注意!ルルーシュとC.C.が人外の黒さです。ロイドも真っ黒。読んだ後の苦情は受け付けません。
















そのときのランスロットは、牙を抜かれた獣だった。
攻撃に分類される機能は、何一つとして発動しない。

「動かない?!どうしてっ!!」

目の前に、すべての元凶がいるのに。
ガヴェインのハドロン砲を避けながら、スザクは忌々しくも目的を変えた。
(うん。上出来だね)
それをモニターで見ながら、ロイドはにやりと誰にも見えない角度で笑みを浮かべる。
ランスロットの状態を見るフリをしながら、コンソールを叩く指はまったく別の目的で動く。

「ねえセシル君。ボクら、どうすべきかなあ?」
「どうって、ロイドさん?!貴方、状況を分かって…!」
「分かってるよ〜?だから聞いたんじゃない。整理ついでに順番に言ってみようか?
ユーフェミア副総督は、なーんかゼロと親しそうだったねぇ?
アヴァロンだけで『黒の騎士団』の勢い止める、なんて絶対無理だしぃ。それに…」

極めつけはボクのランスロット!
デヴァイサーは所詮パーツであって、主じゃない。
(ランスロット、なんて。いくら物語に準えたものとはいえ、普通は付けないよ。そんな名前)
けれど、付けた名前。
それはロイドにとってのすべてを賭けた、分の悪過ぎる賭けだった。
勝てる確立など無いに等しい状況で、敢えて賭けるだけの価値はというと。

「ロイドさん…?」

突然黙り込んだ彼に、副官のセシルはなぜか悪寒を覚えた。
何か、得体の知れない恐ろしいことが、身近で起こっているような。
ランスロットの帰還を示すアラートが鳴り、ロイドが顔を上げた。

「ほら、皇女殿下を迎えに行くよ〜セシル君。たぶん、女性である君の方が良いだろうから」

返事を待たず、さっさと艦橋を出る。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか。はたまた悪魔か狂人か)
騒然とした艦内にはまったく不釣り合いな、悠然とした笑みを浮かべる彼の足取りは、軽い。
人目を憚らずに済んだなら、きっと鼻歌でも歌っていただろう。


(お飾りの皇女。本性のアナタは、僕によく似ているようですねぇ?)














Go t t  i s t  t o t

                            は死んだ。3













ランスロットの手に攫われて、ユーフェミアはどうしようかと一生懸命に頭を捻った。
ああ、せっかく『ゼロ』に着いて行けると思ったのに!
(お姉様に見つかったら、逃げ出せない)
強い風の中で目を凝らすと、前方にアヴァロンが見えた。
ランスロットも同じく視界に入ったことで、はたと思い出す。

毛色の違う、今までユーフェミアが出会ったことのない種類の人間が、技術者に居た。
いつも飄々として、コーネリアや自分の生死もあまり重要視していない。
名前は確か、ロイド・アスプルンド。
ランスロットを説明する時だけは目を輝かせて、けれどいつだったか、それを皮肉げに見上げてもいた。
(もう一度会えば、判るかしら?)

すでに彼へ渡したこの命、いくらでも賭けよう。


アヴァロンの格納庫で、ようやくランスロットから解放される。
「ユーフェミア様!」
「ユーフェミア殿下、お怪我は…?!」
駆け寄って来る軍人や技術者に、用はなかった。

(ああ、どうしましょう!どうすればあの方の元へ帰ることが出来るのでしょう?)

きょろきょろと周りを見渡し、ユーフェミアは視線を一点に定めない。
ランスロットから降り駆け寄ったスザクは、思わず彼女の両肩を掴んだ。

「ユーフェミア様!どうなされたのですか?!…っ、ユフィ!答えてくれ!!」

違う。
私が望むのは、
その呼び名を望むのは、
『ルルーシュ』唯1人。

己の騎士であるスザクは、必死に"皇女"の名前を叫ぶ。
彼の向こうに、白衣が見えた。
必然的に浮かんだ笑みを隠し切れず、ちょうど良く転がっていた事実を隠れ蓑にしてみる。

「ふふっ、スザク。貴方も"日本人"でしたわね」
「?!」

武器は持っていないけれど。
こちらの意図に気付いたか否か、白衣の男が間に割って入って来た。

「はいはーい、ストップ。そんなことよりもユーフェミア様、まずはお召し物を替えられませんかぁ?」

状況に似合わぬ笑みと同じく、眼鏡の奥に光るのは品定めの色だ。
やはり記憶に間違いはなかった、とユーフェミアは己の記憶力を褒める。

今はその演技に乗りましょう。
私1人では、ここから抜け出せませんから。

「…そうですわね。部屋へ案内して頂けますか?」
「Yes, your Highness.」

略式の礼を返した男に笑みを向け、その隣で困惑している己の騎士を見る。

「スザク。貴方はここで待機なさい」
「しかし…っ!」
「お黙りなさい。"日本人"である貴方の顔を見たくないのです」
「…っ、Yes, your Highness.」


さあ、人払いは出来た。


「意外と演技派なんですねえ?ユーフェミア皇女殿下」
「アスプルンド伯爵、無駄話をしている暇はないのです。手をお貸しなさい」

こういった類いの男には、頑として命令した方が利く。
案の定、ロイドという名の食えない男は、飄々とした笑みで答えてみせた。

「別に良いですけどぉ。正直、"あの方"以外に命令されるのって腹立ちますねえホント」

お飾りとして存在していたことは認める。
が、曲がりなりにもユーフェミアは皇族だ。
そのような口が利けること自体、この男の基準を測る重要な項目であろう。
ロイドは人が居ないことを再度確認してから、彼女の耳元で囁いた。

「一世一代の大芝居を打ちましょう。この高さから落ちれば、死体がなくても不思議じゃない」

下は虐殺の現場だ。
皇女の死体は怒り狂った人間たちに八つ裂きにされるか、ぐしゃりと潰れるか、2つに1つ。
ユーフェミアはこれから向かうスリルに、昂然と笑んだ。


「素敵なお芝居ですわね。では、"私が身を投げた後のこと"は、どうぞよろしく」







さてさて、

殺戮に狂ってしまったお飾りだった皇女は、
ブリタニア人以外は死んでしまえと叫びながら、
日本人はみんな殺さなきゃと遺して、
奪った銃器で強化硝子を撃ち砕き、
血の繋がった己の姉と、
自ら任命した己の騎士と、
多くの軍人たちと、
食えない同志の男の目の前で、

飛行戦艦から飛び降りた。







同じ夜、
ある学園のある部屋で、
金色の眼をした魔女を立会人に、

皇女であった少女が、
皇子であった少年に、

永久(とわ)の忠誠を誓った。







後日、
芝居を終幕に導いた錬金術師は至高の王へ逢いに行き、
ブラッディ・マリーばかり優遇するなと不平を言って、
彼らの至高の王は、
「仕方がないな」
と、美しく微笑んだ。

王が楽しそうなので、
魔女も楽しそうに笑っていた。



これこそ美しき世界。























我らを同じくする故

錬金術師も唯1人のために





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07.7.29