カナキラがDグレに居たらどうだろう。
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ガヤガヤ。
久々にやって来た食堂は夕食時であることも手伝って、賑やかだった。
アレン・ウォーカーは嬉々として料理長のジェリーの元へ向かう。

「えーと、カルボナーラと鮭のカルパッチョとミートパイと…(略)…デザートにガナーチョコケーキとみたらし団子を20本で」

彼の変わらぬ食べっぷりにジェリーは腕が鳴ると笑ったが、さすがに時間が掛かると言われた。
そこでアレンは、どこか適当な席に座って待とうかと食堂内を見回す。
すると一角から自分を呼ぶ声が。

「アレン、こっちさ〜」

歴史を記憶するブックマン、その弟子であるラビだった。
向かいに空いた席へ腰を下ろし、お互いに久しぶりだと笑い合う。

「いつ帰って来たんですか?」
「ん〜、4日前。無駄足踏まされたさ。アレンの方は?」
「僕たちの方も無駄足でしたよ…。あ、でも」
「?」
「コムイさんが、夕食終えたら部屋に来るようにって言伝です。ラビにも」
「ふぅん、じゃあ次はアレンと任務?あ、出来たみたいさ」
「え?あ、ホントだ!」

厨房に背を向けて座っていたアレンと違い、ラビにはジェリーのジェスチャーがよく見えた。
さすがに、戻って来た彼がテーブルに置いた料理の数には…絶句したが。

「よくそんなに食えるさ…」
「え?普通ですよ。今日はちょっと少なめですけど」
「(これのどの辺が少なめ…?)」

しゃべりながらも、アレンは物凄いスピードで料理を片付けていく。
これまた久々である教団本部の食事に、"家"があることの幸せを感じる。
次の任務が控えていそうではあるが、今日はよく眠れそうだ。


ざわっ。


食堂内の空気が、突然に動揺した。
何だろうかと自分の周りを見ると、誰もが食堂の入り口を凝視している。
食事の手を止めて同じく入り口を見てみると、2人のエクソシストが入って来たところだった。
…エクソシストは、纏う団服により一目で分かる。
静寂に支配されてしまった食堂を、その2人は自分たちが原因であるなど知らぬかのように歩き厨房へ辿り着く。
(初めて見る人だな…)
基本的に、新人のアレンが会う人間の7割超は初見である。

どちらも男性のようで、片方は鳶色の短い髪に穏やかそうな顔つき。
もう1人は長い黒髪、先の人物よりも少し背が高い。
アレンの知る黒髪の男性エクソシストと違って、こちらは長い髪をまとめてはいない。

向かいでラビが軽く口笛を吹いた。

「運が良いさ〜。"Core brain(コア・ブレイン)"に会えるなんて」
「…"Core brain"?」

ラビを振り返ると、彼の視線はその2人に固定されたままだった。
しかしアレンの問いかけはちゃんと聞いていたらしい。
「ちょうど良いから、アレンにも紹介するさ。あ、けどちょっとこの皿の量は…」
「あっ!ごめんなさい、すぐ片付けますから!」
猛スピードでテーブルを占領する料理を食べ始めたアレンは、ある意味でまた人間離れしている気がする。

「キラ!カナード!」

静けさが破られていない食堂だ。
少し呼びかけるだけで、彼らはすぐに気付いた。
二人は受け取った料理を手に、向かい合って座るラビとアレンの横にそれぞれ腰を下ろす。
視線を受けていることを感じたアレンが口を開くよりも先に、鳶色の髪の人物が積み上がった皿を指差した。

「これは…ひょっとして君が食べたやつ?」
「ええと、そうですが…?」
「…全部?」
「えと、はい…?」

すると彼はアレンを上から下までざっと見て、そして可笑しそうに笑った。

「すごいね。こんなに食べれる人見たの、初めてだよ」
「アレンの胃袋はブラックホールさ。な?」
「…僕にも一応、限界ってものがありますけど」
「マジ?!」
「……本気で聞いてるんですか?ラビ」

ジト目になったアレンに対し、冗談だと言いつつそうでもないような笑顔でラビは躱す。
そこで今まで言葉を発していなかった、黒髪の人物がアレンへ尋ねた。

「お前がアレン・ウォーカー?」

幾度となく問われた問いだ。
最小限のそれに含まれる多くの意味をアレンは正確に読み取り、且つ、最低限に答えた。

「はい。学んだ師はクロス・マリアン元帥です」
(…あのクロスが、"師"?)
(うっわー…この子、苦労してそう…)

いつの間にやら賑やかさが戻った食堂の中で、アレンのいるテーブルだけがまた静かになった。
まだ名前も知らない二人が思っていることが、容易に想像出来る。
アレンはそんな自分が、冗談抜きで可哀想に思えた。
(被害妄想でもなくて事実なのが、なおさら…)
そんなアレンに気付いたのか、鳶色の髪の人物はがらりと話題を変える。

「ごめん、自己紹介してなかったね。僕はキラ、そっちはカナード。
ヘブラスカより少し後だけど、黒の教団の古参メンバー」

『古参メンバー』という言葉には、様々な意味が詰まっている。
黒の教団設立時代からのメンバー。
経験の長さから、元帥と同等以上を誇る戦闘能力。
善くも悪くも、黒の教団を知り尽くしていること。
そして、"キューブ"に刻まれた文書を正確に把握していること。

キラという人物は、取っつき易く穏やかな人柄だった。
少なくとも、アレンの第一印象はそれだ。
もう1人のカナードという人物は、自分たちの向かいでラビと難しそうな話をしている。
…どのような人物なのか、掴みにくい。
そんな第一印象を抱いた。

「あー、いたいた!キラ!カナード!食事済んだら司令室な!」

食堂の向こうの廊下から、科学班班長リーバーの声が飛んで来た。
キラはそれに手を振ることで答える。

(あれ?今から司令室ってことは…)

end. (2007.1.2)


キラとカナードは『コア・ブレイン』と呼ばれる、真実に近い位置に立つイノセンス適合者。
エクソシストではあるが、イノセンスを破壊することが出来る。
ゆえに、いつノア側に転んでもおかしくない。伯爵たちも、隙あらば勧誘に来る。
実はラクスとミーアがLv4程度のアクマで、彼らと一緒に暮らしていたり。
…我ながら、よく分からん設定だった。



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