「あけましておめでとう、刹那」
「は?」

最初に言って来たのはスメラギだったか。

「お年玉はないけど、代わりにどうぞ。今年もよろしく頼むわよ?」

手渡されたのは、暖かい缶コーヒーだった。


「あ、刹那。あけましておめでとう!」
「…は?」

次はアレルヤだった。

「刹那との付き合いも、結構長くなったよね。これは全員に言えるけど。
今年もよろしくね。頑張ろう」
「?ああ…」

手を差し出され、拒む理由もなかったので握手をした。


「おう、刹那!あけましておめでとう!」

その次はロックオン。
いきなり頭をわしゃわしゃとかき混ぜられて、何なんだと睨む。
奴はなぜか満足げに笑った。

「まあ…これからもっと大変だろうが、よろしくな」
「……」
「そうそう、おやっさんが『お年玉代わりに、エクシアのすげー装備造ってやっから待ってろ!』ってよ」


いったい、何なのだろう。
今度はフェルトとクリスティナが、向こうからやって来た。

「あ、刹那!あけおめ!」
「…おめでとう」
「?」

いきなり紙袋を渡された。
開けてみると、ストールとジャケットが入っている。

「本当はクリスマスに渡したかったんだけど、ミッションが重なっちゃったから。
だから、新年の挨拶代わり。外に行くんでしょ?寒いからここで着ていって」
「ストールは私が選んだから…。気に入ってもらえたら、嬉しい」

とりあえず礼を言うと、2人は今年もよろしくと言って戻っていった。
結局よく分からないままだが、貰ったジャケットとストールで防寒は大丈夫そうだ。



外はまだ暗く、行き交う人間などほとんど居ない。
吐く息は真っ白で、久々に砂漠の寒さを自分の身で感じた。



「あ、ファンロ…カマル君!」
「え?」

名前はマリナだったか。
アザディスタンの皇女だと言った女が駆けて来た。
眼鏡を掛けた女を1人だけ供に連れている。

「まったく…こんな非常識な時間に、何かと思ったわ。
こういうことだったのね、マリナ様」
「…なんとなく、そう思っただけよ。でも、本当に逢えて良かった」

トゲトゲ言う供の女も、こちらを見てなぜか懐かしそうに笑った。

「まさか…再び会える日が来るとは、夢にも思いませんでした」
「駄目よ、シーリン。まだ何も言っていないの。あ…ごめんね、カマル君。勝手に話しちゃって」

皇女は微笑み、綺麗なお辞儀をひとつ寄越した。

「新年おめでとう、カマル君。貴方に逢えたことを、この世のすべてに感謝します」


本当に、何なんだ。
今度は得体の知れない男だった。

「あー居た居た!エクシアのガキ!」
「…誰だ」

人相の悪い、金髪の若い男だ。
エクシアという単語を使ったことから、組織に関わりのある人間だろう。
なぜか手錠を掛けていて、傍で妙な模様のハロが飛び跳ねている。

「そのうち、お前らの本拠に挨拶に行ってやらぁ!楽しみにしときな!」

げぎゃぎゃと可笑しな笑い声が耳に突いた。
誰だったのか、ヴェーダにでも聞けば分かるだろうか。



荒涼とした砂漠の、砂丘から崖が覗く場所へたどり着く。
そこにはすでに先客が居た。



「…遅い」
「そうだよ、刹那!本気で間に合わないかと思っただろ!」

双子の弟のシンと、ティエリアだ。
自分に非はないので、言い返す。

「何度も足止めを食らった。"おめでとう"って、いったい何なんだ?こぞって」
「…刹那。ひょっとして、今日が何か知らないのか?」
「今日?」

不思議そうなシンの隣で、ティエリアがあからさまに呆れた。

「今日は何月何日だ?」
「は?」
「言ってみろ」
「……1月1日」

覚えている日付から足していくと、そうなった。
眉尻を下げて、シンが苦笑する。

「…仕方ないってことは、俺も分かってるけどさ。
でもやっぱりそれは寂しいから、これからは一緒に祝うんだ。これが最初の1つ目」

シンは刹那の手を取り、穏やかな笑みを浮かべた。

「A Happy New Year、刹那。今日から新しい年だよ。
おめでとうって言うのは、俺たちの場合は…無事に迎えることが出来て良かったってこと。
去年まで、俺は刹那が生きてることを信じるのも諦めかけてた。
だから、すごく嬉しいんだ。今年は刹那と一緒に居られるって思ったら」

ああ、そういう意味か。
今まで戦場に居た頃は、日にちを数えることはあっても年月日を気にすることはなかった。
そんな余裕などないし、する必要もなかった。
ただ、握られたこの手が本当に『ここに在る』ことを思えば、気にしてみるの良いかもしれない。
ほんの数時間の間に何度も言われた言葉を、そっと口に出してみる。

「…Happy New Year.」

シンの本当に嬉しそうな笑顔を見て、幸せだと思った。
『幸せだ』なんて思ったのは、初めてかもしれない。
ティエリアの驚いたような気配にそちらを見ると、意外そうに言われた。

「…なんだ。笑えるのか」

意味が分からず首を傾げると、シンが小さく吹き出した。
ますます分からずティエリアへ視線で問うと、まったく違う答えが返る。

「ほら、これを見に来たんだろう?良かったじゃないか。弟と見れて」

彼が指差した方向は、崖に向かって正面。
薄らと光が射し始めたのを認めて、そちらが東なのだと悟った。
眩しそうに目を細め、シンは刹那へ説明する。

「新年の最初に見る日の出。初日の出って言って、縁起が良いって言われてる。
どうしてもこれを刹那と見たかったから、ティエリアに無理言ったんだ」

苦笑したシンに、ティエリアも肩を竦める。
ゆっくりと姿を現す太陽と陽炎に、何が違うのだろうかと刹那は自問した。

(日の出なんて、敵が砲撃を開始する合図でしかなかった。
夜明けなんて来なければ良いと、いつだって願い続けていたのに)

「…嫌な記憶しかないのなら、塗り替えてしまえば良い」
「!」

まるで、心の内を読まれたかのようだ。
人を小馬鹿にしたティエリアの笑みは、砂漠地方特有の強烈な太陽光に遮られて、よく見えない。


(塗り替える…。日が昇る瞬間の、思いを)


生き延びる為の絶望ではなく、共に生きる為の決意に。
ソレスタルビーイングという組織の為ではなく、『刹那』という自分の為に。

ここに在ることに、感謝を


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08.1.4

今度は00でお正月小説に挑戦。
書きたいものを詰め込んだら、小話部屋に収まらない長さに(苦笑)
刹シン双子もマリ刹姉弟もティエ刹も、そしてスパも混ざってます。カオス!
おーじょが電波っぽいとか、何しに来たのスパとか、ツッコミは無しで。
あ、そういえば王様忘れてた。

期間限定、08.1.15までフリーです。 フリー配布は終了しました。