拝啓、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア様

1.
あなたに初めてお会いした日を、忘れることは決してないでしょう。
あのころのわらわは、『天子』でありながら、何も知ろうとしませんでした。
『天子』とは、わらわを示すただの記号でした。
それを変えてくれたのが、ルルーシュ様です。
…父も母も、わらわのもの心がつく前に、亡くなりました。
今のわらわならば、それがしくまれた『死』であったかもしれないと、わかります。
けれど過去を洗うより、今生きている人のためにつくすことが、もっと大切だとあなたに教わりました。
でも、今日は…良いですよね。
中華の民のしあわせを求めるのではなく、あなたにかんしゃを捧げても。

お誕生日、おめでとうございます。ルルーシュ様。

わらわはルルーシュ様に出会わなければ、わらわではなくなっていたでしょう。
わらわはルルーシュ様のようにはなれないけれど、わらわは自分に出来ることをひとつずつつみ重ねます。
…まだわらわは、この朱禁城から自分の足で出ることはかないません。
でももう少しおちついたら、この中華という国をめぐりたいと思っています。
そうして中華を見てから、ルルーシュ様にあいにゆきます。
中華の空がどんな色だったのか、ルルーシュ様にお伝えしに。
他国の空よりも、中華の空がいちばん美しいと、じまんにしゆきます。

だから、少しだけ、まっていてください。
わらわからルルーシュ様に、たくさんの「ありがとう」を言いにゆきますゆえ。


敬具 蒋麗華(チャン・リーファ)

2.
王よ。私と初めて出会ったときのことを、覚えているか?
出会ったときは、あれが真実、初めてだ。
だが私は、Cを通じてお前のことを知っていた。
Cだけではなく、お前たちがV.V.(ブイ・ツー)と呼んでいた者を通しても。

王にとって、私は理解出来ない謎の固まりなんだろう。
…いや、興味の尽きない存在と言った方が良いか。
たとえば、ロロが私を"母"と呼ぶ理由であるとか。
V.V.ではなくV.V(ヴィー・ツー)である意味とか。
私の額の紋章が、Cと違って蒼い理由であるとか。
それから…そうだな、私がお前のことを『王』と呼ぶ理由であるとか。
これらはいずれ、すべて話せる"時"が来る。
少なくとも今は、そんな"どうでも良いこと"を気にする余裕は、王にはないだろう。

―――今日は、王の生まれた日だ。
私は王と出会えたことに、限りない感謝を贈ろう。
ロロを筆頭とした嚮団の子供たちに、生きるための場所をくれたことに礼を言おう。
お前が外から守ってくれているから、彼らも良い笑顔をするようになった。

私はCと違って王の共犯者ですらないが、ここに"居る"ことは出来る。
知略で子供たちを守ることは出来ないが、お前の守ろうとしている彼らの、楯となることは出来る。
変わらず在り続けることこそ、私がV.Vである所以。

誕生日おめでとう、ルルーシュ。
また会える日を、楽しみにしているよ。


敬具 V.V

3.
いつもいつも、年が変わる度に、私はこの日を楽しみにしていたの。
どうすれば本気で驚いてくれるのか、真面目に考えてたんだから!
…でも、いつかはこうなるって分かってたけど。
みんなとパーッとお祝い出来ないのは、やっぱり寂しいわね。
今年は手紙にしてみたの。
どう? 新しい趣向でしょ?

お誕生日おめでとう。ルルーシュ。

しばらく会っていないけど、元気にしてる?
リヴァルがまた、ロロと一緒に学園抜け出してるー! って嘆いてたわ。
それに貴方、生徒会長の椅子を空白にしてるんですって?
私がきっちり指名したのに!
…なんてね。
予想はしてたわ。ルルちゃんはそういうの、あまり好きじゃないものね。

私はね、ルルーシュ。
学園が楽しい場所だって、みんなに思って欲しいの。
卒業した後でもいつか帰って来たいなって思える場所に、したいの。
私は家を出てしまったから、時々しか帰れないでしょう?
だからみんなが帰って来たら、時々で良いから、ルルーシュが『おかえり』って言ってあげてね。
ルルーシュが帰って来たときに、みんなが『おかえり』って迎えられるように。
良い? これだけは約束よ。
私が貴方に『おかえり』って言えるように、授業サボっても良いから、ちゃんと帰って来ること!

