言葉の裏に在るのは、親愛。
沈黙の裏に在るのは、信愛。
かくも人の心は、心無しには語れない。
「ユニオンのフラッグに遭遇したのは、なぜだ?」
「…別ルートで先に帰還したから」
「まあ、4機揃って帰還しろとは言われなかったな。
そのフラッグは、どんな相手だった?」
「…最初の一太刀を避けられた」
「なぜ?」
「…たぶん、経験値?」
「それもあるが、エクシアのソードは長い。
振りが大きくなって隙が出来ることくらい、少し手慣れていれば分かるだろう」
「……」
「スリランカでは?首を持って行かれるところだったそうじゃないか」
「…ああ」
「お前より長くMS乗りやってる人間なんて、その辺にごろごろ居る。
なぜそこまでの接近を許した?近接仕様の弱点は、よく分かってるだろう」
「…武器を切り落として振り向いたら、逆の手が伸びてきた」
「なぜそちらを切り落とせなかった?」
「…装甲の厚さが違ってた」
「お前、"肉を切らせて骨を断つ"って言葉を知らないのか?」
「知らない。なんだ?それ」
「"相手の急所を突くためには、多少の怪我は仕方がない"」
「最初からコックピット狙えって?」
「そうじゃない。機体性能の差は、パイロットの腕の差で縮まるという意味だ。
その人革連のパイロットも、機体が破壊されることなど予測済みだったろう。
自身が怪我を負っても、ガンダムの一部が手に入れば十分に釣りが来る」
「…俺が弱いって言ってるのか」
「そう聞こえたならそう取れば良い。
ガンダムのパイロットに必要なのは、任務を確実に遂行する実力だ。
つまらない重力に引き摺られて、自分の首を絞める人間などいらない」
「…どうせ宇宙育ちのアンタには、民族紛争とか聖戦とか、どれもこれも下らないんだろ。
アンタはいつもそうだ。人の判断基準は"使えるか使えないか"、それだけで」
「……」
「"使われた"ことがないから、そんなことが言える。
"使い捨てられた"ことがないから、簡単に切り捨てていける。まるで機械みたいに」
「…刹那」
「最初からガンダムに乗っていたアンタには、無力だった時なんてなかったんだろう?
絶対の盾に守られて、明日の糧に困窮することも、強さに憧れることもなくて」
「刹那」
確かな圧力を込めた声で名を呼ばれ、刹那は口を閉じる。
けれど、己の発言を撤回する気などさらさらない。
…事実を言ったまでだ。
片膝を抱えて座ったまま、じっと自分の足元を見つめる。
不意に、視界に色彩が混じった。
「本気で言ってるのか」
アルビノという遺伝子異常を思い起こさせる、紅に限りなく近い眼。
その切れ長の目が宿す光は、いつだって鋭い。
刹那はそれをじっと見つめ返すも、言葉は発しない。
…沈黙が肯定であることを、よく知っている。
俯き加減の刹那を低い位置から覗き込んでいたティエリアは、先に視線を外した。
結局のところ、長い沈黙に耐えられないのはこちらなのだ。
立ち上がり手を伸ばすと、少し浅黒い頬に触れ顔を上げさせる。
なんだ?と瞳で問うて来る相手に、逡巡した。
「お前は、自分の言葉も刃になることを…少しは学習した方が良い」
訳が分からない。
戦闘に勝つために必要なものの中に、言葉は入っていないのに。
気配なく降りてきた口づけは、羽に触れるように軽やかな。
「…次のミーティングは20分後だ。遅れるな」
「ああ」
返事をして、通路の向こうに消える背を見送って、刹那は考える。
(言葉は刃になんか、ならない。形の無いものに、切り裂く力なんて)
刹那には分からない。
生き抜くために必要なものは、己の力と武器の重さで十分だと知っているから。
それは沈黙の、刃
ー 閉じる ー
07.11.13
てぃえるんは宇宙育ちだと勝手設定。せっつーは戦災孤児で少年兵。
なんだかんだ言いつつ、てぃえるんは饒舌な方じゃないかと。