一月一日、元旦。

外は薄雲がかかってはいるが、快晴。
今日は地球もプラントも、もちろんヘリオポリスも、新年の第一日目だ。
誰もが新年を祝い、静かに休暇を過ごす日。
しかし、どうも勝手の違う家があった。

「…何、これ?」
「さあ…。サンタクロースはもう過ぎてるし…」
「じゃあ何で…?ねえ、カナ兄〜?」
「…分かってて聞くか?」
「え、だってさあ…キラも見たよな?」
「うん。昨日の夜まで何もなかったよ?」
「「「……」」」

オーブ領ヘリオポリス。
誰もが知るオーブのアスハ家三兄弟の家。
絶句するその住人、キラ、カガリ、カナードの目の前。
リビングのテーブルの上には、所狭しとおせち料理がずらりと並んでいた。







オーブの三翼〜アスハ家の普通じゃない年明け。







とりあえず、目の前の状況を整理してみよう。

1、テーブルの上には大量のおせち料理が並んでいる。
2、三人には全く覚えがない。
3、今日の午前0時頃までは、何もなかったことを確認済み。
4、しかしそれ以降はそれぞれ自室へ戻ったために不明。
5、不法侵入者を示す警報は鳴っていない。
6、つまり、不法侵入者ではない。


「えーと、ってことは…?」
「すっごく気になることが多いけど…」

不審に思って(いや、思わない方がおかしいが)キッチンへ来てみると。
そこにはくるくると楽しそうに調理器具を操る女性、キラたちの母ヴィアがいた。
ヴィアは驚くキラたちを振り返ると、にこりと微笑む。
「あらあら、三人とも朝が遅いわね。
カナードはともかく、キラとカガリは冬休みだからって油断しちゃだめよ?」

そのキラとカガリは文字通り、絶句。
ただ一人、ヴィアに対して非常に耐性のあるカナードが不審感を隠さずに尋ねる。
「…なんでいるんだよ、母上」
するとヴィアも挑戦的な笑みを浮かべた。
「あら、それが久しぶりに会った母親への台詞かしら?
せっかく可愛い我が子たちのために、おせち料理を作りに来てあげたのに」

不穏な空気が漂い始めた…ような気がする。

キラとカガリはハラハラしながらその様子を見守る。
そう話している間にもヴィアは手を動かし、使い終わった調理器具は全て片付けられていた。
カナードはため息をつく。

「どーやってここに入ってきたんだ?」

この家は見た目こそ普通だが、セキュリティの堅さは尋常ではない。
「鍵を使って玄関から…だけど?」
ヴィアはにこりと笑みを戻すと、ポケットからこの家の鍵を取り出した。
それを見たカナードはそのまま問いを続ける。

「…その鍵は誰の?」
「あ、これ?ヤマトさんにお借りしたのよ」
「……ヘリオポリスに来たのはいつだ?」
「えぇとねえ…昨日の20時頃だったかしら?」
「…リビングにある大量の料理を作り始めたのは?」
「そうね、今9時近いから…朝の6時くらいかしらね」
「…この家に入ったのは?」
「朝の5時だったわ」
「……」

カナードはもう一度ため息をつくと、くるりと踵を返してリビングに戻った。
「ちょっ…兄様?!」
「カナ兄?!」
キラとカガリは慌ててその後を追いかける。
その二人をカナードは不思議そうに振り返った。
「何だ?」
反対にキラたちが困惑する。
「あ、いや…何だ、って…」
「カナ兄はびっくりしてないの?いつの間にか母様がいて…」
「驚かないわけがないだろ」
みなまで言わずにその兄は否定した。
「え…」
「じゃあ何でそんな…普通なの?」
言ってみればこの三人自身、"普通"ではない。
しかし、この件でカナードが至って普通に見えるのは、

「母上の行動にいちいち驚いてたら身が持たない」

…という、慣れというよりは諦めから来ているものらしい。
キラとカガリはどう返せばいいのか分からなくなってしまった。
困惑する二人を他所に、カナードは席につく。

そうこうしているうちにキッチンからヴィアが出てきた。
「まだ座っていなかったの?ほらほら、キラもカガリも早く座りなさいな」
ヴィアに急かされ、キラとカガリは言われるままにテーブルにつく。
その時に気づいたが…いつの間にか椅子の数が増えている。
そのいつの間にか増えている椅子に座ると、ヴィアは微笑んだ。


「あけましておめでとう。とりあえず、あなた達の元気な顔が見れて安心したわ」


キラとカガリはここでようやく、今日が元旦だということを思い出した。
…あまりに母の登場の仕方が異常だったため、忘れていた。
「そうだった…今日って元旦だったね……」
「すっかり忘れてたよな…」


アスハ家にだけ訪れる、普通ではないお正月。
・・・新年、あけましておめでとうございます。