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17.5突発。スザルルカレ。
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一頻り笑った後は、驚くほど思考が鮮明になった。
(なんだ、簡単じゃないか)
すべては明日、勝敗など目に見えている。
(俺には『黒の騎士団』がある。カレンと藤堂、そして四聖剣。
手懐けるのは骨が折れるだろうが、騎士としては申し分無い奴らだ。だから、)
お前は要らない。
「今、なんて…?」
枢木スザクは、驚愕に声が震えた。
たった今、目の前の親友から放たれた言葉が信じられない。
ルルーシュはいつものように浮かべる王者然とした笑みを、嘲笑に変えた。
「聞こえなかったのか?『今後お前とは関わらない。関わりたくもない』と言ったんだ」
クラブハウスの中は静かだ。
いつも居るナナリーと咲世子も、今日は生徒会。
この場所を選び人目を避けたのは、せめてもの情けだ。
「どうして…っ」
「ほぅ?お前がそれを俺に問うのか」
明らかな敵意。
殺意に昇華されていないだけ、マシだろうか。
ルルーシュの持つ威圧感は、直に対面した同じ皇族のコーネリア以上。
…格が違う。
しかも名誉ブリタニア人として、徹底的に教育を施された身だ。
スザクに抗う術はない。
二の句を告げないスザクに対し、ルルーシュはゆっくりと腕を組み余裕を崩さない。
「なら、親切に言ってやろうか。
最前線のKMFに乗り、剰え第3皇女の騎士となった人間に用はない」
「あれはっ…!」
「KMFのパイロットという点は、まだ許せる。
あの白兜というのも…まあ、許容範囲としておこう。だが…」
相手の言葉を許さず、押さえ込む。
ルルーシュは畳み掛けるように、首を傾げてスザクの顔を覗き込んだ。
「お前は俺がブリタニアを憎悪していることを知っていたな。知っていて名誉になったんだろう?
そしてお前は俺がもっとも憎む皇族へ隷属して、しかも騎士拝命!おめでとうと言うべきか?
泣きたくなったよ。ナナリーは泣いていた。…泣けるのが羨ましかった。
お前は俺たちを、完膚無きまでに裏切った。もっとも効果的かつ最悪な方法で」
だから、要らない。
言うべきことはすべて言った、と踵を返すルルーシュの腕を、スザクは咄嗟に掴んだ。
「…放せ」
純粋な怒りを宿す宝石色の目が、スザクを貫く。
だが離すわけにはいかず、逆に握る力を強めた。
ルルーシュの表情が痛みに歪んだが、気にする余裕などない。
「手を放せ!」
「?!」
背後から襲って来た殺気に、反射的に身を伏せる。
頭の上を掠め、ルルーシュとスザクの間に滑り込んだのは、
「すべての準備が整いました。後は、貴方の指示待ちです」
紅い髪の、病弱であるはずの少女。
彼女の背後に庇われたルルーシュは、ふっと笑った。
「そうか。ナナリーたちは?」
「すでに」
「ではここは任せた。お前も時間を潰すなよ」
「はい」
「…っ、ルルーシュ!」
今度こそ背を向けたルルーシュを追う為に、足を踏み出した。
しかしスザクはカチリ、と聞き慣れた冷たい音に硬直を余儀なくされる。
「カレン、さん?」
お嬢様の手に似合わない、人殺しの道具。
信じられないと瞠目するスザクに、カレンは哀れみの笑みを投げた。
「第3皇女の騎士がこんなところで死んだら、日本人への弾圧が激しくなりそうね。
この場で殺せないことが、本当に残念でならないわ」
裏切り者は要らない。
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19話突発。「世界は、」フライング。
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アッシュフォード学園。
枢木スザクの騎士就任記念パーティー。
(素敵なオトモダチを持ってるねえ、ホント)
ロイド・アスプルンドは、会場らしいホールへと向かう。
案内人は、素晴らしいシミュレーションを行っていた少女だ。
「アスプルンド伯爵?!」
婚約者(で良いのか微妙だが)のミレイ・アッシュフォードが、やはり真っ先に気付く。
「やあこんにちわ。枢木少佐はどこかな〜?」
ホール内の視線が、すべてこちらに向いている状況だ。
渦中の人間も、当然すぐに気付く。
「え、ロイドさん?…ひょっとして、軍務ですか?」
そこでロイドは、彼の隣の少年に首を傾げた。
(んん〜?)
