ある朝の出来事。





地上で機体を使わずに集まる場所はいつも、移動に困らない人革連の起動エレベータ近くだった。
基本的に起動エレベータは赤道直下に在るので、地球上の大都市からは尽く離れている。
(確か、リニアの時間は9時ちょうどだったな…)
人革連の首都に一番近い日本に待機している刹那は、部屋の鍵を掛けながら時刻表を思い出す。
任務通達ではなかったから、今後のスケジュール調整でもやるのだろう。
ぼんやりしていると、隣の部屋の扉が開いた。

「あ、刹那くん。おはよう」

沙慈・クロスロードという変わった名前の人間が、声を掛けてきた。
…変わった名前はお互い様だ。
学校へ行くのだろう。
夕方に遭遇したことは何度かあるが、朝に出会ったのは初めてかもしれない。
何となく、次に聞かれる言葉が分かった。

「…学校に行く…わけじゃ、なさそうだね…?」

このまま無言で立ち去ることも出来たろうが、後を考えると面倒になった。
刹那は視線だけを向けて答える。

「…仕事」
「え、うそ!働いてるの?!」
「なぜそんなに驚く?」
「だって、僕より年下なのにもう働いてるって……凄いなあ。
あれ?じゃあこの間来たあのお兄さんって、ひょっとして…」
「……同僚だ」

何かと世話を焼いて来るロックオン以外に、来訪者など居ない。
答えるまでに間が空いたのは、ありがた迷惑だからだ。
沙慈は納得したように頷いていた。

「そっかー。兄弟にしては似てないなーって思ってたんだ」
「…あんなヤツと兄弟なんて、こっちから願い下げだ」
「え、でもなんか頼れる兄貴って感じじゃない?」
「……」

疲れてきた。
何もこの男に、律儀に答えてやる必要はないのだ。
軽く息を付いてエレベーターへ足を運べば、やはりというか隣の人間も乗ってきた。

「ごめんね、引き止めちゃって」
「…別に。間に合うから良い」

しかしエレベーターから降りてすぐ、刹那は固まった。
沙慈はその彼に驚いて足を止める。

「どしたの?…あ、」

エントランスを囲むように立つ柱の1つに、とても綺麗な人が背を預けて立っていた。
完璧な美人というのは、こういう人のことを言うのだろう。
沙慈が惚けている間に、刹那はその人物へ近づく。

「…なんでここに居る?」

一番地上で会う確率の低いティエリアだった。
刹那の問いに彼はポケットから何かを取り出し、放る。

「……ケータイ?」
「お前、持ってなかったろう?ここの大学に用があるついでに持って行けと。
それから、落ち合う場所がその大学に変わった」
「大学…?」

刹那は周辺地理を大して覚えていない。
機体の隠し場所とスーパーと雑貨屋があれば、それで十分だからだ。
意図せず後ろに居た沙慈を振り返る。
沙慈は刹那の隣まで来ると、軽くティエリアへ会釈した。

「大学って、僕が行ってる付属高校の本体じゃない?経済特区として一番大きいのがあそこだから」
「…誰だ?」
「隣人」

短いやり取りを気にする様子もなく、沙慈は刹那と名前の分からない麗人を見比べる。
刹那もティエリアも、他人に関わることや詮索されることが嫌いだ。
さっさと目的地へ向かおうとしたところへ、その隣人が言った。


「ひょっとしてこの人、刹那くんの従兄弟のお姉さんとか?凄い美人だね!」


ほら、肌の色は少し違うけど、眼の色とか似てるし。
持ってる雰囲気っていうか、そういうのもよく似てるよね。

朝で起き抜けで、いつもの調子に戻っていないことも要因だったかもしれない。
素でとんでもないことを言ってくれた隣人もそうだし、本気で驚いている同僚の顔も初めて見るものだ。
刹那は堪え切れずに吹き出した。

「クッ…おまえ、面白い…やつ…」
「え?ちょっと何がだよ刹那くん。いきなり笑い出して…」
「…お前、学校は?」
「あっ!ヤバい遅れる!すみません、失礼します!!」

慌てて走り去る子どもを見送ったのは、ティエリアだけだ。
彼のように背を柱に預けて、刹那はまだ笑いを収めることが出来ない。

「……刹那」
「だって、なんで誰も間違わないんだって思ってたし…あそこまでハッキリ言われたし…」

笑っているためか、饒舌になっている。
ティエリアはどうやって黙らせてやろうかと思案した。

笑った顔を初めて見たけれど


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07.11.16

きっとこの後、防犯カメラの位置を確認して実力行使に出るよ(笑)
私はどうやらお隣は天然だと思ってるらしい。でもこれ、普通のリアクションだよね。
せっつーの笑顔は、はたして公式に出るのか。やはりおーじょが引き出すのか。