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たぶん使わないフライング(神は死んだ。R2)
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神楽耶にとって民主主義など、『彼』の前には塵に等しかった。
今までついぞ見ることの無かった、白き衣に身を包んだ帝国の皇帝。
騎士団の者たちの声など軽く無視して、神楽耶は満面の笑みだった。

「わたくしは日本国天皇、皇神楽耶。貴方様は神聖ブリタニア帝国の皇帝陛下。
わたくしは黒の騎士団最大のパトロン。貴方様は騎士団を創り率いた『ゼロ』。
そしてわたくしはゼロ様の妻!貴方様はわたくしの自慢の夫!」

合衆国連邦議員の面々は、ぽかんと口を開ける。
議長の勤めなど何のその、神楽耶は壇上を駆け下りルルーシュへと駆け寄った。
彼を閉じ込めていたシャッターは、すでに彼女の手により降ろされている。
「ゼロ様、このようなご無礼をお赦しください」
元よりギアスを使う気はないので、ルルーシュは軽く頷いた。

「貴女のせいではありませんよ、神楽耶様。
どうせ、私を裏切った騎士団の幹部たちが声を揃えたのでしょう?」

野外で中継を見ていた民衆の、ざわめきが画面に映される。
星刻は終わったな、と斑鳩の司令席で笑みを噛み殺した。
(今、帝国以外の国々はあの方を支持している。それは民衆も同じ。
もう『ゼロ』の正体があの方と知れても、誰も気には止めない)
帝国の今までの体勢を破壊しようとしている彼は、今でも民衆の"希望"だ。
さらに凄いのは、神楽耶の行動。
彼女は一度ルルーシュに抱きつくと、手品のように袂から小さな箱を取り出した。

「ゼロ様。今回の仕打ち、世界回線での婚約発表で手を打ちませんこと?」

カメラに向けて差し出されたのは、プラチナにダイアモンドの飾られたペアリング。
さすがのルルーシュも目を丸くした。
現段階でも世界回線だが、そちらというよりも騎士団へ向けて神楽耶は告げる。

「わたくしは、ゼロ様にお会いし協力を申し出たその日から、ゼロ様の妻であろうと努力してきました。
もしもあなた方がそれを疑うと言うのなら、わたくしは騎士団と縁を切る」

護衛であったカレンが飛び出し、繋がりっぱなしの回線向こうで扇や藤堂が目を剥いた。
「「か、神楽耶様?!!」」
そんな彼らを、神楽耶は凍りのような一瞥で振り払う。


「その自分勝手な口を閉じろ、裏切り者が」


おそらく、このような神楽耶を見るのは誰もが初めてだろう。
世界回線ということを思い出したルルーシュは、とりあえず神楽耶を宥めることにする。

「その辺にしてやってはいかがですか?神楽耶様」
「…っ、駄目です!貴方が死んだとあの者たちに告げられた時、わたくしはどれだけ絶望したか!
あの仕打ち、返さずにはいられません!!」

こちらが彼女の本音なのだろう。
堪え切れず涙を流したこの少女に、多くの人々が共感と同情を覚えたはずだ。
…一部を除いて。
ルルーシュは神楽耶の背に合わせて屈み込み、流れる涙を拭った。
「貴女のその真摯な想いだけで、私にはもう十分です。それに…」
今度こそ、ルルーシュは騎士団を嘲笑う。

「『ゼロ』の居ない騎士団など、ただのテロリスト集団。
この1ヶ月、彼らが第2皇子シュナイゼル抜きで挙げた成果はありますか?」

日本返還は、シュナイゼルが騎士団へ持ちかけたもの。
騎士団ひいては合衆国連邦と旧ブリタニア帝国の停戦も、シュナイゼルが取りまとめたもの。
他にも世界的なニュースは多かったが、騎士団それだけで行って来たものはない。
フレイヤが投下されるまでは、騎士団の話ばかりであったというのに。
神楽耶はようやく笑みを見せた。
立ち直りが早いことも、彼女の強さだ。
ペアリングの内小さな方を手に取り、神楽耶はそれをそっとルルーシュへ手渡した。

「ゼロ様…いいえ、ルルーシュ様。わたくしの切なる想いを、受け止めて下さいますか?」

最早、誰も邪魔出来ない。

「『ゼロ』であった私を信じ続け、そして皇族と分かった今でも私を信じてくれる貴女を、誰が拒みましょう?」

神楽耶の左手の薬指に、静かに嵌められた指輪。
哀しみでも悔しさでもなく、彼女は嬉しさに涙を流す。
そして箱に残ったもう1つのリングを、優美に差し出されたルルーシュの左の薬指に嵌めた。
end.

2008.9.8

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