枢木スザクと親しげに話し、ロイドへ不思議そうな顔をしている少年は、誰かを思い出す。
(あ、ひょっとして)
思い至り探りを入れようか迷ったが、やめた。
が、口から出たのは探りのようにも思える言葉。
「ねえ枢木少佐にアッシュフォード嬢。あの子、うちの殿下に似てると思わない?」
言われている少年の方は、別の人間と会話を交わしていてこちらを見ていない。
ロイドを案内してきた少女も、別の少女を手伝いに行った。
ミレイは用心深く言葉を紡ぐ。
「そう、かもしれませんわね。ブリタニア人で黒髪を持っている方は少ないですから。
第9皇太子殿下は美しい方で、それに黒髪をお持ちですものね」
お会いしたことはございませんけど。
言葉の選び方は、称賛を贈りたいほどだった。
「ね〜え、カナード殿下」
「なんだ?」
「殿下が育てておられる『鳥』は、殿下に負けず劣らず美しいみたいですねえ」
そうでしょう?『沈黙の黒鳥』サン。
彼は楽しそうに笑うだけだった。
「お前の目にもそう見えるなら、上出来だな」
この皇子も、上司と同じく皇族の風上にも置けない曲者だ。
ロイドはつまらない、と肩を竦める。
「別にいいですケド。お楽しみは最後まで取っておきますよ」
「賢明なことだ」
今度こそ、第9皇子は笑い声を漏らした。
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20話派生。ラクシャータさんはゼロの正体を知ってる設定。
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「でーんか」
「ん?ああ、ラクシャータか」
どうした?と首を傾げる騎士団の主が居るこの部屋は、彼の自室。
だから仮面は無い。
他の客は、いつも主の隣に居る蛍光黄緑の魔女。
ラクシャータはいつもながら、不思議な関係だと思う。
「ガヴェイン?あれのハドロン砲が、上手いこといったからそのご報告」
「収束したのか」
「ばっちりね。まあ、付け焼き刃だから、ちゃんとしたものはまた考えるよ」
「いや、狙いが定まるようになっただけでも有り難い」
ガヴェインという名のKMF。
あれを強奪(不可抗力ともいえるが)したときは、狙いを定められなかった。
それの主たる武器はあのハドロン砲であるから、使えるに越したことは無い。
ラクシャータは煙管をひょいと立てて、もう1つ、と付け加える。
「あれ、復座型なの。殿下は1人で満足に動かしちゃったけど」
「…そのようだな」
「ふふ、さっすが殿下。あれはカレンも動かせなかったもの」
どうやら実証済みらしい。
機体との相性もあるだろう。
「話を逸らすな」
「ごめんあそばせ。それで、殿下だけでも十分なんだけど…誰か乗せる?」
と言いつつ、ラクシャータの視線はC.C.で止まっている。
正直、ガヴェインの搭乗者の片方がゼロ…ルルーシュであることで、相方となれる人間は非常に限られているのだ。
彼が何者かを知っている人間。
彼を決して裏切らない人間。
後々のフォローも効く人間。
ゼロと同じ機体に乗っても、文句を言わせない人間。
「ねえお嬢さん。アナタ乗らない?」
「私がか?」
話はすべて聞いていたC.C.だが、KMFに乗るという選択肢は持っていなかった。
ラクシャータは機体の特色を話し始める。
「アレね、向こうの白兜さんと違って、戦闘よりも情報機能に特化してるの。
証拠が遠距離専門のハドロン砲と、自立飛行機能。司令機にぴったり。
殿下もそっちが専門だし、全部の機能が完成して使いこなせれば、戦艦1隻くらい楽々ハック出来るわよ」
「…規格外だな」
「ハドロンでもう規格外でしょ。で、そっちに気を取られると操縦は疎かになる。
だからアナタに乗らない?って聞いたの。アナタが一番信用出来る。腕も意思も」
「ほう?そんな高評価をくれるのか」
「だぁって、殿下はアナタに役職を与えなかったでしょ。それが証拠」
わざわざ役職を与える必要が無い、ということ。
カレンが不思議がっていたが、ゼロが行方不明になったあのときを考えると、よく分かる。
「オイシイ提案だと思わない?アナタは殿下の変わり身を演じたり、代わって司令を出すこともある。
でもそれはあくまで、"生身"の状態ね。殿下がKMFで出たときは、カレンのように護ることが出来ない」
「……」
「どぉ?復座型のKMF。操縦はほとんどアナタがやることになる。
もちろん腕は上げなきゃダメだけど、カレンや藤堂ではこの役目、不可能なのよ」
殿下はどう?
ラクシャータは完全に第三者となっていた主へ話を振るが、彼は軽く肩を竦めただけだった。
「どうも何も。俺には最初から、C.C.以外を選択する気はないが」
ぱちりと目を瞬いたC.C.は、次にはにやりと笑った。
「まったく、仕方がないな私の王は」
「言ってろ」
「ふふん、決まりね。じゃあお嬢さんのパイロットスーツを受注っと」
後にカレンとC.C.の間に火花が散ったことは、言う迄もない。
end.
2007.3.10
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