新生ソレスタルビーイング、地上中枢。
王留美と付き人のネーナは、目の前に居る女性の言葉に目を見開いた。

「なんですって…?」

その女性は敵意を隠さないネーナを無視し、留美へ再び同じ言葉を告げる。
「何度でも、同じことをお尋ねします。返事を頂けるまで、何度でも」
眼鏡を掛けた女性の視線は、鋭い。
内に宿る意思は、おそらく死の覚悟と同等に固い。

「"刹那"と名乗る方に、会わせて下さい」


あの方は、私が仕えるべき主。
過去に誓い、そして失ってしまった主。


留美はネーナの通信端末を用い、プトレマイオスへ通信を繋いだ。
「…ごきげんよう。急ですけれど、刹那は居ます?」
『あら、王留美。刹那?今テスト中だから、5分待ってくれるかしら」
「分かりました」
通信を切り、留美は女性へ視線を戻す。
「こちらへどうぞ。画面越しですけれど、会わせて差し上げますわ」
「ちょっ、お嬢様!」
「仕方ないでしょう?ネーナ。貴女、この方を追い返せる?」
「……」
逆に問われ、ネーナは押し黙る。
ちらりと予期せぬ客人である女性を振り返り、眉を寄せた。
(無理だわ)
どれだけ強硬な手段を用いても、彼女は退かないだろう。
それだけの覚悟が、気迫として現れている。
(刹那に、何の用なのかしら?)
気になることも、確かだった。



スメラギからの急な要請に、刹那は首を傾げる。
聞けば、要請の元は王留美。
「刹那。何かやらかしたのか?」
「記憶にない」
テスト相手であったティエリアと共にミーティングルームへ赴くと、すでにスメラギが待っていた。
「急にごめんなさいね、刹那。留美、来たわよ」
モニター画面に留美の姿が映った。

『刹那。早速ですけれど、貴方に会いたいという方がおりますの』
「誰だ?」
『シーリン・バフティヤール、と名乗りましたわ』

刹那に心当たりはない。
しかしティエリアが何かに気付いた。
「名前の音的に、中東系だな」
「……」
なんとなく、嫌な予感がした。
案の定、留美の後ろに映った女性には心当たりがある。

「あんた、確か…」

アザディスタンの。
4、5年前だったか、自分の記憶力の良さに辟易する。
女性はようやく笑みらしい笑みを浮かべ、ホッと息をついた。


『ようやくお会い出来ました。ファンロン皇子』


刹那以外の誰もが、ぽかんと口を開くか目を見開いた。
「お、皇子?!」
『刹那!刹那って皇子様だったの?!!』
『…ネーナ、もう少し声を小さくなさい』
「どういうことだ?」
嫌な予感が的中し、刹那は心中でため息を吐く。

「俺はファンロン・イスマイールじゃない。何度言えば分かる」

幼少期の記憶が一部抜けていることは事実。
だが、それだけだ。
怒りの滲む刹那の返答にも、シーリンは怯まない。

『いいえ。貴方様がどう否定されようと、私には…いいえ、"我々"にとって。
貴方は我らが、かつて仕えることを誓ったファンロン皇子です』
「…ふざけるな」
『重々承知しております。ですが、"あの日"に忠誠の行き場を失った者たちの心中は、
赤の他人でも察せられる部分があるはず』
「……」
『貴方に受け入れられずとも我々は…私は、皇子に付いて行きます。
たとえその道が、"再びの破滅"であろうとも』

留美たちは、女性の言葉にハッとした。
(今のCBを知っている?)
シーリンは畳み掛ける。

『我々は今、アロウズへの反攻組織に属しています。皇子の不利益にはなりません。
ですからどうか…偽りでも構いません、貴方様に再び仕える許しを』

理不尽にも程がある。
押し付けがましいにも程がある。
感情を握った拳に押さえつけ、刹那はシーリンを見据える。

「俺はファンロンじゃない。それは絶対に変わらない」
『…存じております』
「だが、今の世界に疑問を持っているというなら、CBとして撥ね除ける理由にはならない」
『!』

視線を寄越されたスメラギとティエリアは、軽く頷いた。
「…そうね。反攻組織カタロンとは、いずれ接触を図るつもりだし」
「ややこしい事態も御免だ」
実質的にこの新生CBの中心であるティエリアの言葉は、あまりにもらしすぎる。
先陣を担う刹那としては、それが決意を固くさせた。

「偽りでも良いと言ったな。なら、俺がファンロンに代わって許す。
ただし、俺を皇子と呼ぶな。祖国を滅ぼした国の名前なんて、望んで口にしたくない」

区切りをつけた思いに、水を差される。
刹那の言葉を張り詰めた表情で聞いていたシーリンは、しかし心から誓いの言葉を口にした。


『その許しに、我らは最大の敬意と行動をお返し致します。"刹那様"』

真実はとうに砂の中


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08.10.5

ばっちり公式だったシー姐レジスタンス。
カタロン地上部隊との合流はぜひせっつーで!