オーライザーのテストは無事終了し、予想を遥かに超えた結果を検証する為の時間が必要とされた。
イアンは張り切って次のテストをしようと画面を切り替える。
「よし、次はアリオスだ!…って、アレルヤはどうした?」
そういえば姿が見えない。
先程まで、別ドックにあるアリオスと共に居たはずだ。
「俺が探そう。解析の方を急いでくれ」
ティエリアは彼らに言い置いて、モニター室を出る。

「?」

住居区画に近い場所から、途切れた悲鳴が聞こえた。
「おい、どうした?」
こちらを振り向いた沙慈はティエリアの姿を目にし、見るからにホッとした。
「あの、彼女が…何かを見たみたいで。でも、僕にはよく分からなくて」
暗い宇宙へと泣き叫ぶのは、アレルヤが連れてきた超兵の女性。
そういえばティエリアは、彼女のところにアレルヤが居るのではと思ったのだった。
予想はどうやら外れていたらしい。
泣き叫ぶ彼女の肩に手を置き、こちらを向かせる。
「おい、どうした?お前の知る誰かに、何かがあったのか?」
彼女はぽろぽろと涙を零しながら、訴えた。
「大佐…大佐、が…っ!」
何かを探すように、求めるように、暗い宇宙へと彼女は視線を彷徨わせる。
ティエリアは埒が明かない、と沙慈へ向き直った。
「アレルヤを見なかったか?アリオスのパイロットだ」
「ああ、あの人は…確か向こうの展望室の方へ」



00から降りると、アレルヤが居ないと整備士が首を傾げていた。
どうせ解析が終わるまでは出来ることがないので、刹那は彼を探しにいくことにする。
…正直言って、あまり気は進まないが。
明るいけれども人の居ない通路をひとり進みながら、脳裏に甦った光景に強く頭(かぶり)を振る。
(考えるな。考えても、仕方がない)
今はマリー・パーファシーと名乗る、ソーマ・ピーリス。
彼女は刹那にとって、憎悪に近い嫌悪の対象だった。
(人の命に、重さの違いなんてないだろう。殺した罪の重さは、消えないものだから)
そう考えてはいても、心は言うことを訊かない。

(あいつは、ハレルヤを殺した)

刹那には、その事実だけがすべてだった。
アレルヤに告げられたそのとき、刹那は自分が生きていることを呪い、約束を破ったハレルヤを罵倒したかった。
『俺様を誰だと思ってんだ?生き残るに決まってんだろーが』
いつものように笑って刹那の頭を無造作に撫でた彼は、居ないのだから。

だから刹那は、ティエリアに心配される程にアレルヤを避けている。
今のところ、彼以外に気付かれていないことが救いだ。

「?」

下層部にある展望室の入り口を横切ろうとして、見慣れた橙色が視界を掠めた。
立ち止まって覗き込むと、柱の影で見えないが、宇宙を望む大きな硝子窓にアレルヤの姿がある。
「こんなところで何をしている。次はアリオスのテストだ」
硝子に映る姿が、こちらを振り向く動作をした。
柱の向こう側へ回った刹那は、驚きに大きく目を見開く。

アレルヤは刹那を見て、にぃと不敵な笑みを浮かべた。
それは決して、アレルヤが浮かべる表情ではなくて。

「よう、刹那。ちゃんと生き残ってんじゃねーか」

おー、結構背が伸びてんな。
そんなことを言って、彼は刹那の頭を無造作に撫でた。
言葉の出ない刹那を覗き込み、愉快そうに笑う。
「どうした?化け物見たみたいな顔してるぜ?」
信じられずに、声が震えた。


「ハ、レルヤ…?」


沙慈の目撃証言に従い、ティエリアは別の階にある展望室へやって来た。
足を踏み入れようとしたところで、ふと足を止める。
(…あれは、)
少し遠い上に硝子に映る姿では、はっきりしたことは見えない。
だがアレルヤを避け続けていた刹那を知っているティエリアは、何があったのかと思考が停止する。
すると抱きついて顔を俯けている刹那を慰めるように撫でていたアレルヤが、硝子越しにティエリアに気付く。
彼はニッと人の悪い笑みを浮かべ、片方の人差し指を唇に当てた。

(…そうか。だから)

『イノベイター』と関わり始めたことで、ティエリアも脳量子波の使い方が分かってきた。
今なら刹那がアレルヤを避けていた理由も、マリーという超兵を嫌悪していた理由も分かる。
(仕方がないな)
ティエリアはふっと笑みを浮かべ、展望室を後にした。
5分程度なら、融通してやろうと思いながら。

天使が掴んだ、奇跡


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08.12.7

ハレルヤの出番は一瞬だったけど!それでも良いんだ…!
これで行くと、せっつーを挟んでリアルに五角形です(苦笑)