「買い出し…ですか?」
『そう。あなたたちに頼むのが、一番安心出来そうだし。
大丈夫、マリーさんは元軍人だから護衛も兼ねてくれるわ』
「いや、あの…」

スメラギからの連絡は、そこで一方的に途切れた。
目の前では、マリー・パーファシーが苦笑している。
「私では嫌ですか?沙慈さん」
「え?いえまさか!そうじゃなくて…」
彼女はまるで…そう、姉の絹江がよく見せた表情で、くすりと笑った。
「息苦しいのでしょう?トレミーに乗っていて。
だから、こういうときはその好意に甘えた方が良いんです」
「でも…」
「それに、刹那さんが先に降りてらっしゃいますよ」
「…刹那が?」
沙慈は思わず問い返した。
マリーはこくりと頷き、窓の外を見つめる。
「後ろめたい、って顔してますね。謝りたいと思うなら、それこそトレミーを降りた方が良いのでは?」
彼女はいろいろなことを見透かしていた。
刹那に救われてからずっと、沙慈が心の奥底で溜め込んでいたものを。

起動エレベータから降りるリニアに乗り込み、沙慈はマリーと向かい合う。

「…貴女も、刹那のことはあまり知らないんですよね」
はい、と彼女は続ける。
「最近は…戦闘続きでゆっくりお話も出来ませんから」
「…そう…ですね」
アロウズとの戦闘を考えると、否応無くルイスのことが思い出された。
沙慈は服の下にしまった指輪の温度を感じる。

「…彼は、僕の家の隣に住んでいました。4年前まで。
マンションで…僕はテレビ記者の姉と暮らしていて」
「はい」
「姉は…4年前に殺されました。ガンダムに近づき過ぎて」
「……」
「ルイス…僕のガールフレンドだった人は、ガンダムの攻撃で親族をみんな亡くした。
彼女がアロウズに居るのは、きっとガンダムを倒したいからだ。憎くて堪らなくて」
「…CBさえ居なければ、誰も傷つかなかった?」
沙慈は強く拳を握った。
「そうです。あの人たちは人殺しだ!
たくさん殺して、たくさんの人を悲しませて、そんな人間が平和なんて掴めるものか!!」

マリーは彼が叫んでしまうのを待ってから、問い掛けた。

「悪意無き行為が起こす惨劇」
「!」
「貴方だけではありません。紛争など知らぬ人々…ユニオンもAEUも、
言ってみれば連邦加盟国に住む人々の大部分が、それを起こしています」
「…え?」
「映像の向こうのことは、自分には無関係ですから。
可哀想だとか酷いだとか、そう思って終わりだった。違いますか?
それは無関心という罪」

違わない。
住んでいたマンションのすぐ傍でテロが起きるまでは、そうだった。
いや、アロウズに捕らえられて殺されかけるまで、そうだった。

「…人間は、誰しも自分が大事です。
人1人の世界は、その1人が関わった人の繋がりで成り立っていて、とても小さい。
でもそれは、その人が選んだ世界ですよね。この人と関わると決めたから、その人の世界と繋がって」
たとえばマリーにとって、それはアレルヤを筆頭としたCBの面々であり、所属していた人革連で共に闘った仲間たち。
「だから私の世界は、とても小さいんです。
沙慈さんが宇宙で仕事をされるまでの日常は、私にとっての非日常そのもの」
「……」
「理解しろなんて、言いません。私だって人殺しですから」
「それは、」
「同じですよ。1人殺すのも大勢殺すのも、間接的に殺してしまうことも、
軍で銃を握ることも、人の命を奪えばすべて同じです」
だから、とマリーは目を伏せた。

「理解しろなんて言いません。慣れろとも言いません。
だって、選んだのはすべて貴方ですから」

刹那は何も言っていない。
言ったとすれば、それは選択肢だけだ。
そうして言い切ってしまってから、マリーは思った。

(アレルヤ。貴方の言う通り、刹那さんは強い人ですね)

誰かの為に戦えることも。
自分たちが行った行為に対して、まっすぐに向き合えることも。
たとえCBが…自分たちの戦いの果てにあるものが『死』だとしても。
彼だけは最期まで、すべてを見つめて終わるのだろう。

マリーが思うそれは予感ではなく、確信だった。

誰が真似出来るというのか


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08.12.29

なんだかよく分からない。