そしたら貴方の次の誕生日は、みんなでパーッと祝っちゃうから!


敬具 ミレイ・アッシュフォード

4.
パチパチと、暖炉で火の爆ぜる音が踊る。
静かな、そして穏やかな時が、流れる。

「誕生日おめでとう。ルルーシュ」
「ああ。ありがとう」

彼女の素っ気ない声に溢れる想いが詰まっていることを、ルルーシュは知っていた。
ソファの肘掛けに軽く腰掛け、C.C.は緩慢に手を伸ばす。
「ふふ。お前の携帯電話は、やけに忙しそうだったな」
ここにはC.C.しか居ない。
だから、彼への連絡ツールが目の回る忙しさであったことは道理だ。
内の例外が、今、ルルーシュの手元にある3つの封筒。
そっと撫でた彼の頬は暖炉の熱で暖まり、冷たいC.C.の指先に心地良い。
「手紙とは古風だな」
便箋はそのままに、C.C.は封筒だけをルルーシュの手から抜き取る。
郵便物の情報の秘匿は未だ固く守られており、漏洩すれば中々にスキャンダルであろう名前たちに笑った。
「ところで、V.Vと言ったか。あいつはケータイを使えるのか?」
エヴァンは結局使っていないようだが、と告げれば、いつもの苦笑が返ってくる。
「使わないから、手紙なんじゃないか? "彼女"の場合は」
残り2通の手紙の主は、他の手段を持ちながら手紙という手段を選んだ。
だがこの1通の主は、他の手段がないから手紙にしたのではなかろうか。
ルルーシュはC.C.から封筒を取り戻し、便箋をそれぞれに収め直す。
「…でも、それがどんな形であれ」
自分が生きていることを、生まれたことを祝福されるのは、嬉しい。
その刻まれた笑みも声音も、あんまりにも幸せそうだったので。

「来年は、皆で祝うさ」

必ず叶える約束として、C.C.は告げたのだ。
ルルーシュは、楽しみにしておく、と微笑みを返して。

5.
しん、と物音の無い部屋に、パチリと残り火が弾ける。
未だ熱を主張する、暖炉の内の赤い炭。
その赤の上に、真っ白な封筒が音も無く置かれた。
封の切られていない封筒は、両端からじわじわと赤を移し、黒く落ちていく。
その様をじっと見つめる金の眼は、淡く燃える火を映して橙に揺らめいた。

「…私が絶対に渡さないと分かっていて託す、その意味が未だに分からんな」

ぽつりと零された、手紙の書き主への僅かな非難。
封筒が燃え尽き灰と化すまで見届けて、C.C.は灯りを付けぬまま部屋を後にする。
時刻はとうに、彼(か)の人の生誕の日を過ぎていた。


『 可愛いルルーシュへ

あなたが日本へ送られてから、もう8年近く経ってしまったわ。
この手紙は8通目になるのかしら?
―――ルルーシュ、お誕生日おめでとう。
あなたはあの頃から、ずっと変わっていないのね。
シャルルを憎んでいるわけではないと分かって嬉しいけれど、心配の種は消えないわ。
嘘ばかりのこの『世界』で、あなたは『世界』を愛し過ぎているんだもの。
私もシャルルも、あなたとナナリーを守ろうと頑張っているんだけれど。
いつだってあなたは、そこから抜け出してしまって。
…そうね。C.C.が居るから、大丈夫だとは思っているわ。
アッシュフォードの庭はあなたには狭すぎるようだけれど、危ないことはしちゃ駄目よ?
命はひとつしか無いんだから、大切にしなくてはね。

敬具 マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア 』

end.

2010.12.5
(2010年ルルーシュ誕限定拍手)

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