〜騎士たちの宴 《黒の騎士団》
「名実共に、この国は『日本』へ戻った。破壊しか出来ない『ゼロ』の役目は、ここで終わりだ。
『黒の騎士団』は今後、皇神楽耶とキョウト六家を主として活動を続けてくれ。
『ゼロ』はこれを以て姿を消す」
その場に居た幹部たちも、回線を通じて彼の言葉を聞いていた全ての団員も、戸惑いを隠せなかった。
何事か問おうとする幹部たちを制し、ゼロは先を続ける。
神楽耶と桐原だけが、静かに笑みを浮かべていた。
「日本がブリタニア軍を撤退させたことで、各属国エリアが救いを求めてくるだろう。
中華連邦やEU、プロイセン、インド諸国も対ブリタニアの共同戦を買って出よう。
それを引き出せるお前たちの力は、存分に誇れ。私という存在がなくとも、それは騎士団の力だ。
騎士団設立時の、私の言葉を覚えているか?
《撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ》
撃たれる覚悟だけは、決して忘れるな。その手に取った銃を、捨てる日が来たとしても」
過ぎ去った年月は、早い。
失ったものも手に入れたものも、多かった。
「…ありがとう。ここまで私に付いて来てくれた諸君には、いくら礼を述べても足りないな」
この演説映像は、騎士団の施設にのみ流されている。
騎士団の人間以外は、誰も知らない。
報道に関する全権を任されているディートハルトは、いつもながら『ゼロ』の演説に感嘆していた。
(まったく、人間心理というものをよく把握していらっしゃる)
彼を間近で追える機会も残り僅かだと思うと、非常に物足りない。
とりあえず今は、締め括りに入った彼の演説に聴き入る。
「この仮面を外したいところだが、ややこしくなるのでそれも出来ない。
だから1つだけ、諸君には伝えておこう」
何だろうか、と誰もが気持ちを新たにする。
「『日本』において、ブリタニアの外からの破壊は不可能ではないと判明した。
だがブリタニアは強大であり、本国は遥か海の向こう。陣を組むにはまだ時間が掛かるだろう。
私は諸君がそれに奮闘している間、ブリタニアの…内部からの崩壊を謀る」
驚愕しなかった団員が、居ろうはずもない。
独立国家を創ると彼が宣言したとき、騎士団の誰もが馬鹿なと思ったのだ。
しかし現実となっている今、ゼロならば出来るかもしれないという心理が働く。
それを見越しているゼロは笑った。
「私に先を越されるな。我が『黒の騎士団』よ」
またいずれ会おう。
次は仮面を外した私と。
カメラが切れたことを確認して、ゼロ…否、ルルーシュはゆっくりと仮面を外した。
静かに進み出た神楽耶が、その仮面に手を伸ばす。
「神楽耶…?」
ルルーシュには、彼女の行動の意図が分からない。
仮面を自分の腕に抱いた神楽耶はふわりと微笑み、窺うようにルルーシュへ顔を近づけた。
「これはわたくしが、次に貴方がこの地へ戻る日まで、大切にお預かりしておきます」
もう使わないのでしょう?と小首を傾げれば、肯定が返る。
…今日という日、この瞬間を以て、ゼロは消えたのだ。
クスリと笑みを漏らして、神楽耶は愛おしそうに仮面を撫でた。
彼女は後ろを振り返り、桐原へ何事か頷く。
次にルルーシュへ向き直った彼女は、確かに日本を治める為政者だった。
「ではルルーシュ様。わたくしたちの考えた政策へ、意見を下さいませんか?
もちろん、保留にされていた貴方のお話を伺った上で」
彼女の目線の向かう先には、騎士団の幹部たちが居る。
一様にもの問いたげな視線の意味を理解して、ルルーシュは軽く肩を竦めた。
「ディートハルト、特派へ繋いでくれ」
すぐに間の抜けた声が飛んで来た。
『あっれ〜?殿下じゃないですかぁ。お久しぶりですねえ』
現日本駐留軍のトップに任命した、特派の責任者であるロイドだ。
ルルーシュは彼の"久しぶり"という単語に首を捻る。
なので、その疑問をそのまま投げてみた。
「…久しぶり?」
すると画面の向こうで、あからさまなため息を吐かれた。
『ちょっとぉラクシャータ、君も何か言ってやってよ!1週間缶詰なんだよ僕ら!!
特派なんて小さい部署に、軍のデータ全部なんてさぁ…もう過労死出来るくらい』
「良いわねえ、ソ・レ。アンタが死んだら、ランスロットは有り難く解体させてもらうから〜」
『丁っ重〜にお断りするよ。僕のランスロットを壊すなんて、枢木少佐にもさせないのに』
「あらあら、残念ねえ?せっかく最高のパーツが手に入ると思ったのに」
売り言葉に買い言葉で、ロイドとラクシャータの言葉は止まらない。
これは自分の不用意な発言のせいなのか。
ルルーシュは右手を額に当てて、命令とため息を同時に出す。
「…とりあえず黙れ。2人とも」
『「はーい」』
類は友を呼ぶ、とはまさにこのことだ。
カレンや藤堂は逆に、普段から論争を止めないあの2人を一言で黙らせた、ルルーシュへの感嘆を禁じ得ない。
とにかく彼は、ロイドへ用件だけを告げた。
「セシルとスザクを連れて、さっさとここまで来い」
『イエッサー。5分待って下さいね〜』
回線が切れて、堪らずカレンは問う。
「なんでアイツまで…」
返る答えは、学園でも見覚えのある不敵な笑みと共に。
「事実を証明する、当事者が必要だろう?1人より2人、2人より3人だ」