「初めまして、CBの皆さん。僕の名前はリヴァイヴ・リバイバル。
知っての通り、イノベイターの1人だ」

余裕混じりに浮かべられた笑みは、果たして誰に向けられたものなのか。
誰もがリヴァイヴと名乗ったイノベイターを注視して、刹那が目を軽く見開いたことには気付かなかった。
スメラギは彼を真正面から見据え、問う。

「貴方たちイノベイターのことを、話してくれる?」

しかし彼が浮かべる笑みはそのままだ。
「そう言われて、素直に話すとでも?」
分かり切ったようなことを逆に問われ、スメラギは否定も肯定もしなかった。
リヴァイヴは笑みを深めて言葉を続ける。

「拷問して吐かせようにも、相手は人間じゃないから分からない。そうでしょう?」

その通りだ。
肯定はしないが、沈黙は是と同じ。
「…イノベイターも不死ではない。致命傷を負えば死ぬ」
ティエリアの言葉に、ロックオンが頷いた。
「そうだな、すでに2人を倒してる。それに、俺たちにはあまり猶予がない」
だから手段は選んでいられない。

何とも言えない、不気味な沈黙が降りた。

ふと、スメラギの斜め後ろで黙っていた刹那が前へ出る。
「刹那?」
彼が何をしようとしているのか、おそらくは誰も分からない。
…目の前のリヴァイヴを除けば。
刹那はテーブルに片手を付き、座っているために目線の低いリヴァイヴをじっと見つめ、言った。


「俺が問えば答えるか?"レヴィ"」


刹那が呼んだ名前は、紛うことなく"愛称"だ。
どういうことかと驚くCBの面々に対し、けれど刹那は何も言わない。
一方で、リヴァイヴは楽しそうに笑った。

「ふふっ、もちろん。言ったでしょう?
君に尽くさない人間が居るならお目に掛かりたいって」

でも、外野は余計だよ。
リヴァイヴは刹那の周囲の面々…正確にはティエリアを見て、意味ありげに目を細める。
刹那は彼に軽く頷き、戸惑う仲間たちを振り返った。
「悪いが、席を外してくれ」
問い返したところで彼からの答えがないことは、スメラギもよく分かっている。
彼女はしばしの間じっと刹那を見つめ、そして軽く息を吐いた。
「…いいわ。必ず、私たちに必要な情報を」
それに刹那が頷いたことを確認し、スメラギは指示を出した。
「私たちは出ましょう。ここは刹那に任せて」
「しかし…」
「アレルヤ。貴方、拷問したい?」
「…いいえ」
「ロックオン、貴方ならどうする?」
「……」
「なら、文句は無いでしょう?」
ティエリアは1人、不可解な刹那の言動に思い当たる節があった。

「刹那、まさか…」

思わず彼の肩を掴むが、刹那は軽く首を横に振るだけだ。
ティエリアの手にもう片方の手を乗せ、刹那はそっと呼び掛ける。
「…ティエリア」
ほんの数秒だけ見つめ合い、不安を残したままティエリアは刹那から離れた。

最後まで部屋に居た彼に、扉が閉まる瞬間に鋭く睨みつけられたことをリヴァイヴは知っていた。
扉向こうの気配が去ってしまうまで、口は開かない。

そうしてしばらく待ってから、リヴァイヴは呟いた。
「ティエリア・アーデ…。リジェネそっくりだけど、中身はまったくの逆っぽいね」
あの滅多に屋敷から出ない同僚は、いつでも飄々としている。
リヴァイヴは無重力を利用してひょいとテーブルを越え、刹那の目の前へ降り立った。
「傷の具合は?相当深いって聞いたけど」
以前、アリー・アル・サーシェスに撃たれた右肩のことだ。
刹那はそんなことより、とじっとリヴァイヴの眼を覗き込む。

