ここは連合軍の戦艦内部。
戦闘も一段落して、MSパイロット達はそれぞれの場所でくつろぎ始めていた。





ー 歌 ー






「あ、いた!」

ようやく捜し人を見つけだして、キラはパッと顔を輝かせた。
その捜し人はいつものようにソファに座って音楽を聴いている。
キラは彼の後ろへ回り込んだ。

「シャーニ!」
声をかけたが返事はなく、そして気づいた様子もない。
目を閉じているのでキラがこの部屋に入ってきたことにも気づいていないだろう。
「シャニ!!」
もう一度呼んでみるがやっぱり気づかない。
MDをイヤホンで、しかも最大音量で聴いていればそれも当然だろうが。
「……」
キラは半ばムッとした表情でシャニを見つめた。
・・・ただでさえ最近は戦闘が多くてかまってくれないのに。

「シャニってば!!」
キラはソファの後ろからがばっとシャニに抱きついた。
どうも不機嫌になると行動がいつもと全く違うものになるらしい。
・・・二重人格だろうか???

「…キラ?」
そこまでしてようやくシャニはキラの存在に気づいた。
しかしその遅すぎる反応にキラは抱きついたままぷいっと顔を背ける。
「僕以外にこんなことする人いないでしょ」
シャニを捜すのも僕くらいだし、と後ろに付け加える。
・・・どうやら随分と気分を害しているらしい。
シャニはため息をついた。

・・・キラは機嫌が悪くなると直るまでが長い。
さてどうしたものかと考えたが、イヤホンを取りつつも流しっぱなしにしていた音楽がそれを容易にした。

「あれ?その曲…」
さっきまでは耳に入ってなかったのか。
キラはその時になって初めて、流れてくる曲が自分の知っているものだと気づいた。
「キラの知ってる曲?」
「うん。…シャニ、もうちょっと音量下げてくれない?」
「何で」
「何でって…普通こんな大音量で聞けないよ」
「ふーん…」
「…もういいよ!勝手に下げるから!!」
ぱっとシャニの手からMDプレイヤーを奪い取ると、キラは音量を三段階ほど下げる。
・・・これでもまだ随分と大きいのだが。
そのついでに曲を最初から聴くために巻き戻した。




流れてくる曲は確かにキラのよく知る曲。
何かを考えているわけでもなかったが、キラの目は遠くを見ていた。
・・・彼しか知らない、彼だけの過去の思い出を哀しげな目で。


少々置いてきぼりを喰らったような感じを隠しつつ、シャニはそんなキラを黙って見つめていた。
しかしキラは聞き終わっても哀しげな目のまま。

「…戻れない時間を彷徨ってきた?」
シャニはプレイヤーを返そうと伸ばされたキラの手を掴む。
・・・そうでもしなければ彼が消えてしまいそうで。
キラは目を丸くしたがふっと微笑んだ。
「大丈夫だよ。今の僕の居場所はここだから…」
哀しげに微笑みながらキラは続ける。
「…よく歌ったんだ、この曲。軍に入ってから歌わなくなったけど」

きっと心のどこかに場違いだと思う気持ちがあったのだろう。
・・・歌を歌うことは戦場には不要だと。




シャニは黙って聞いていたがおもむろに口を開いた。
「キラって歌うまいの?」
いきなりの問いにキラは戸惑った。
「え?えーと、下手じゃないと思うけど…」
・・・シャニはいつもそう。突然要点の違うことを言ってくる。
「そう。じゃあ歌ってよ」
「は?」
「下手じゃないってことは上手いんでしょ?聞いてみたい」

キラは再び目を丸くした。しかし驚きよりも喜びの方が大きくて。
・・・歌うことを否定されるのが怖くて歌わなかったのに。
"歌って"と言ってくれたのがシャニ、というところもキラにとっては大きいらしいが。




「…でもここで歌うのはなんかヤだな」
「俺以外誰もいないよ?」
「そうだけどさ。ここ、窓も何もないじゃない」
ぐるりと部屋の中を見回してキラは顔をしかめる。
シャニは他に何が不満なのかと首を傾げた。
「せめて外が見える場所がいいな」
「……」
・・・戦艦の中でそう言うことをいうのはキラぐらいだろう。
戦争の最中ということを考えるとかなり贅沢な事ではなかろうか?
そんなわけでシャニはまた少し考え込んだ。
「じゃあ甲板にでも出る?」

・・・ザフト軍を撃退したばかりだというのにこの人は何を言い出すのか。
しかしキラはこの考えに1、2もなく同調した。
「あ、いいねソレ♪他に誰もいなさそうだし」
・・・本音を言うと、シャニ以外の人に聞かれたくない。
この戦艦の中でキラが心を開いている相手はシャニ一人だけ。
そしてシャニもまた、傍に近づける人間はキラ一人だけ。








風なびく空の下。
キラの美しい歌声が響いた・・・










END





過去キリリク。

07.6.11