STAR DRIVERの世界に00介入(2)
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エンドウ・サリナは、嘆息した。
(ああ、なんて学年だろう)
これはなんというか、在るべくして集まってしまったのではないか?
そう舞台的な台詞を吐いてしまいたいくらい、今年の新入生は集まっている。
何がって、目立つ少年少女が。

皆水(ミナミ)の巫女、アゲマキ・ワコ。
シンドウ家の嫡男、シンドウ・スガタ。

彼ら2人は、元々が相当な話題性を持っていた。
けれどそれで収まらないのが、今年入学してきた1年生たちで。

たとえば、グラン・トネール財団総帥の妻である、ワタナベ・カナコ。
彼女の付き人であるダイ・タカシ、そしてシモーヌ・アラゴン。
シンドウ家の使用人であり、スガタのお側付きであるスガタメ・タイガー。

極めつけは、島の外からやってきたツナシ・タクト。

演劇部の新入部員たちのクラスへ立ち寄ってみて、サリナの嘆息は冒頭へ戻る。
(だって、さらに増えてる…)
見知らぬ顔が、それも非常に目立つ存在が、増えていた。

別に、それは良いことなのだ。
自分も島の外の人間であるから、よく思う。
島は、閉鎖的だ。
だからこそ、外部の人間は多い方が良いこともある。
教室の外を遠巻きに取り巻いている…ようにしか見えない生徒たちを尻目に、サリナは開けっ放しの扉をコンコンと叩いた。

「お邪魔するよ、新入部員諸君」

すでに10分前から部活動の時間帯であるから、教室の外の取り巻きは帰宅部だろう。
教室に居るのはサリナの後輩たち、つまり大部分は演劇部の面々で。
「あっ、部長! すみません、遅れて…」
サリナの姿を見てハッとしたワコへ、軽く手を振った。
「構わないよ。私が気になって来ただけだし、それは正解だったようだ」
視線を彼女の向こうへやれば、やや日本人離れした少年の姿が目に入る。

「タクト、その人は?」

色白で、眼はルビーのように赤い。
綺麗な黒髪は少しだけ癖があるようで、ストレートではない。
真っ直ぐにこちらを見つめる彼は、明るく、そして裏表がなさそうだ。
(…なんか、快活な雰囲気がタクト君に似てるね)
彼に問われたタクトが、サリナを紹介した。
「ああ、彼女は演劇部の部長で、エンドウ・サリナさん。3年生だ」
紹介に合わせて、軽く会釈した。
「初めまして。君たちは、転校生…だよね?」
見覚えが無い上に、こんなに目立つ彼らを見逃すはずもない。
尋ねた相手は、こくりと頷いた。

「うん。手続きが遅れて、今日入ってきたんだ。オレはシン・アスカ。
で、こっちが…」

彼は隣へ視線を向け、その相手が口を開く。
「刹那・F・セイエイ。名前は違うが、シンとは双子だ」
予想は違わず、彼らは双子だった。
刹那と名乗った少年の方は肌が浅黒く、中東のイメージを思わせる。
髪は黒いがややくるくるとしていて、癖が強いらしい。
表情も口調も淡々としており、眼の色は赤褐色だ。
「双子は珍しいね。私も3年前に本土から渡ってきたけど、双子に会ったのは初めてだな」
「そうなのか」
「ええ。ところで手続きが遅れたって言ってたけど、どういう意味?」
素朴な疑問を投げてみれば、とうに事情を聞いていたのだろうスガタが答えてくれた。
「海外に住んでいて、日本の入学と手続きの時期を失念していたらしい」
なるほど。
スガタはサリナからタクトへ視線を移した。
「タクトと部長以外は僕も含めて、みんな島の出身だからね。
そういった話自体が新鮮だよ」
確かに、タクトは入学当初から、言い方は悪いが異分子扱いだった。
ワコが興味津々といった様子でタクトへ問い掛ける。

「ねえ、タクト君。シン君と刹那君と、知り合いなんだよね?」

ほう、とサリナは目を瞬く。
「そうなのか?」
タクトは頷いた。
「3、4年前、だったかな。家が隣同士で」
「もうそんな前だっけ。いっつも3人で遊んでたな」
当時を思い出して笑みを浮かべるシンに、過去形の意味を尋ねた。
「遊んでた、ってことは、引っ越したとか?」
「ああ。両親が海外勤務で、基本的に定住が出来ない。
日本に居たのは1年と少しだったから、あれは長い方だったが」
答えてくれたのは刹那だった。
サリナは彼の言葉を聞いたタクトが、少し寂しげな表情に変わったことに気づく。
(…別れるとき、本当に寂しかったんだろう)
明るくて、朗らかで、見て話したこちらが元気を貰ってしまう。
そんなタクトにも、暗い影はある。
タクトだけではない。
誰にだって。

「…では、今日の部活は臨時休業にしようか」
「えっ?」

タクト、ワコ、スガタが首を傾げ、シンと刹那は不思議そうにサリナを見上げる。
彼らの様子に軽く首を傾げ、笑った。
…年長者としての気配りこそ、もっとも求められるもの。

「タクト君は、旧友との久々の再会だ。積もる話もあるだろう。
そしてシン君と刹那君は、今日入学してきたばかりだ。
旧知の者に学園を案内してもらう方が、ずっと良いだろう?」

それもそうだ、と他の面々も頷いた。
「2人も寮生だったな。それなら僕やワコより、タクトの方が良い」
「だよね。私たち、先に帰ろっか」
タクトがシンと刹那を振り返れば、彼らもサリナの提案に賛成した。
「すまない」
「ありがとう!」
彼らの返答に満足して、部外者はさっさと退散だ。
「明日は部の活動日だ。サボるんじゃないぞ」
「じゃあタクト君、お先に! また明日!」
「また明日」
手を振った友人たちに、タクトも手を振り返した。

「また明日!」

end. (2010.11.16)


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