−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
23話前フライング捏造、ゼロ+神楽耶。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「わたくしは日本国天皇、皇神楽耶。わたくしは今ここに、日本国の独立と。
新たな標として、『ゼロ』と『黒の騎士団』を迎えることを宣言致します」


惨劇の跡。
トウキョウを統治すべきブリタニア軍さえも、集まるイレヴンを抑えることは出来なかった。
第三皇女を撃ったのはブリタニア人、それも軍人だったのだ。
言う迄もなく後継争いのほんの一端、『ゼロ』…ルルーシュから見れば、可愛い部類に入る襲撃である。
周りの苦労も知らず、皇女である自覚も無く、不特定多数が出入りする学園祭などに行ったから。
(さて、)
優秀な情報担当者のおかげで、神楽耶の宣言は全世界へ放送されている。
どこにマイクを仕掛けているのか、彼女の声は辺り一帯へよく通っていた。

「降りるか?」
「ああ。天皇を上から見下ろすわけにもいかない」
「ふふ、"王"はお前だろうに」

愛すべき共犯者は、心得ているとばかりにガヴェインを降下させた。
天皇である少女に程近い場所へ。
跪くように降り立った機体と、神楽耶の立つ櫓の高さはほぼ同じ。
ルルーシュは仮面を被り、コックピットから出た。
ざわりと騒いだ民衆を他所に、ガヴェインの肩の部分へ危なげも無く立つ。
彼の姿を認めた少女は、それは嬉しそうに微笑んだ。


「降りて来てくださったということは、わたくしと共に歩んでくださるのですね」


いつでも機体を動かせるよう待機しながら、C.C.は笑い声を漏らした。
「クク…ここまで愛を囁かせる男は、お前くらいだぞ。ルルーシュ」
誰が見てもその少女は、『ゼロ』に対し思慕を募らせる大和撫子だ。
仮面の奥でルルーシュは苦笑した。

「貴女の申し出を断れる人間が居るならば、お目にかかりたい」

神楽耶はくすりと笑って小首を傾げる。

「あら、居りますでしょう?貴女の仮面の下に気付こうともしない馬鹿が」
(((馬鹿?)))

いったいどれだけの人間が、神楽耶の言葉に疑問を持っただろう。
少し離れた場所に控えていた紅蓮弐式と1機の月下のパイロットが、疑問符を交わしている。

『え、馬鹿って…?じゃなくて、あの子!ゼロが誰なのか知ってるの?!ねえ藤堂さん!』
『私は知らないが、どうやら姫君はご存知のようだな。いや、桐原公もご存知か』
『え?!』

浮かべた苦笑が失笑に変わる。
それにまた笑みを返した神楽耶は、えいっ!と気合いを入れて櫓からガヴェインへ飛び移った。
ギョッとしたのはおそらく、全員だ。
『おいルルーシュ!』
珍しくC.C.の焦った声が聞こえた。
「…俺に言うな。文句は彼女に言ってくれ」
彼女が落ちたところで、咄嗟にガヴェインの手で受け止める自信はある。
が、何の前触れも無くやられれば、出来るものも出来ない。
ルルーシュは慌てて手を伸ばし引き上げた神楽耶に、ため息を隠さなかった。

「相変わらず…お転婆ですね」

うっかり漏らされた言葉は、しっかり神楽耶が付けているマイクが拾っている。
『うそ、知り合い?!あんな箱入り娘と?!』
『…とにかく落ち着け、カレン』
藤堂は恋する乙女を落ち着かせるのに苦労していた。
神楽耶は自分を支えてくれている『ゼロ』へ、懐かしそうに肩の力を抜いた。
そっと仮面へ手を伸ばし、触れる。
《ルルーシュ、》
音を紡がず微かな動きだけで呼ばれた名に、言葉を返す代わりに握る手に力を込める。
続いて彼女が浮かべた笑みは、咲き誇る牡丹のように。

「この仮面の下。貴方の美しい顔を、ここで皆に見せてやりたいくらいです」
「…それは断る。話がずれていますよ」

そうでした、と舌を出した神楽耶は、まだ幼さを感じさせた。
いろいろ疑問があるが、この状況を見ているイレヴンや『黒の騎士団』の面々に、親近感を持たせるには十分な。
神楽耶はガヴェインから、ぐるりと廃墟になったシンジュクを見渡す。
目当てのものを見つけて、彼女はそちらへ王者然とした豪奢な笑みを向けた。

