Sympathizer???... いつか願った空の下

※この話は、24話視聴後の最終話に対する多大な不安の形です(…)
こうなってくれるなという願いを込めたものですが、とても暗いです。死ネタです。

刹那とティエリアは最終決戦で、『ヴェーダ』と逝くことを選んだ。そんな瞬間から数年後。
登場人物はシン、リジェネ、キラ、フレイ、フェルト(出ては来ない)のみ。
読んだ後の苦情は一切受け付けません。本当にシリアスです。痛々しい感じです。
まあ、私の本領発揮とも言えますが(…)書いてて悲しくなった話は久々でした。
以上を考慮してOKな方は、下へどうぞ。
ちなみに長さは、小話部屋の4倍近いです(苦笑)

王留美が一線から退き、屋敷や土地の大部分が正式にアルスター家へ譲渡され、もう何年が経っただろう。
そういえばアルスターが受け取った土地財産の一部は、さらにルイス・ハレヴィへと譲られたらしい。
さらに聞けば、フレイは受け取れないと首を振ったルイスに激怒したという。

『アロウズに出資していたのは事実でしょう?事実はどうしたって消せないの!
だったらそれを帳消しに出来るくらいの努力、自分でやりなさいよ!!』

同じ台詞を、フレイは留美にも言っている。
留美の場合は特に、表に出なくなったというだけの話だ。
「シン」
仕事の依頼書を確認していると声を掛けられ、顔を上げる。
「リジェネ?何かあった?」
別段特別なことはないよ、と彼はいつものように笑みを浮かべた。
「ただ、君が確認した方が良さそうな届け物があるから」
「分かった」
2人ともが家を(元は留美のものだ)空けると長いので、帰って来ると届け物が溜まっているのが常だった。
それはいつものように、玄関の脇に在るスペースに積まれている。
「そこで開けようか。持ってくるよ」
「ごめん。サンキュ」
リジェネがリビングへ抱えて来たのは、幾つかの小包と封書。
まずは封書を確認していく。
「あ、これ報酬明細だ。リジェネのも一緒に入ってる」
「…本当だ。まあ、分けて送るよりは経済的かな」
「ちょっ、なんでオレよりリジェネの方が多いんだよ!」
「ああいった分野は私も得意だからね。知ってるでしょう?」
「うっ…なんか悔しい」
他にあるものも、対して重要なものではない。
小包も上から順に開けていく。
最後に一番下にあった小包を開けようとして、思わず手を止めた。

「これ…」

送り主の名前は、フェルト・グレイス。
「フェルト…」
CBでトレミーの管制を行っていた、少女。
どこでどのようにして暮らしているのか、他の多くの仲間のこともシンは知らない。
それは彼女たちにとってのシンも同じで。
もしかしたら彼女は、情報屋の伝でこちらの住所を捜し当てたのかもしれない。
何を送って来たのか訝し気ながら箱を開け、シンは取り出したものに首を傾げる。
「花…?」

透明な硝子に入った、1輪の花。

「それ、真空加工されてるね。半永久的に保存する技術だ」
「そうなの?」
確かに硝子は分厚く、硝子を閉じる蓋もよくあるタイプのものではない。
たった今咲いたばかりのような薄黄色の花に、ふと記憶を刺激された。
「…これ、何度か見たことがある」
ずっと昔に。
「砂漠で極稀に咲く、花に似てる」
リジェネは同じ包みに入っていた手紙に気がついた。
「これも、君宛だね」
「え?」
シン・アスカ様、と表に書かれた、真っ白な封筒。
とりあえず、シンは花の硝子詰めをテーブルに置く。
(この花…咲かせるのに随分時間が掛かっただろうね…)
リジェネは置かれた花を見つめた。
この花はおそらく、宇宙で咲かされたものだ。
(いつ、育てたのか)
シンは封筒の方に気を取られ、リジェネの表情に気付かない。
白い便箋を広げれば、女性らしい綺麗な文字が並んでいた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

拝啓 シン・アスカ様

お久しぶりです。お元気ですか?私、フェルトです。
突然のお手紙、お許しください。

あれからもう、何年経ったのでしょうか。
私たちは、今も生きています。みんな、元気です。

お届けした花は、イアンさんとリンダさんが代表して預かっていたものです。
ミレイナに会ったときに、シンに渡して欲しいと預かりました。
シンの居場所は…ごめんなさい。
留美さんに頼んで、捜してもらいました。

早くその花をシンに渡さなければならないと、みんな思っていて。
でもそうしているうちに、こんなに遅くなってしまいました。
だから、やっと届けることが出来て、良かった。

その花は、

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



シンの手から、便箋が滑り落ちる。
驚きに見開かれた目は、薄黄色の花へと向けられていた。
「シン…?」
隣から落ちた便箋を拾い上げ、リジェネはその意味を悟った。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

その花は、00に残っていたものです。

リンダさんが月基地で育てて、私に譲ってくれたものでした。
最後の出撃の前に、私が彼に渡したものでした。

『絶対に帰って来てね』という言葉と一緒に、

一緒に私が、刹那に、


刹那にあげた、花です。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



文字が滲んでいる。
滲んだ文字をそのままに書き直したのか、同じ言葉が並んでいた。
シンは薄黄色の花へ震える手を伸ばす。

「せ、つな…」

間近で見れば、やはり良く似ていた。
まだ幼い頃に2人で見つけた、砂漠に咲く花に。
「刹、那…」
乗り越えたと、思っていた。
癒されずとも生きられるくらいには、乗り越えられたと。
「せつな、」
呑み込んで、鍵を掛けて、ずっとずっと、心の奥に閉じ込めた。
そうして消し去ったはずの、苛烈なまでの喪失感。
「ソ、ラ、ン」
それが、溢れ出す。


