今日は特別な日。
他の人には関係ないかもしれないけど…。
でも僕にとってはとても大切な日。





-約束-






「ねえイザーク、本っ当に欲しいものないの?」
キラは今日、何回目かしれない問いをイザークにまた問いかけた。




ここは珍しく平穏なヴェサリウス艦内。
・・・ちなみに今日は八月八日。キラの想い人イザークの誕生日だ。

この何日か前からキラはイザークに欲しいものが何か聞いてきた。
しかし帰ってくる返事はやっぱり今回も同じ。

「別にないと言っているだろう。何回目だ…」
イザークは隣にいるキラを呆れ顔で見つめた。
戦時中というこんなご時世に欲しいものもあったもんじゃない。
そうイザークが言うと、キラはムッとした様子で言い返した。
「こんなご時世だからじゃない!イザークだって願い事の一つくらい持ってるでしょ?」



今日は戦闘区域を脱しているため出撃指示はない。
だがそれもきっと今日だけ。
明日にはまた戦闘に出ることになる。
どれだけ傍にいることを願ってもそれが叶わずに散ってしまうかもしれない。
「明日、僕が死なない保証はどこにもないよ…」

イザークは強いから大丈夫だけど、とキラは付け加えた。
しかしその眼には儚くも強い、悲しみと不安の光が宿っている。

イザークはそんなキラを見つめていたがふっとため息をつくと言った。
「…それなら一つだけ欲しいものがある」
厳しい現実を突きつけるキラに対する…いや、相手がキラだからこそ言うこと。

キラは『欲しいもの』と聞いてパッと表情を変えた。
「ホント?!何?」




イザークはキラの頬にそっと触れた。
「"約束"だ」
触れられた手を握り返して、キラは何のことか分からず聞き返す。
「…約束?」
イザークは頷いた。
「来年のこの日に、お前が生きているという約束だ」
・・・こんなご時世だからこそ出来る約束。

キラは少し考えていたが矛盾点に気づいた。
「…それ、イザークは約束してくれないの?」

『こんなご時世だからこそ』
確かに自分はそう言ったが、どう考えてもこれは一方的なもの。
・・・そして一方的であればあるほど哀しい約束。
しかしイザークはふっと微笑んだ。
「お前が無茶をしない保証はないだろう?」

そう言われてキラはうっと詰まった。
「……そうかもしれないけど…」
今までに幾度もキラは無茶な戦い方をしてきている。
そこを何度イザークに助けられたか分からない。
・・・そう考えると自分は『無茶をしない約束』をされると絶対に守れそうにない。



そんなわけでキラは仕方なく折れた。
今日はイザークの誕生日だし、何より論議でイザークに勝てるわけがない。
そのかわり…
「無茶しないようにがんばるから…。だからその約束、イザークもしてよ」
・・・これだけは譲れない。



これ以上キラが譲歩しないという雰囲気を悟ったのか、イザークは少し難しい顔をしつつ頷いた。
「…分かった。ただし、お前がまた無茶をしたらその時点で破棄するからな」
「うん!!」
キラは満面の笑みを浮かべる。
それを見たイザークもまた微笑んだ。

















「イザーク、誕生日おめでとう」
「…ありがとう」


そして二人は静かに唇を重ねた・・・














・・・Happy Birthday










END