STAR DRIVERの世界に00介入(4)
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刹那・F・セイエイが『普通』ではないのだと思ったのは、何となく感じた違和感からだった。
それは古武術の師範代を名乗るスガタだからこそ、気づけたのかもしれない。

タクトに剣術の指南をしてほしいと頼まれた、それは切っ掛けだった。
その場にシンと刹那も居たから、彼らも誘うのは自然なことで。
結果としてシンドウ家の道場には、タクトとワコ、そしてシンと刹那が居た。
もちろん、世話役としてジャガーとタイガーも居る。

スガタは古武術だけでなく、剣道でも有段者だ。
タクトも二刀流などと、普通では扱い得ない流儀を手にしている。
しかし独学の多いタクトの剣術は、隙が多い。

1回、2回、3回。

ついにタクトが音を上げた。
「あああ、だめだー! スガタ、全っ然隙がねえよ…」
おまけに息も上がっていない。
思わず苦笑が出た。
「伊達に師範代じゃないからな」
「ですよね…」
がっくりと項垂れたタクトに、シンが嬉しそうに笑う。
「タクト、凄く強くなったんだな」
オレが知ってるタクトより、ずっと強いよ。

彼の言葉に、ふと疑問が湧く。
タクトは、昔から剣術をやっていたのだろうか?
同じく気になったのか、タイガーがシンへ問い掛ける。
「お2人は、武術などされているのですか?」
「…うん、まあ」
シンは頷いたが、返答は曖昧だ。
スガタは彼の隣で沈黙を貫く刹那へ、単刀直入に意見を述べた。

「アスカ君は分からないけど、君は相当に強そうだな。セイエイ君」

表情は変わらなかったが、赤褐色の眼が軽く見開かれる。
(図星か…)
そしてタクトが何かしらの理由に思い当たり、困惑する様子を見せた。

誰もに目的があるように、シンと刹那もただの転校生ではない。
けれど、理由は彼らにしか分からない。
タクト自身もまだ、聞けていない。
(凄いな、スガタは…)
武術を極めている彼だからこそ、他者のそれを見抜けるのだろう。
だが今回は、勧められない。
口を開こうとしたが、スガタの方が早かった。

「鍛錬するにしても、同じ相手ばかりじゃ鈍(なま)ってしまうと思うけど」

刹那の目は、如実に『止めておけ』と語っていた。
彼は言葉でも表情でもなく、目に感情が現れるのだとスガタは気づく。
携帯電話で何かを確認してたシンが、不意に声を上げた。

「タクト。この人たちは、本当に"大丈夫"なのか?」

一度全員を見回してから吐かれた言葉は、真実『秤』だった。
それはタクトとてよく分かる。
だからこそ、彼は迷いなく頷いた。

「ああ。大丈夫だ」

溜め息のように、刹那が言葉を零す。
「…さすがに、タクトは疑えない」
それは信頼の深さなのだろう。
数年ぶりに再会したという事実も、無意味になるくらいに。
刹那の強い視線が、スガタへと向けられた。
「条件がある」
「条件?」
「そうだ。得物を使うなら、防具を身につけろ。それが無理なら素手でやる」
それから、と彼の目はジャガーとタイガーを捉える。
「あんたたちは、危ないと思ったらすぐに止めに入れ」
「え?」
まさかそのようなことを告げられるとは思わず、彼女らは揃って返答を逃した。
どういう意味なのだろう?
―――それに気がついたのは、忠告虚しく終わった後だった。

道場の中央で、スガタと刹那が向かい合う。
「!」
2人が目を合わせた瞬間に張り詰めた空気は、はっきり言って『異常』だった。
(これ…不味く、ないか?)
タクトが危惧した瞬間、刹那の姿が消える。
(っ、速い!)
ガードに上げた腕が痺れた。
スガタの返した拳は空を切り、気配は既に背後。
今度は避けた。
しかし反撃も虚しく、躱されてしまう。

刹那の動きは、一切の型に嵌っていなかった。
隙があるように見えても、いなされる。
小柄であることも手伝って身が軽く、速い。
そして何よりも。

(! もしかして)
スガタが思考で余所見をしたことが、不味かった。
「っ!!」
「スガタ様っ?!」
左肩に走った電撃のような痛みと、ジャガーたちの叫びが重なる。
痛みの原因はすぐに解放され、スガタは内心でホッとした。
刹那がスガタから離れる。

「…確かに隙はない。だが先を読むことを止めれば、それは隙になる」

離れ際の言葉は、まったくその通りだ。
駆けて来ようとしたジャガーとタイガーを浮かべた笑みで押し止め、スガタは笑った。
「返す言葉も無いな。でも、ありがとう」
「? 何が?」
「僕の我が侭に付き合ってくれて」
率直に礼を告げたのだが、刹那はよく分かっていないらしい。
会話が途切れたそのとき、タクトが大きく息を吐いた。
「ちょっと、何で外野の僕らがこんな緊張しなきゃ駄目なんだよ…」

寿命が縮まりそうだ、と続いた台詞に、ワコが噴き出した。

end. (2010.12.12)


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