「あああああああああああぁぁぁぁあぁああああ!!!」


刹那は居ない。
ソランは死んでしまった。

自分を、遺して。


「せつなせつな刹那せつな…!!!!」


何のために、捜し出した。
何のために、名前を捨てなかった。
何のために、CBに関わった。

「そ、らん…」


もう一度一緒に、生きる為だった。


「!」
激情に駆られたその手が自傷に走ろうとし、リジェネは腕を押さえつけるように彼を抱き締めた。
「…っ、」
矛先を抑えられたシンの指はリジェネの腕を強く掴み、爪が深く食い込む。
けれどいくらだって、リジェネには耐えられた。
(大丈夫、)
あと数分もすれば、気を失うという形で収まることを知っている。
「シン」
彼の涙は、涸れることを知らないけれど。
どんなに泣き叫んでも、その傷は消えはしないけれど。
「シン」
それでもリジェネは、彼の名前を呼び続ける。
彼が、正気を取り戻すまで。
「大丈夫、」
内側に、閉じ籠ってしまわないように。

視界の端に映った、シンに宛てられた手紙。
その最後の部分が目に入り、リジェネは思わず苦笑した。
(分かっているよ。言われなくても)

約束、だから。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

刹那はずっと、シンに生きてと言っていました。
だから、
だから、お願いします。
シンを、守って。
私には、出来ないんです。
私たちには、できなかったんです。

だからどうか、シンを守って下さい。
彼がまた、わらえるように。

刹那も、わらっていられるように。


           フェルト・グレイス    

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





    *        *        *





「…ねえ。腕、見せてくれる?」
「腕?」
「何かを隠すためでしょう?どんなに暑くても長袖を着ている理由は、それくらいだもの」
特に固辞する理由も見当たらないので、片方の袖を捲って見せた。
見せられたそれにキラは眉を顰め、フレイはハッと口元を手で覆い隠す。

幾重にも幾箇所にも巻かれた、包帯。
ところどころに血が滲み、見える皮膚にも治りかけの傷が浮かんでいる。

「…そんなに、酷いの?」
この場合、指すのはリジェネの怪我のことではない。
「ここ1,2年は、収まっていたよ」
フェルト・グレイスという名の人物から届いた、一輪の花。
「刹那・F・セイエイの遺品が、届けられたんだ」
何事にも、切っ掛けというものが在る。
けれどそんなものは、日常的に転がっているのだ。
「…そう」
目を伏せたキラに代わり、フレイはもう一度リジェネの腕を見て問い掛ける。
「貴方は大丈夫なの?それで」
捲った袖を元に戻して、リジェネは頷いた。
「何度聞かれても、私の答えは変わらないよ」
それも、何度も言っているけれど。
「…そうね」
フレイにしてもキラにしても、言えることなど何も無いのだ。
シンの家族のような存在であっても、彼に最も近い場所に居るのはリジェネだった。
物理的な距離ではなく、抱える闇も互いの知る事情も。
リジェネは悲痛な面持ちの彼らへ、ただ笑みを向ける。

「それに、"約束"だからね」

母たる『ヴェーダ』と共に逝った、遺伝子の片割れ。
「私の方が、圧倒的に寿命が長いから」
彼が愛した、純粋たる革新者であった、刹那。
「まずは彼を守って、いつか看取って、」
その刹那が最後まで『生きてくれ』と望んだ、彼の弟。
「それから『ラグナ』の話し相手」
あの超兵の2人は、『ラグナ』の"声"を感じ取れはしても聞き取ることは出来ない。
「『ヴェーダ』にまで頼まれたら、断れないし」
話し相手がAIであるハロだけでは、退屈だろう。
「そうして『イノベイター』の存在を知る人間が、いつの日か居なくなったら」
そんな日がいつか来たら、また考えるよ。

「『ラグナ』と一緒にね」

キラにもフレイにも、いや、他の誰にも、彼に渡せる言葉を持ち得ない。
「…そう」
持ち合わせることなど、不可能だ。
「シンを、頼むわ」
出来る限りのことは、するつもりだけれど。
「僕たちには、君の役目を軽減することも出来ないから」
だから、それ以外のところで手を尽くすよ。





    *        *        *





あの薄黄色の花は、今も綺麗に咲いている。
あの日の時間を、切り取ったまま。

ねえ、『ラグナ』


ー これからどうしようか? ー

09.3.22

補足。

人間の手に、『ヴェーダ』は有り余り過ぎた。イオリアの計画は早過ぎ、そして急ぎ過ぎた。
けれど見える「責任」がなければ、"声"の聞こえない人間には理解出来ない。
そのために『ヴェーダ』は、己をその「責任」にしようとした。
けれどそれは、同化してしまった友人であり兄弟であり息子である"ティエリア"を道連れにするということ。
だから刹那は、00のツインドライヴを『未来のために』トレミーへ返した。

自分自身は、『現在のために』ティエリアと共に在る(逝く)ことを選んで。

00は、ヴェーダと自分たちの記録として。
『ラグナ』は、いつか来る未来の為に。



閉じる