カナキラがデスノートに居たらどうだろう。
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一度。
それはたった一度だけの出来事だった。
まだ月(ライト)がデスノートを放棄せず、L(エル)と心理戦を繰り広げていた頃。

デスノートを持ち犯罪者を裁き、世の中に"KIRA"として存在している月。
その月が与り知らぬ心臓麻痺による死亡事件が4件、世界の別々の場所で同時に発生した。
死神リュークに問い質しても、今回ばかりは本当に知らないと言う。
Lにしても今までの"KIRA"と条件が違っていたため、心理戦も程々に月へ意見を求めたくらいだ。

「月くん、先日起きた事件をご存知ですか?」
「世界的権威の科学者が4人、心臓マヒで死んだ事件のことか?」
「…その通りです。しかし、よく分かりましたね」
「お前が僕に振って来る話なんて、"KIRA"事件以外に無いだろう」
「確かに。では単刀直入にお聞きします。月くんはこの事件を、"KIRA"の仕業と考えていますか?」
「つまりお前は、"今までのKIRAではない"と考えているんだな。お前の中じゃ、僕がその"KIRA"なんだから」
「確率は7%です。それで?」
「…今までの"KIRA"じゃあないだろう」
「やはり、そう思いますか」
「だってそうじゃないか。あの4人は犯罪者だったのか?」
「いいえ。寧ろ逆かと思われる人物でしたね。一部、不可解な研究に臨んでいたという話がありますが」
「不可解な研究?」
「真実かどうかは別ですが。いわゆる、『デザインベビー』を誕生させようとしたとか」
「何だそれ?」
「夢物語ですよ。理論的には可能でしょうが…」
「…人の話を聞いているか?竜崎」
「すみません。この話とは無関係ですが、少し思い出したことがありまして。
『デザインベビー』というのは、アレです。受精卵の段階で遺伝子を操作し、理想の外見と能力を持って産まれた子供」





Lが、死んだ。

ふとした拍子にそれを告げられた瞬間を思い出し、ニアは眉を顰めた。
散乱した玩具の向こうには、せっせと"KIRA"事件の情報を集める部下たちの姿。

(L、なぜ貴方は…)

負けてしまったのか。
同じ轍は踏むまいと、ニアはもっとも疑わしい人物を"KIRA"と断定して追っている。
こちらが証拠を掴むのが先か、それともあちらが自分の名前を知るのが先か。

(メロ、貴方はどこまで掴んだ?)

行動力が人の何倍もある彼のことだ。
自分とはまったく違う方法で、やはり"KIRA"を追っているに違いない。
少し考えを整理してみようかと、テレビのリモコンを手に山と積まれたテレビ画面に向き合う。
しかし、さて、と思ったところで部下の1人が邪魔をした。

「ニア!侵入者だ!!」

違った。
邪魔ではなく報告だ、それもかなり危険な。
常に座っている椅子から立ち上がり、その意味を問い質そうと口を開く。
だがニアの行動は、そこで中途半端に止まった。
侵入者、と言った部下が詳細を続けようとするのを手で制する。
その部下の向こう…つまりこの部屋への出入り口から入って来た人物に、呆気に取られたからだ。

「キラ…?」

部屋の空気が一気に張り詰める。
ニアはたった今口に出した名前の意味を、その一瞬だけはすっかり忘れていた。
対する人物も気にする素振りを見せず、にこりと笑って手を上げる。

「お久しぶり、ニア」

ニアの表情は嫌悪や猜疑ではなく、純粋な驚きのみを乗せていた。
緊張が走った部屋の中も、それを知ってわずかに緩まる。
そんなことに気を回す余裕も忘れて、ニアは自分の思うところの疑問を声に出す。

「どうやって…は、聞くだけ野暮ですね。なぜここへ?」
「ちょっと、ね。Lが死んだって聞いて」
「……」

つい先ほどまで考えていたことを、目の前の彼が同じように。
ようやくニアは我に返り、呆気に取られたままの部下を見回して言った。

「彼はキラ。仕方が無いので"K(ケィ)"と呼びましょうか。私と同じ施設出身で、私たちよりもずっと優秀です」

今度は緊張ではなく、驚きが部屋を満たした。
それはまだニアも解けておらず、目の前の旧友に違和感を感じる。
ただ不思議に思っただけで、すぐにその理由に思い当たった。

「K、カナードは?彼は一緒ではないのですか?」

もう6年近く前になるだろうか。
まだニアは施設の子供の中で1番ではなくて、3番だった。
4番はメロ、その頃は2人揃って自分たちより上の2人を追いかけていた。
それがキラ…つまりKと、その兄であったカナード。
彼らはいつも一緒で、2人ならばLも負けを認めるほどの子供だった。
自分たちより1年早く施設を出て、そこで音信は途切れる。
Lやその右腕であったワタリならば、彼らの行き先を知っていたかもしれない。

キラの表情に影が差した。
それはとても暗いもので、期せずしてニアは悪寒を覚える。
暗い、暗い影のある笑みを浮かべて、彼は静かに口を開いた。


「カナードは、死んだよ。4年前に…ね」

end. (2007.1.4)


キラとカナードはワイミーズ育ち。遺伝子操作で生まれたデザインベビー。
深刻な遺伝病を抱えていたカナードは、ワイミーズを出た2年後に死亡。
別の死神のデスノートを手に入れたキラは、自分たちを生み出した科学者を殺害。
やることがなくなったので、ニアに会いにきてみた。
…そんな暗すぎる設定だった気がする。



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