STAR DRIVERの世界に00介入(5)
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波音が、聴こえる。
海風が、髪を浚う。

「おや、先客が居るとは思わなかったな」

声を掛けられ、刹那はそちらを振り返る。
大学生かと思われる、柔らかな面差しをした男が立っていた。
(この男…)
これは、知っている気配だ。
だが、学園の中では見つけたことの無い気配だった。
…学園へ来てひと月も経っていない刹那が知る場所は、2カ所しか無い。
この南十字学園と、その『地下』。
学園でないなら、『地下』の可能性しか残らない。
(綺羅星十字団の人間か…)
あっさりと結論付けられるレベルの選択肢だ。
(試してみるか?)
綺羅星十字団の者たちは、皆が皆、条件反射のように独特の敬礼を行う。
つまり、その敬礼を知っている者は綺羅星十字団員である。
そんな推測を、シンと共に立てていた。
だが、試す前に訊いてみる。

「…あんた、どっかで会ったことないか?」
「いや? ないと思うよ。君は中等部…いや、高等部の子かな?」
「ああ」

仮面は誰もの『内』を隠す。
表情が窺えないと、人は相手の感情を推し量れない。
首だけでなく身体ごと相手へ向き直り、刹那は企てを実行する。
「綺羅星!」
右手を使う敬礼に、間髪置かず同じものが返された。
「綺羅星! …君は」
こちらが誰なのか思案の様子を見せた相手に、刹那はあっさりと手札を投げ渡す。

「やはり、あんたは『ヘッド』か」

顔が分からないなら、判断材料は背格好に髪色、そして話し方と声。
訝しげにこちらを見つめて、数秒。
男の表情が笑みに変わった。

「…なるほど。君は『エクスシア』か」

よく分かったな、と『ヘッド』は苦笑する。
「俺は学園にはほとんど通っていない。
だから団員に出会うことも、ましてや正体を掴まれることもないはずなんだけどなあ」
素晴らしいね、と続けて感嘆する男に、どこが、と返す。
「声や髪型は変えられても、気配は変わらない」
「うーん、"気配"と来たか。確かにそれは、変えることが出来ないね」
名前を聞いても良いかい?
隠す必要性がないので、刹那は素直に答える。
「刹那・F・セイエイ。あんたは?」
「俺はミヤビ・レイジ。君はなぜここに?」
『ヘッド』…いや、レイジは1つだけ据えられているベンチに腰掛け、問うた。
刹那は海へ視線を戻す。
「…学園を全部見ていないから、歩き回っていた。そしたらここに着いた」
「もしかして、この妙な時期に転校して来たのかい?」
「そうだ」
それは大変だね、と返され、何がだろうかと考える。

日が、落ちてきた。

「あんたはいつもここに来るのか?」
同じく落つる太陽を見ているであろうレイジに、刹那は声だけで尋ねた。
あまり大きくはない背を見つめて、レイジは首肯する。
「そうだよ。この島で、ここが一番夕日が綺麗に見える」
意外と知られていない、絶景スポット。
…だからだろうか。
稀に訪れるレイジ以外の見物人は、珍客が多い。
(シンドウ・スガタといい、この彼といい…)
なかなかに、面白い偶然ではないか。

転校してきたばかりなら、この刹那という少年は『銀河文明の遺産』に詳しくないだろう。
けれど彼はほんの僅かな期間で綺羅星の入団試験をパスし、スタードライバーの資格まで得た。
(綺羅星十字団創設以来の、好成績を土産に)
無関係では有り得ない。
『銀河文明の遺産』の何かしらを目的に、この島へやって来たと見て間違いない。
そしてレイジはつい先日、彼曰く"面白い偶然"であることを実行していた。

「第1隊・エンペラー。なぜあんたは、誰も居ない隊に俺を所属させた?」

これもまた、面白い偶然だ。
たった今レイジが思い出した事柄を、刹那が口にするなど。

正確には、"第1隊が空席でなくなった場合は、第1隊所属とする"だ。
それまでは第2隊・バニシングエージ所属となっている。
知らず口元に浮かべていた笑みは、消える気配もない。
「君の腕を、見込んでのことさ」
サイバディを操るあの腕前は、"王"直属たる第1隊にこそ相応しい。
刹那に本物の"シルシ"は無いかもしれないが、それを補って余るものがある。

(この子はただの子供じゃない。おそらくは…)

サイバディがなくとも、シンドウ・スガタを抑えられるかもしれない。
あの、ツナシ・タクトのように。

end. (2011.2.6)


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