易々と王宮へ入れたことも驚きだが、会う人間皆が皆同じことを言うのも、ある意味で恐ろしい。

「…なんで俺が」

意図せず呟いた。
渡されたペンダントを眼前に掲げてみて、眉を顰める。
王家イスマイールの紋章(だとか言っていた紋様)が彫られた、金。
マリナという皇女が持っていたものと寸分違わぬ、同一の皇族証。
(誰なんだ。ファンロン・イスマイールって)
何枚か見せられた写真。
確かに、幼少時代の自分に見えないこともなかった。
何しろ刹那は、否定しようにも少年兵になる以前の記憶を持っていない。
忘れたのか思い出したくないのか、それさえも分からないのだから。

とにかく今は、ソレスタルビーイングの任務を優先する。

想定外の方角から放たれたミサイル、それにより破壊された太陽光発電システム。
アザディスタンの反改革派でもなく、改革派に肩入れするユニオンでもなく、国連でもない。
もちろん、CBもあり得ない。
犯人たちは、マスード・ラフマディを誘拐した者たちと間違いなく同組織であろう、第三の勢力。
太陽光発電システムが造られては困る、誰か。

荒野にそびえる、それなりに高さのある岩山。
そこが、ミサイルが飛んで来た方角から割り出した発射位置だ。
思った通り、MSが居た証明でもある残留波がそこかしこで観測出来る。

「…やはりここか。だが、発電システムを壊して、誰が得をするんだ?」

目的が分からない。
考えながら、ゆっくりと岩山の頂上へ登る。
「!」
人の気配を感じ、刹那は咄嗟に身を隠した。

「ああ、ほら。やはりMSの残留反応だ。君が見たミサイルの方角からも、間違いはないだろう」
「そうか。他に手掛かりは…」

居たのは2人、金髪の男と白衣の男。
(…ユニオンの軍人か。ロックオンが何か言ってたな)
しつこいフラッグが居たと。
あの2人も、発電システムを破壊したMSについて探っているのだろう。



刹那が身を隠す岩山の傍で、グラハムとカタギリは他に手掛かりはないかと周りを探る。
が、残留反応以外には何もなさそうだ。

「さすがに、もう半日も経ってるから何もなさそうだね」
「だが、どうやら先客は居るようだぞ?」
「え?」

グラハムは自身の、軍人として培って来た感覚を信頼している。
ほんのわずかに揺れた気配へ、カマをかけた。

「隠れてないで出て来たまえ」

案の定、希薄だった気配が大きく揺れた。
しかし現れた人物に驚く。
(子供?)
両手を上げて不安げに姿を現したのは、現地の少年だった。
ここで戦闘があったと聞いて、やって来たと言う。
なぜだろうか。
少年の姿と感じた気配の鋭利さが、噛み合わない。
「まあ、君くらいの年齢ならよくあるね。でも、ここは危ないよ」
カタギリは何も感じないようだ。
どうにも違和感を拭えず、グラハムはその少年へ問う。

「…君は、この国で起きている紛争をどう思う?」
「え?」
「改革派、反改革派、そしてCB。自国で入り乱れる勢力に、どう思う?」

妙なことを聞いてくる軍人だ。
刹那は"普通の子供"を演じながらも、本音で答えた。

「それぞれに正義はあると思います。でも、人は死ぬ。たくさん死んでいく」
「…同感だな」

思わず目を見開く。
後ろに構えた銃を持つ手に、力が籠った。

「軍人の貴方が言うんですか」

ふざけてる。
けれど、金髪の男は軽く肩を竦めてみせた。
「君たちから見れば、確かにそうだろうな。
それでも私は、争いごとがなくなるならそれで良いと思っている。ところで…」
この2人から離れようと、刹那が一歩引いたそのとき。
金髪の男は笑って問うた。

「後ろに持っているのは、何かな?」
「!」

浮かべられた笑みの種類から、確信を持たれていると思っていいだろう。
大人の余裕さえ感じさせる表情に、刹那は怒りのまま金髪の男を睨み据える。

「怖い目だ」

そこにあったのは、子供をからかう大人の図。
(お前たちに、何が分かる…!)
刹那は銃口を向けてしまってから、表情を変えずしまったと内心で舌打つ。
これだから、他のパイロットたちに余計なことを言われるのだ。

迷わず銃を向けて来た少年に、グラハムは笑みを深めた。
「さて、君は誰なのかな?」
思うところがある。
このような場所に、発電システムを破壊したMSを探しに来る人間は居ない。
自分たちを除くなら、それはCB以外にあり得ない。
何事か口を開こうとしたカタギリを制し、相手の言葉を待つ。
少年が銃を持っていない手でこちらへ示したのは、見覚えのある紋章だった。


「俺はアザディスタン王国第1皇子、ファンロン・イスマイール。
ユニオンの軍人であるというなら、お前たちの得た情報を提供してもらおうか」


言いながら、刹那は皇子という単語に寒気がした。

まるで足枷の如く


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08.1.12

気が向いたら、この話の前に来る小話を書きます。
皇子猫はたった1行…orz