「我々にも守秘義務がありますので」

そんな言葉で、スローネという組織の情報提供を断るヨハン・トリニティ。
確かにそれはそうなのだが、納得いかないのはスメラギを含めた全員だ。
ミハエル・トリニティは退屈だと零し、やる気の欠片も無い。
そんな中で、ネーナ・トリニティはただじっと一点を見つめていた。

(……何なんだ)

ネーナの視線の先に居るのは、刹那だ。
じっと注がれ続ける視線を無視しながら、刹那は内心で苛つきを募らせる。
いきなりキスをしてきたり(失礼にも程がある)、"可愛い"とか男に言う言葉ではないものばかり投げてくる。
…彼女らの存在も行動も機体も、知りたいことがあるのは刹那も同様。
同じ"ソレスタルビーイング"を名乗った段階で、彼らには不信が沸くのだ。

「じゃあさ、こんなのはどう?」

長い沈黙を破ったのは、そのネーナだった。
彼女は猫のように丸い目を強く輝かせて、刹那を指差す。


「そっちが訊いた質問にぜーんぶ答えてあげるから、その子をくれる?」


全員の目が丸くなった。
引き合いに出された刹那もプトレマイオスのメンバーも、ネーナの2人の兄も。
妹を溺愛しているらしいミハエルが、最初に怒鳴った。

「はあ?!ネーナ、お前本気でこのガキに惚れたのかよ?!」
「もぅ、五月蝿いなあ!だから、エクシアとセットで!」

ね?と小首を傾げて話を振られても、刹那には答えようがない。
基本的に対人関係に興味がない刹那は、相手が可愛らしく振る舞う少女でも変わらない。
ネーナは軽い動作で刹那へ近づくと、その腕に自分の腕を絡めた。
咄嗟に距離を取ろうとした彼の腕を伸ばした手で掴み、にっこりと笑う。

「同じCBだもん。やることは変わらないんだしサ?
スローネって君のエクシアみたいなガンダム居ないから、ちょうど良いし」

それに、さっきも言ったよね?

「アタシを怒らせると、恐いんだから」

さすがに、刹那の眼光にも殺気が混じり始めた。
ネーナの実力の程は分からないが、これ以上の接触は大事に繋がりかねない。
…MSの戦闘ならともかく、生身の戦いにおいて容赦という言葉を知らないのが刹那だ。
彼の過去と、それから派生して人との接触を嫌っているだけに、なおさら。
刹那の殺気を感じ取ったか、ミハエルの手がナイフを隠す背へ回った。


「その提案は、考えるまでもなく却下だ」


ナイフを取り出そうとしたミハエルを制したヨハンは、声の主を意外そうに見遣る。
当のティエリアは、涼しげな顔でネーナに視線を向けただけだ。
そんな彼の言葉に乗ったのはスメラギで。

「そうね。残念だけれど、その取引は不成立よ」
「えぇー?だって、アタシたちのこと知りたいんでしょう?」

彼女に答えたのはロックオンだ。

「そりゃあ知りたいさ。俺の相棒が、そっちのハロを知ってるみたいだし。
でもその交換条件は、なあ?」
「そうだね、あんまりだよね。僕も認めない」

ロックオンに話を振られたアレルヤも同意する。
ネーナは刹那から離れ、ムッと頬を膨らませた。

「どうして?全部答えてあげるって言ってるのに」

彼女は後ろのミハエルを見、次いでヨハンへ視線を投げる。
ヨハンはネーナと刹那に視線をやってから、ティエリアへ視線を戻した。
その意味を悟ったティエリアは、軽く目を閉じて答えを返す。


「条件があまりにも安過ぎる。刹那・F・セイエイとエクシア、この2つを対価とするなら…そうだな。
パイロット抜きで、そちらの3機すべてとそのハロを寄越してもらおうか」


ネーナは呆気に取られたように、刹那とティエリアを見比べた。

「えぇーっ!そんなの無理じゃない絶対!!」
「当たり前だ。ネーナ、冗談はその辺りにしておけ」
「でもヨハン兄!」

妹を宥めるヨハンに、ロックオンは少し微笑ましい気分になった。

「…兄貴ってのも大変だな。ネーナ、だっけ?悪いけど、刹那は諦めてくれ」
「やぁよ!絶対に欲しいんだから!」

あっかんべー!と残して、ネーナは部屋を飛び出して行った。
続いて彼女を追い掛けるのかミハエルが出て行き、ヨハンは肩を竦める。

「失礼。妹がお騒がせしました」
「いいえ、元気な妹さんで何よりよ。アレルヤ、念のために行ってくれる?」
「分かりました」

頼まれたアレルヤも出て行き、ようやくミーティングルームに静けさが戻った。
彼らと刹那たちの間でさらなる騒動が起きるのは、また別の話。

妙な兄妹との邂逅


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08.2.3

ソレビの誰か×刹那←ネーナ、という構図に果てしなくときめきます(笑)
まさかいきなりキスするなんて、16話の段階で視聴者も予想してなかったに違いない。
くっそぅ、やっぱり17話を早々と消すんじゃなかった…orz