世界  は


    壊  れる



      万 


      


      鏡
      【4】









遺跡の内部は、やはり予想した通りの石造り。
だが前を歩くV.V.が足を止めた向こうは、とてもじゃないが信じられないような光景だった。

「外…?!」

円形に区切られ、円柱に取り囲まれた空間。
取り巻く円柱の向こうには、空と緑と街並みが見えていた。
ルルーシュの声に、V.V.が振り返る。

「外であり、中である。今という時間であり、過去という時間であり、未来でもある。
"儀式"が終わったらすぐに分かるよ。だって同志だもの、L.L.は」
「エルツー?」
「そうだよ、君のことだよ。君が穴を埋めるから、これでやっと…『ゼロ』は王として存在出来る」

意味が分からない。
頭を使うことが、ルルーシュにとってもっとも得意な分野であるにも関わらず。
後ろからの足音にそちらを見れば、ゼロとC.C.が揃って姿を現す。
ふと、ナナリーが微かに眉を寄せた。

「どなたか、びしょ濡れではありませんか?」

彼女の言う通り、C.C.がびしょ濡れの状態だ。
破れているパイロットスーツから見て、最初はもっと酷い状態であったはずだ。
C.C.は笑う。
「気にするな。成り行きでダイビングするハメになっただけさ」
V.V.を睨むことを忘れずに。
思い出したようにゼロは自身の纏っていたマントを外し、C.C.の肩へ掛けた。
「今更遅いだろうが、着ておけ」
一瞬呆気に取られたらしい彼女は苦笑し、悪態を突いた。
…とても嬉しそうに。
「絶妙のタイミングで、よく言う」
なんとなく彼らから視線を外したルルーシュは、ムッと顔をしかめているV.V.と目が合った。
彼(彼女という線も捨て切れないが)は場の空気を壊すように声を投げる。

「『ゼロ』、儀式をするんでしょう?」

ルルーシュの前を通り過ぎてV.V.へ刺さったのは、C.C.の視線だ。
(俺を挟むな。まったく…)
こっそりとため息を吐いたルルーシュに気付き、ゼロが肩を竦めてみせた。
「そうだな。早いうちに済ませるとしよう」
彼はルルーシュの目の前で立ち止まると、左眼を隠している眼帯へ手を伸ばす。
「ゼロ、」
「案ずるな。私にはどんな形の"ギアス"も利かない」
C.C.に利かないことは知っているだろう?
そう言って、ゼロはそっとルルーシュの眼帯を外した。

煌めく紅、羽ばたく白。

ルルーシュの"ギアス"の状態を確かめたゼロは、満足げに笑みを浮かべた。
「さすが、呑まれなかっただけはあるな」
「どういう意味だ…?」
「"ギアス"は進化する。お前の"ギアス"は発展途上、という意味さ。
力に狂い呑まれた者は、我々の序列に加わることは出来ない」
C.C.が付け加えた。
「マオは"ギアス"に呑まれた。だから、私自身が殺すしかなかった」
言葉の意味に、ルルーシュは眉を顰める。
ゼロはナナリーの傍に屈むと、彼女の手を取り話し掛けた。

「今のままでは、ルルーシュの傍に居られない。それは分かっているだろう?」

優しく握られた手をぎゅっと握り、ナナリーはゆっくりと頷いた。
「…はい。私以外の皆さんは、同じ気配がしますから」
ルルーシュお兄様も。
言われたルルーシュは驚き、自分の手とナナリー、そしてC.C.とV.V.を見る。
「……そうか。さっき、俺をL.L.と呼んだな」
魔女に相応しい笑みを敷いて、C.C.は謳うように答えた。


「そう。お前は我らの同胞、"支配のギアス"を持つ我らが王の片割れ。
異なる摂理、異なる時間、我ら一族の"力"は人の子の其れに非ず。
王に従い、王を護り、王の庇護を受け、王と共に生きる。…我らは『王』の神官と巫女」


ナナリーはおそるおそる、ゼロへ問いかけた。
「…どうすれば良いですか?どうすれば、ルルーシュお兄様と離れずに済みますか?」
その言葉を待っていたと、V.V.がナナリーの傍へ進み出た。
ゼロは2人から離れ、ルルーシュも黙って彼らのやり取りを見守る。

「ボクと『契約』を結ぶんだよ、ナナリー。確かな覚悟があるのなら、L.L.と同じ刻を生きられる」
「V.V.さんと、契約を…?」
「そう。人の世界で魔術と呼ばれ、異端と忌避される"力"を受け取るという、契約」

覚悟がなければ呑み込まれる。
呑み込まれてしまえば狂うだけ。
狂ってしまえば殺されるしかない。

「…結びましょう、その契約。ナナリー・ヴィ・ブリタニアの名の下に」





その日、1人の少年と1人の少女が姿を消した。

ルルーシュ・ランペルージとルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、そして『ルルーシュ』。
ナナリー・ランペルージとナナリー・ヴィ・ブリタニア、そして『ナナリー』。

入れ違うように誕生したのは、1人の魔術師と1人の魔女。

『ルルーシュ』という名を持つ、Lを司る魔術師。
『ナナリー』という名を持つ、Nを司る魔女。


彼らは総てを統べる『0』の名を持つ王と共に、この世界に背を向けた。







煌めく鏡に命の水を  メビウスの理(ことわり)を拾いに。








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2008.1.22
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