嘆くしかないのだ、己の無力を。
「今、なんて、」
驚愕に目を見開いた刹那から、音節で区切られた言葉が飛ぶ。
まっすぐに寄越される視線に耐えられず、アレルヤは視線を床へ向けた。
「ハレルヤは、消えてしまったんだ。"あの日"に」
もう、4年も前の話なのだ。
ずっと眠り続けていた刹那に、そんな時間差などないのだけれど。
"あのとき"、アレルヤはハレルヤに静かに罵倒された。
『最悪だ。てめぇがそんなんだから、俺は約束を破るハメになっちまった』
なんのことだ、と消えそうになる意識の隅で問いかければ、ハレルヤは笑った。
それはとても幸せそうで。
けれど、とても哀しそうだったことを覚えている。
『お前より先には逝かねーよ、ってな』
お互い死ぬ気なんて毛頭ないから、約束したんだよ。
刹那と。
「…うそだ」
見開かれた目に浮かんだ感情は、信じられない、という一言だけ。
アレルヤには、真実を告げる以外の行動が出来ない。
それ以上のことは何も…出来ない。
髪で隠された右目に伸びて来る手を、止める理由もなかった。
震える手で掻き揚げた前髪の、向こう。
彼の右目は、変わらず金色だった。
その理由をアレルヤは知らない。
生まれつきだったのかもしれないし、研究に際する薬物だとかそういう部類のせいかもしれない。
けれどその金色が、ハレルヤという存在の証でもあった。
「うそ、だ…」
4年前は小柄ながら、鍛え抜かれた身体をしていた。
4年をベッドの上で過ごした身体は、あの頃に比べるとずっと頼りない。
幾分武骨さの取れた、自分よりも小さな手が右目をそっと撫でる。
「約束、したくせに」
仲間たちの死は、誰のせいでもない。
始めからまるで、殉教者を名乗るかのような組織だったのだ。
だがそれでも、刹那は死ぬ為に戦っていたわけではない。
昔と、違って。
「…ハレルヤ、」
アレルヤに触れていた手が、離れた。
「刹那、」
「謝るな」
「!」
出そうと思った言葉を強い言葉で拒絶され、言葉を失う。
俯けられた顔を長くなった髪が覆ってしまい、アレルヤには刹那の表情が見えない。
ただ、薄い毛布に落ちていた彼の手が、強く握り締められたことは分かった。
「謝ったら、ころしてやる。理由は自分で考えろ」
それは言外に、出て行けと言っているのも同じだった。
ますます堅く握られるその手を、どうにか解いてやりたいと思っても。
「…うん。スメラギさんたち、呼んでくるね」
きっと彼は、泣き方を知らないのだろう。
アレルヤはそう思った。
扉が閉まり、部屋には自分ひとりだけ。
刹那は毛布を握り締めていた両手で、自分の顔を覆った。
「ハレルヤ…っ」
居なくなってしまったのだ、彼は。
目の前で救えなかった、ロックオンと同じように。
あのときのように叫びたくても、喉は4年の間に干涸びたのか音を出さなかった。
表に出せない慟哭を、歯を食いしばることで耐える。
「ハレルヤ…」
その名前は、神を賛美する言葉。
存在さえも否定している神を、刹那はその日呪った。
いつだって、何も救わない
ー 閉じる ー
08.8.3
随分と前の捏造物でした。
ああ、セカンドにはれやんは出ないのかしら…orz