終盤フライングその1
響き渡った1発の銃声。
それはスザクが向けていた銃口ではなく、
ルルーシュが向けていた銃口でもなく、
カレンがホルスターに下げていた銃でもなく、
「お前たちみたいな最低人間にルルを撃たせるなんて、あり得ないね」
ルルーシュの後ろにいつの間にか潜んでいた、マオの向けた銃口からだった。
茫然自失となっていたカレンは、マオの声でハッと我に返る。
「ぜ、ろ…?」
切り取られた映像のようだった。
とても美しい容姿をしていた彼が被写体であるなら、なおのこと。
紅い血が花びらのように散り、広がるマントは天鵞絨の絨毯のように。
どさり、と地面は彼を受け止めたかのように、静かな音を立てた。
「る、るー…しゅ…?」
カシャン、と銃を落としたことにも気付かず、スザクは全身の震えを抑えられない。
今、
目の前で、
大切な、
人、
が。
「ルルーシュっ!!!」
駆け寄ろうとしたスザクの左足に、1発。
怯んだ彼に迷うことなく、続けざまに3発。
右手、右足、左手に。
「うっ、わああぁああ!!!」
スザクは絶叫と共に倒れ伏す。
しかしマオにはどうでも良いことだ。
「ほんとにさぁ、僕が今まで見て来た人間の中でワーストワンだよ、お前。ねえC.C.?」
「…そうだな。言う迄もなく、な」
いつの間にか、倒れたルルーシュの傍らにライトグリーンの髪の少女が跪いていた。
ルルーシュは彼女を視界に入れて、微かに微笑む。
「…悪い、な」
C.C.も微笑みを返した。
「気にするな。元はと言えば私が悪い。それに、決めたことだ」
彼女がルルーシュの身体に穿たれた穴に手を翳すと、微かな光が生まれる。
「…止血だけだ。しばらくは、我慢してくれ」
そう言って、彼の口から零れた紅を拭い取る。
苦笑するように目を細めて、ルルーシュは空気を捉えられない声を懸命に絞り出す。
「ま、お」
声に出さなくても、心を読めるマオには聞こえる。
それでもルルーシュは、内の声ではなく肉声で彼に伝えることに拘っていた。
マオは彼の視界に自分の姿が映るよう、C.C.の反対側へ跪く。
「ここに居るよ、ルル」
見えた顔に安心して、ルルーシュはそっとマオの頬を撫でた。
「ごめん、な。お前…に、撃た、せて」
「何言ってるの、最初っから言ってるのに。…もう、結局優しいばっかりなんだからさあ、ルルは。
それに、僕を頼ってくれたのが一番嬉しいよ。あ、ちょっと!信じてないねその顔!」
「だって…」
「だっても何も無いんだよ!まったく。僕の本心は、ルルみたくいっぱい仮説立てれないってば」
「ふ、…ははっ!そう、だったな…」
「そうだよ。だから安心して、ゆっくり休んで」
「…ああ、後は頼むぞ。マオ、C.C.」
マオは自分から離れようとする手を握って引き止め、C.C.もルルーシュの空いている逆の手を取る。
「ああ、頼まれたぞ。お前の眠りは私が守るさ」
「そりゃあお任せってね!C.C.と一緒に頑張るよ!」
2人の笑みに安心したように穏やかな笑みを見せたルルーシュは、ゆっくりと瞼を降ろした。
眠りについた彼の手の甲に、2人はそれぞれに口づけと誓いを落とす。
「ゆっくりとお休み、私の愛するルルーシュ…そしてゼロ。魔女の力は、お前のためだけに」
「おやすみなさい、ルル…そしてゼロ。魔法使いの力は、ルルを傷つけるすべてのものに」
それは神聖な、儀式。
2007.8.3
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