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やっぱり使用出来ないフライング(神は死んだ。R2)
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「前皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは、私が殺した」

そう、殺した。
母と共に。

「ルルーシュ、悪ふざけは大概に…」
「残念ながらオデュッセウス兄上、冗談ではないのですよ。
もっとも、証明となる死体はありませんが」

どの皇族が呼んだのか、衛兵たちが玉座のルルーシュへ槍を向けた。
「手荒な真似はしたくないんだが…」
オデュッセウスは本心からそう呟いて、ルルーシュを捕らえるよう指示を出す。
数秒後には潰えるが。
ルルーシュは衛兵たちが赤子のようにスザクに退けられるのを、楽しそうに見遣った。

「ご安心ください、兄上。私がこの玉座に居る期間は僅かです。
…そう、シュナイゼル兄上が座るまでの間だ」
「「なんだって?!」」

驚いたのは、画面を通してその様子を見ていた当人もだった。
「いったい何を言い出すのか…あの子は」
シュナイゼルの後ろで、コーネリアはきつく眉を寄せる。
「枢木スザク…ユフィの騎士でありながら、『ゼロ』の騎士となるなど…!」
こちらの声が聞こえるはずは無い。
だが、ルルーシュはその場に居ないシュナイゼルとコーネリアへ話し掛ける。

『画面を通してならば、私を見ても何も恐ろしいものは無い。
どうせ出て来る準備はしているのでしょう?』

やられたな、とそうでもないような顔をして、シュナイゼルはカノンへ指示を出す。
「仕方がない、機材を使うか。コーネリアもおいで。
直接、枢木へ問いたいこともあるだろう」
部屋を出て行く彼らを、ロイドは楽しげに見送った。
(枢木卿が羨ましいね。夢にまで見たルルーシュ陛下がいらっしゃる…!)

他の面々も、きっと同じ気持ちで画面を見ているに違いないのだ。

用意させていたモニターに、思惑通り相手は現れた。
ルルーシュは浮かべていた笑みを、なお一層深める。

「ようこそ、シュナイゼル兄上」

シュナイゼルの後ろにはコーネリアの姿。
これこそ、求めていた盤上。
居並ぶ皇族も画面を見ているすべての人間も、彼らにはすでに蚊帳の外だ。

『どういうつもりかな?ルルーシュ。
兄上の仰る通り、このような場で戯れはいけないよ』
「貴方がこの玉座に座るまで、と言いましたよ?
父上を倒し皇帝になるため、クーデターを企てていた貴方だ。
とても良い話でしょう?」

ざわり、と謁見の間が騒ぐ。

『おや、クーデターは君もだろう?"ゼロ"であったルルーシュ。私の愛しい弟であったルルーシュ』
「そうですよ。黒の騎士団を創り、超合衆国を創り、けれどその騎士団の裏切りを受けた"ゼロ"は、私」

ざわり、と戸惑いの声が上がる。
ルルーシュは彼らをちらりと一瞥し、自分の斜め前に立つスザクを見遣った。

「さて、茶番はこれくらいにしましょうか。
コーネリア姉上、言いたいことお有りでしたら遠慮せずどうぞ?」

挑発だと分かっていて、コーネリアは前に出た。
シュナイゼルも止めはしなかった。

『ルルーシュ、お前に言いたいことは多々ある。が、私は枢木スザクに問う。
お前はユーフェミアの騎士だった。そして父上の騎士であった。
貴様はそれを忘れ、ユーフェミアへの忠誠を裏切るのか!!』

スザクはただ静かに、モニターに映るコーネリアを見据えた。


「裏切ってなどいない。彼女は生きているから」


シン、と広間が静まり返った。
画面向こうの面々は、絶句している。
しかしスザクは一向に構う様子は見せない。

「父を裏切り、日本を裏切り、親友を裏切り、己自身も裏切った。
けれど忠誠は…裏切りの色に染まってはいない。なぜなら彼女は、」

そこに居る。
スザクが静かに振り返った先にはルルーシュ。
そのルルーシュは優美に手を翻し、声を掛けた。


「出て来て良いぞ。"ユフィ"」


1人の少女が、舞台裏から現れる。
画面向こうでコーネリアが絶叫した。

『ユフィ?!そんな馬鹿な…っ!!』

偽物に決まってる、と誰かが言おうとした矛先を、その"ユフィ"が潰した。
彼女はふわりと誰もが見たことのある可憐な笑みを見せ、話す。
コーネリアに向かって。

「お久しぶりです、お姉様。お元気でしたか?わたくしはずっとルルーシュの傍で、何不自由無く暮らしていますわ。
もっとも、ルルーシュはいろんな方に愛されてますから、わたくしとしては不満ですけれど。
…エリア11にあった、クロヴィスお兄様の造られたお庭。消えてしまいましたね。
ナナリーは、あの庭を目にすることなく亡くなってしまったのですね。
コーネリアお姉様、ギルフォードはルルーシュを守って亡くなりました。
だから、怒らないであげてくださいな。彼は本当に、立派な騎士でした」

目の前のことが信じられず、コーネリアは画面から後ずさる。
さすがのシュナイゼルも動揺を隠し切れない。

『…君は本当に、ユーフェミアなのかい?』

彼女は肩を竦めた。

「あら、証明など必要ありません。わたくしはもう、その名前を捨てました。
けれどあの日、お姉様もシュナイゼルお兄様も、誰もわたくしの死体を見ていないでしょう?」
end.

2008.9.2

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