STAR DRIVERの世界に00介入(3)
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3人集まると、真ん中を歩くのはいつもシンだった。
それはタクトとスガタ、ワコが集まるとワコが中央に来るように、変わることが無い。
「えっ、寮じゃない?」
帰り道、タクトはシンの言葉に驚いた。
スガタたちとの話では、寮生だと言っていたはずだが。
シンは曖昧に笑う。
「寮に申請はしてあるんだ。でも、たぶん使わない」
「…どういうこと?」
聞き返すと、シンの表情が曇った。
その隣で、刹那が口を開く。
「俺が無理だ」
「え?」
言葉よりも雄弁に語る刹那の目を見て、タクトはあっと息を呑んだ。
「俺は、ああいうところで暮らせない」
失念していた。
刹那が、戦争を直に経験していることを。
(そうだ。刹那は…)
シンと刹那は中東の生まれで、彼らの祖国はいつだって内戦状態で。
6歳以上であれば子供も戦力として数えられ、洗脳に近い形で戦場へと送られる。
刹那は自らが少年兵となることで、シンを国外に逃がしたのだ。
「…ごめん。嫌なこと聞いた」
彼らにとって、決して良い思い出などではない。
しかも刹那の身体には、刺し傷も切り傷も、銃創だってある。
教師はともかく生徒がそれを見れば、余計な軋轢が生まれるだろう。
(初めて見たあの衝撃は、忘れられない)
…決して刹那の所為ではないのに。
謝るタクトに、刹那は首を横に振る。
「気にするな。お前は"知りたい"と言ってくれたから」
彼が浮かべた微かな笑みを、タクトは見逃さなかった。
「そっか」
何となく照れくさくなり、笑みで誤摩化す。
(昔は気づけなくて、気づけたときはほんと嬉しかったよな…)
刹那は滅多に表情が変わらない。
一方で、シンは感情表現が豊かだ。
嘘をつくのも苦手で、素直ゆえの諍いを度々起こしていた。
当時、今程吹っ切れていなかったタクトは、彼のように明るくなれたらと羨望の眼差しを向けていた。
2人の過去を知ったとき、なぜそれでも笑えるのかと問うほどに。
「あれ? じゃあ2人はどこに住んでるんだ?」
最初の疑問に思考を戻し、再度尋ねた。
タクトと同じ寮生でないなら、島に親族が居るのだろうか。
幹線道路に出ると、シンが港のある方角を指差す。
「港の向こうにある入り江、行ったことあるか?」
「ああ、2度ほど」
クラスメイトであるワタナベ・カナコのフェリーで、アルバイトをした。
入り江にあるのは、彼女の住居たる豪華客船だけ。
「…え、まさか」
意図せず顔が引き攣ったタクトに、シンは頷いた。
「オレたち、本当は仕事で来てるんだ。仕事って言っても、休暇の方が多いけど」
「仕事って…どんな?」
「ミセス・ワタナベの話し相手兼、彼女のSP兼、SPの教育」
「は…」
開いた口が塞がらない。
休暇がイコール、学園生活というわけだ。
「あのフェリーで暮らしてる…? というか、暮らすわけ?」
「そう」
「マジで…」
「護衛関連は刹那だけど。たまにあのフェリー、財界要人が来たりするから」
「…うわあ」
次元が違う。
これは、一般人では付いていけない。
タクトの様子に、シンは苦笑を零した。
「今度、また詳しく話すって」
ワタナベ・カナコのフェリー停泊地と、学園の寮は反対方向だ。
また明日、と告げて分かれようとしたタクトを、刹那が呼び止めた。
「タクト」
「ん?」
呼んだは良いが言葉に迷う刹那を、首を傾げて待つ。
数秒後、彼はようやく口を開いた。
「正直、こんなところでお前に会うとは思ってなかった」
「…だよねぇ。僕も思う」
肩を竦めたタクトに、まったくだと返す。
「でも、お前にまた会うことが出来て、本当に良かった」
挨拶代わりにハイタッチ。
彼らと別れて、タクトは足取りも軽く寮への道のりを歩く。
(その言葉、そっくり返すよ。刹那)
嬉しいことが、数え切れない。
―――この島に来て、本当に良かった。
end. (2011.1.16)
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