「あーあ、どこ行ったんだろう?」
ここは連合軍所属艦・ドミニオンの中。
十分ほど前からキラはあっちへこっちへと歩き回っていた。
何故か?
・・・かって知ったる艦内ではあるが。
やはり捜し物が小さいと、そう簡単には見つからない。
「トリイ〜?…もう、最近捜してばっかりだよ……」
ー 過去と日常と ー
艦内の半分はもう探索し終えたキラ。
しかしここの所、毎日それが続くので飽きていた。
「…そういえばシャニも見つかんないや……」
もう面倒になってきたので近くにいる人に聞いてみることにした。
・・・めんどくさがりはシャニの影響だろうか?
運良く整備士の一人と出会ったので聞いてみた。
「すみません、トリイ見ませんでしたか?」
性格の良さ(?)と外見の可愛らしさで人に嫌われないタイプのキラ。
整備士は愛想良く答えた。
「ああ、またお探しなんですか?少し前に格納庫で見かけましたよ」
そんなわけで、キラは礼を言うと格納庫へ向かった。
『トリイ!』
格納庫に入ると、どこからか捜し物であるトリイの声。
そしてバサバサと飛ぶ音。
キラはその音の方向へ足を向けた。
『トリイッ!』
ようやく本体を見つけ、キラはため息をつく。
「まったく、どこ行ってたんだよ…」
時間の無駄、というわけではないが疲れる。
見つけた時点で既に二十分は経っているだろう。
「…そいつならずっと俺の周りうろついてたけど……」
しかし、もう一人の捜し人を見つけた。
「あ、シャニ!そうだよ!シャニもいきなりいなくなっちゃうから…」
キラの問いにシャニは相変わらず眠そうに答えた。
「…何かフォビドゥンのシステムがどうとか言ってた……」
「ふ〜ん…」
適当に相槌をうったあと、キラはふと気づいた。
「あれ?ひょっとしてトリイ、君いつもシャニのとこに居たの?」
よくよく思い出してみると、昨日も一昨日もその前の日も、トリイはシャニと一緒に現れた気がする。
「なんだ。じゃあシャニを捜したらトリイもそこにいるのか」
一人納得するキラ。
「けどアスランもどうせならトリイの居場所を確認できるシステム造ってくれれば良かったのに」
「…アスラン?」
ふっとシャニの目つきが変わった。
「幼年学校での親友だよ。トリイをくれた人」
キラの過去話を初めて聞いた。
・・・しかし何となく気に食わない。
そんなシャニの雰囲気を察知したのだろうか。
キラは自分の人差し指をシャニの口に当てて二の句を塞いだ。
「でもそれは昔の話。思い出に嫉妬しないでよ」
そう言ってキラはくすりと笑った。
「ほら、前に言わなかったっけ?ザフトのMS部隊に知り合いが居るって。その人がアスラン」
「…ふうん……」
興味があるのかないのか、シャニは気のない返事をする。
しかし何か引っかかるものがあった。
「…それって赤いMSの奴?」
・・・あまり敵を選り好みしないキラが選んで戦うMS。
キラは笑って肯定した。
「そうだよ。戦場で偶然会って、敵同士だって分かったときに決めたから。"アスランは僕が撃つ"って」
・・・"次に会ったときは撃つ"
それはアスラン、君も言ったよね。
シャニはあまり納得していないようだった。
何事にも関心を持たないシャニだがキラに関することだけは別だ。
「……それだけ?」
疑問符を立てた彼に、キラは軽く口づけした。
「それだけじゃないよ。アスランを撃つって事は今の僕を証明するって事だから」
アスランは平和だった頃に生きた自分の証でもある。
・・・けれど今、自分が必要とするのはシャニの存在だけ。
「だからアスランだけはシャニが殺しちゃだめなの」
・・・昔の自分を切り捨てるために。
シャニは黙って聞いていたがあまりよく分からなかったらしい。
出た結論といえば、
「…キラって以外と独占欲強い?」
「嫉妬してたシャニに言われたくないよ」
ちなみにこの二人、人目をはばからずにこんな話をしている。
しかし誰も聞き耳を立てようとしない。
否、聞きたくても聞けないのは聞いた後が恐ろしいからだ。
・・・何を考えているのか分からないシャニ。
・・・可愛らしいが考えることは時に悪魔じみるキラ。
二人に共通するのは、怒らせると明日の日を見られなくなるということだ。
シャニはキラの肩に乗っているトリイを指差して話を元に戻した。
「…なら何でこいつ必死に捜してんの?」
キラは"ああ、そのこと?"思い出したように答える。
「トリイがいなくなるとちょっと不便だから」
「?」
ペットのようなロボットに何が"不便"なのか。
キラはけろりと笑って続けた。
「実はトリイに小型カメラ内蔵してるんだ。ほら、偵察とか楽になるでしょ?」
・・・他の人間が聞いたら顔を青くしそうだ。
だがシャニの関心は全く別の場所に向いている。
「…じゃあ何で捜したりしてたの?」
カメラで周りを見渡せば、その本体がどこにいるか分かるはずだろう。
その問いにキラは苦笑した。
「あ〜、戦艦ってどの階も同じ構造してるでしょ?どの部分にいるのか分かんなくて」
「ふ〜ん…じゃあ発信器付けとけば?」
「そうするよ」
これが二人の日常。
END
過去キリリク。
07.6.11