「なぜ眼が金色なんだ?そんな色ではなかったはずだろう」

そうだよ、とリヴァイヴは頷いた。
「だったらなぜ…?」
首を傾げる刹那の腕を取り引き寄せて、彼は笑ってその耳元で囁く。

「それは、この艦に別のイノベイターが乗っているからさ」
「別…?」
「ティエリアじゃないよ。彼は既に、僕らの干渉範囲外に居る」

それはつまり。
「!」
意味を悟った刹那を制するように、リヴァイヴは掴んだ腕を強く引いた。
「駄目だよ。君を行かせると話がややこしくなる」
「…放せ」
「駄目だってば。00は奪わせないから安心しなよ」
「なに…?」
訝し気にこちらを見つめる刹那の頬を軽く撫でて、拘束もしなかった先の彼らに感謝する。
「リボンズの目的は00。でも僕らは、同じイノベイターでも同じ思考を持ってるわけじゃない。それに…」
「それに?」
鸚鵡返しにした刹那へ、リヴァイヴは答える前に口付けた。
言葉の続きは返らないだろうと結論を出した刹那は、交わす口付けの合間に問い掛ける。

「お前たちは、なぜ00を狙う?」
「ヴェーダにツインドライヴの情報が無いから」
「…リボンズ・アルマークの、目的は」
「世界を自分の手で導きたいんじゃない?彼は権力志向が強いからね」

互いに唇を重ね合いながら、思考が快楽へ堕ち込んでしまう前に進むことを止める。
それは存外神経を使うもので、どうせならばさっさと堕ちてしまいたいと心の内で悪態を突いた。
未だ金色に輝き、時折別の色を流すリヴァイヴの眼をゆるりとなぞって、刹那は問いを続ける。

「この艦に居る、お前以外のイノベイターは?」
「ティエリア・アーデ」
「もう1人は」
「アニュー・リターナー」
「……最初から、仕組まれていたことか?」
「半分、といったところだと思うよ」

フッ、と照明が落ちた。
「何だ…?」
通信機が着信を知らせ、刹那はリヴァイヴから少し離れて端末を開く。
『刹那、刹那!聞こえてる?!』
「ああ。どうしたんだ?」
スメラギの切迫した表情が映った。
『アニューが…アニューがラッセを撃って、ミレイナを人質にして格納庫へ向かっ…』
ザッとノイズが走り、通信が不自然に途切れた。
リヴァイヴは扉を見ながら、感心したように笑う。
「なかなかに、出来の良いコンピュータウイルスを造ったみたいだ」
自分を見据える強い視線をぴりぴりと感じ、怖いなあと肩を竦めた。
「00は奪わせないと言ったでしょう?仕方がないから、支援機も無傷にしておくよ」
刹那を振り返ったリヴァイヴは、彼を見て恍惚とした表情を浮かべた。

「あともう一息だ。あと1度の出撃で、君は"革新の扉"を開けることが出来る」

最高だよ、と喜色を隠さない相手に、刹那は何のことだと眉を顰める。
…まだ彼は、自分の眼が目の前の人物と同じ色に変わっていることを知らない。

明かりが戻る気配はまったく無く、艦の設備を担う電力もしばらくは回らないだろう。
それに、この艦が重度の人手不足であることも幸いだ。
「ここで君を抱いてしまっても良いかな」
「馬鹿を言うな」
即座に返した刹那に、別に良いじゃない、とリヴァイヴはいつかのように笑った。

少し干渉すれば、彼にはすぐに観えた。
アニュー・リターナーの機体とケルディムガンダム、2機の死闘が。
『戻って来い』と叫ぶ男と、『愛しているのは本当なの』と叫ぶ女が。
もちろん、刹那にそれを告げる気はない。
00が無傷で手元に残る代償としては、安いものじゃないかと胸の内だけで嘲笑う。

今回の『ゲーム』は、どちらかの死でチェックメイト。

なんて愉快な悲劇!


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09.2.19

20話以降のライルがよほど気に食わんらしいね、私は。
アレ以降に加筆したものだから、酷い。酷すぎる…。でも批判等々お断り。
ライアニュは飛躍し過ぎてて(あと好みじゃなくて)まったくもって受け付けられないです。