「本当に、他にはもうないんでしょうね?」
『ないわよぅ、もぅ。ティエリアってばそんなに怒らないでよ』
「貴女が補給リストを大量に、後から加えるからです」
『だってぇ…ま、いいわ。じゃあティエリア、刹那のことも頼んだわよ』
「……」

経済特区でもっとも大きな大学。
常設カフェテリアの通りに展開された席で、ティエリアは通信機をパシンと乱暴に閉じた。
通信相手は、プトレマイオスに滞在する戦況予報士。
…そもそも、地上嫌いのティエリアがなぜ日本に居るのかというと。
5日ほど前にあった任務で、珍しくロックオンとティエリアの配置が入れ替わった。
デュナメスは宇宙へ、ヴァーチェは地上へ。
無事に任務を終了したその翌日に押し付けられたのが、生活物資の買い出し。
そこまでは良かったのだが。

「ティエリア?誰からだ?」

刹那が店内でコーヒーを受け取り、戻って来た。
通信機をそのまま渡され、刹那は持っていたカップを片方渡して受け取る。
画面を開いてみれば、ティエリアの不機嫌な理由が即座に分かった。

「…何だこれは」

大量にリストアップされた、洋服。
ご丁寧に、ブランド名までしっかりと記されている。
「…ロックオンのときに頼めば良いものを……」
まるで呪詛のように吐かれた言葉は、刹那でも同意出来る。
自分はさっぱり分からないし、ティエリアも詳しい人間ではない。

「あ、刹那くん!」

聞き覚えのある声が、通りの向こうから聞こえた。
「…クロスロード」
マンションの隣人だ。
ガールフレンドなのか、彼の隣には長い金髪の少女が居る。
「沙慈、この子だれ?」
「ほら、前に話したじゃない。半年くらい前に越して来たお隣さん。
そういえば、ルイスはまだ会ったことなかったね」
本当に、他人と関わるのは面倒だ。
金髪の少女が笑って手を差し出して来た。

「アタシ、ルイスって言うの。同じ留学生っぽいし、よろしくね!」

友人だなんだと馴れ合うつもりなど無いし、関わるつもりもない。
だから刹那は、形式だけで握手に答えた。
どうやらルイスという少女は気にしない性分らしく、早くも刹那の向かいに興味を注いでいる。

「わぁ!すっごい美人!刹那くんの知り合い?
もう、羨ましいくらいのサラサラヘアー…!どこのメーカーですか?!」

何なんだ。
ティエリアは突然甲高い声で話し掛けて来た少女を、鬱陶しいという感情を隠さず見上げた。
この面倒なリストをどうしようかと考えていて、直前までの会話を聞いていない。
少女の横に居る少年に、見覚えがあるなと感じたのも一瞬で。

「あ、刹那くんの従姉妹のお姉さん…?」

ピシリとティエリアの表情が固まった。
刹那もようやく思い出す。
(…そういえば、そんなことがあったな)
あのとき刹那は、沙慈の言葉を肯定もしなければ否定もしていなかった。
ティエリアの射るような視線が、少し痛い。

「…人を妙な言葉で呼ばないでもらおうか」
「あっ、す、すみません!」

慌てて謝る沙慈の横で、ルイスが感極まったように両手を組んで目を輝かせた。
(……)
とても嫌な予感がした。


「っ、素敵っ!鋭く美しい眼に流れる髪、白い肌!そして予想を裏切るハスキーボイス!!
まさしくアタシの理想っ…!お名前を教えて頂けませんか?"お姉様"!!」


刹那は笑いを堪えようとしたが、やっぱり駄目だった。

類が友を呼ぶのは本当らしい


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08.1.13

「幸か不幸か」の続きというか、同系列のほのぼの話。
別名「てぃえるんとせっつーの災難」。