私の名前はソーマ・ピーリス。
人革連の対ガンダム特務部隊、セルゲイ中佐の元でMSパイロットをしている。
年齢は18、この部隊で20歳以下の女性は私だけだ。
これには私の出生と経歴が些か特殊なことも、大いに関わっているだろう。

『超兵1号』

それが私の別名だ。
宇宙に適応出来る強靭な肉体を手に入れるため、受精卵の段階で遺伝子操作を受けたデザインベビー。
私の前にも大量に居たのだが、15歳まで生き抜けたのは私が初めてだった。
大量の兄や姉たちは、遺伝子操作の影響で五体不満足であったり、重い疾病を持っていたりしたらしい。
まあ、とにかく。
8歳まで主要研究所のあった、起動エレベータ近くのコロニーで育った。
生活内容は、実験と勉強とトレーニングの繰り返しだ。
8歳になったとき、地上の研究所へ移された。
本物の重力を知ったのがそのときで、けれど生活内容はコロニー時代と同じ。
…我ながら、あの日の自分を褒め讃えたくなる。

『外』という世界をどうしても知りたかった私は、ある日研究所を脱走したのだ。

とても従順であった私はその日まで、何の問題も起こしたことはなかった。
だから、セキュリティ系の管理が甘くなっていたのだろう。
出口の位置も開け方も知っていた。

『外』へ駆け出た私は、本でしか見たことのない『砂』だらけの世界に目を丸くした。
(これが、砂漠)
見上げた広く遠い青に、感動した。
(あれが、空)
まずは研究所から離れるべきだと、私は砂しかない世界へと踏み出す。
…あの頃の私は本当に無知で、足跡で付けられるとか、発信器を取り付けられているとか、考えもしていない。

ただ目的も無く走り続けて、砂に埋もれる瓦礫が集まった場所でやっと立ち止まった。
(これは、煉瓦?他にもたくさん…もしかして、家?)
正確に言えば、そこは小さな町だったように思う。
度重なる紛争で瓦礫しかなくなってしまった、少数民族の。
水を探そうと瓦礫の中に足を踏み入れて、ピタリと足を止めた。

まっすぐに私に向けられた、命を奪うモノ。
私が訓練していた銃よりも大きく銃身の長い、マシンガン。

"それ"を向けて来ていたのは、私よりも背の低い子供。
赤褐色の眼で、黒い髪が跳ねていて、銃を身体の一部のように扱う少年だった。
私よりも2歳くらい年下だったように思う。
何か喋ったようだが当然言葉は分からず、私は突っ立っているだけ。
けれど武器も殺意も悪意も持っていないことには気付いてくれたようで、彼は銃を下ろすとこちらに背を向けた。

当ても目的もない私は、どこかへ踵を返した彼の後を付いて歩いた。

何度か振り返り彼が私へ言ったのは、あっちへ行けとか付いてくるなとか、そういうことだったろう。
それでも私は付いて行ったので、向こうが諦めた。
そうして微妙な追いかけっこのような散歩のようなものが続き、夜になる。
(今日は1度しか補給をしていない…)
私はその頃、食事のことを補給と言っていた。

体力的に疲労してそんなことを思ったとき、突如、静寂を破る銃声が響いた。
1つ向こうの路地に潜んでいた彼が、銃を構える音がする。
拳銃も1つくらい持って来れば良かったと思った。
まだ人の気配を察することが出来なかった私は、周りに"彼"にとっての敵や味方が居ることにも気付かなかった。
…銃撃戦が始まる。
私のすぐ傍に誰かの死体が落ちて来たときは、本当に驚いた。
驚いたが、その死体がまだ弾の残っている銃を持っていたことに感謝した。

なぜなら拾ったその銃で、"彼"を殺そうとしていた人間を倒せたのだから。

静かになって、元の真っ暗闇になって。
初めて星空というものを見て夢中になっていた私は、彼が傍に来たことに気付くのが遅れた。
話し掛けられてやっと気付いたが、やはり言葉は分からない。
困った私は、唯一持っていた固有名詞とジェスチャーで伝えた。
『ソーマ』という名前を。

「…ソーマ?」

人革にある発音とは異なるが、彼は確かにそう言った。
それに大きく頷いた私は嬉しくて、通じないことも忘れて尋ねていた。
…彼の、名前を。

それから数十分後、私は追って来た研究所の人間に連れ戻された。
とっくに"彼"は居なくなっていたので、寂しいと思ったが良かったとも思った。
研究所の人間に見つかれば、殺されていたかもしれない。
何か罰を食らうかと思ったが、私が握っていた銃といくつか転がる死体で状況が変わった。
どうやら、研究の成果が出たということらしい。
(ちゃんと心臓と頭を狙って撃った。即死のはずだ)
訓練の一環であった、銃器の取り扱いと戦闘行為の部類に関するもの。
まあ、とにかく。
私は元の研究所生活に戻った。
セキュリティは3段階くらいアップして、脱走も出来なくなった。
単調な毎日であることに変わりはなかったが、私の中では小さな変化があった。

(ーーー…)

心の中だけで、そっと呟く単語。
それは『ソーマ』という名前に対して返された、"彼"の名前だった。
合っているか怪しい発音で私がそれを繰り返したら、ちゃんと自分を指差して頷いてくれた。
もう一度呼ぶ間もなく、駆けて行ってしまったけれど。
…それから私は、1日でも早く『外』へ出られるように努力した。
このまま従順に過ごせば、先はおそらく宇宙開発に深く食い込む軍人だ。
銃器を扱う職業は軍であって、銃を持つ人間に遭う確率が高いのも軍。

幼かった私は、軍人になれたらまた彼に会えるのではないかと考えたのだ。



『外』へ出て、MSに乗り、世界の広さを知り、任務完遂の難しさを知り。
それでも、砂の広がる南部地域で空を見上げれば、今でも鮮やかに思い出せる。
…赤褐色の眼で、黒い髪が跳ねていて、銃を身体の一部のように扱う少年。
私と同じくらいの年で、今思えば中東出身だと考えられる子供。
なぜこんなにも再会したいと思うのか、私には分からない。
分からないが、やはりその名前の彼を望んでいる。


(…ーーー)


心の中だけで宝物のように囁き、いつか逢う日を夢見て。

泡沫と永遠の恋歌


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08.1.19

うたかたととわのれんか、と読みます。
どうしようもなくカオス。刹←ソマ自体、このサイト以外にないだろう(断言)
研究所暮らしで実験体で、周りは砂漠で、脱走して連れ戻される。
全部カナード兄様(種外伝)の経歴ですな!(笑)