「わたくしたちの創る国に、あんな馬鹿は要りません」
(((また馬鹿って…)))

いったい誰だろうか。
彼女が浮かべた笑みは等しく勝者の笑みだったが、誰に向けたのかは分からない。
もっと重要なのは、彼女が続いて発した言葉。

「わたくしたちは日本人です。日本人である誇りを捨ててはなりません。
ブリタニア人だからといって、彼らを排してもいけません。それは『黒の騎士団』と『ゼロ』をも否定する。
わたくしたちは中立を謳った民。誰であろうと弱者へ手を伸ばせる、その力を持っていた。
一人一人がおおらかな心を、虐げられてきたからこそ、弱者への思いやりを。
わたくしは『ゼロ』と共に、新たな日本国を創る。ですから皆さんも、そのための力を!」


一帯が、歓声に包まれた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
21話突発、「世界は、」フライング。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



行政特区。
自分に黙って外へ出掛けただけでは飽き足らなかったか。
絶句し壁を殴りつけたコーネリアの耳に、さらなる笑い声が追い討ちを掛ける。

「アッハハハハ!とんだ妹だな、箱に入れすぎたか?」
「っ、カナード…!」
「殿下、さすがに笑い過ぎじゃないか?」
「これが笑わずにいられるか?シュヴァーン」

己の騎士の進言も、あまり説得力がない。
ここで騎士が笑ってしまっては不敬罪にあたるから、我慢しているだけ。
アジトに戻ってから大笑いすることは必然だ。
コーネリアは言い返すことが出来ない。

(ユフィ!お前は自分の言ったことを分かっているのか?!)

見透かしたようにカナードがまた言葉を紡ぐ。

「シュナイゼルが、『昨日第3皇女と話した』と言っていたな」
「!」
「ククッ、さすがは次代の皇帝候補。追い縋る第2皇女を蹴落とすには十分だ」
(まさか…っ!)

ぎり、と握り締めた拳は、すでに爪が食い込んでいた。
自分に話しては反対されると思い、先にシュナイゼルへ発案したのか。
富士周辺に行政特区を建てると。

「面白い提案をしてやろうか?」

コーネリアの騎士であるギルフォードやダールトンも、第9皇子の発言を止めることは出来ない。
余裕を失いかけているコーネリアも、同様だ。
「俺もあんた方と同じく独自のルートを持っていてな。それを一時的に貸してやるよ」
続く言葉は不可解で、先を聞くしかない。
カナードはにぃと口角を吊り上げて、言った。


「一時的に『ゼロ』と手を組め。第3皇女を本国へ強制送還させてしまえば良い」


面白い?
まさか、そんなとんでもない手を。
「なっ?!」
驚愕しか出て来なかったが、カナードは止めない。

「言っておくが、手が遅れればあの女は死ぬぞ?
『ゼロ』にとって第3皇女は、ただの飾りで殺す意味もなかった。が、今回は?」
「…なるほど。『黒の騎士団』か」

とんでもない提案に、冷静さを取り戻すことが出来た。
『黒の騎士団』は幸か不幸か、行政特区の話で存在意義を失い板挟みに遭う。
認めれば真の『日本』は取り戻せない。
しかし反対すれば、確実にイレヴンの支持を失う。
大義に左右される民衆は、夢物語と気付けないのだ。
『黒の騎士団』が自滅してくれるのは有り難いが、それを喜べないのが総督としての責務だ。
考え始めたコーネリアに、カナードは眉をひそめた。

「お前、良い方にしか考えてないな。『ゼロ』と『騎士団』だけが手を下すと本気で思ってるか?」
「なに…?」
「ブリタニア人の不満の大きさは、どれくらいになる?」
「?!」
「イレヴンに対する風当たりは弱くなどなっていないさ。"名誉のくせに騎士になった"人間が居るからな。
そこにコレだ。世論という天秤は、さてどっちに傾く?」

下手をすれば、それまで何もなかったブリタニア人が、主義者へ早変わりする。
こんな政府に用はない、と。
『日本人でもブリタニア人でも変わらず、弱者へ手を伸ばす』と公言している『黒の騎士団』。
政府よりもそちらの方がよほど良い、と考える人間は少数ではなくなる。


「…っ、えぇい!!」


なおもダン!と壁を殴りつける音が響く。
コーネリアはぎり、と歯を食いしばるしかなかった。
end.

2007.3.18

ー 閉じる ー