば嘘になる。
けれど、そんな事を言っていては戦争は終わらない。
私はそれをキラに教えられた。
今ならあのピンクのお姫様が言っていた、"私と貴女は同じ"という言葉が分かる。

悲しみを想いに、憎しみを思いやる優しさに変える術。
キラはそれを教えてくれた。


「オーブのお姫様が心配する程、私は馬鹿じゃないわよ」

そう言って微笑むフレイに、カガリも笑った。

「キラを不幸にしたら、姉である私が絶対許さないからな!」
「望むところよ!」




そうよ、私は変わったの。
たとえ周りからそう見えなくても、変わってみせる。

キラのおかげで私は変わった。
だから次に私が為すべき事は、彼への恩返し。

そして、彼を守る事。

私のこの想いで、彼を守ってみせる。














END






フレイお誕生日小説です。
私は反アスカガですが、ここは敢えてこの組み合わせで。

2004.3.15