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きっと使わないフライング(神は死んだ。R2)
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富士上空に浮かぶ、空中要塞ダモクレス。
その要塞を守るように、黒の騎士団旗艦である斑鳩を中心とした部隊が展開されている。
対して自ら前線に出ているルルーシュは、アヴァロンの司令席で楽しげに笑っていた。
「あの、とても楽しそうですね…陛下」
状況は明らかに不利であるというのに。
不思議そうなセシルに、ルルーシュは上機嫌に答えた。
「これからの会話を聞けば、その理由が分かるさ」
皇族専用回線を使用して映されたのは、ダモクレスにて指揮を奮うシュナイゼルの姿。

「こんにちわ、シュナイゼル兄上。相変わらずの用意周到さ、尊敬に値しますよ」

対してシュナイゼルも、笑みを携え答えを返す。

『やあ、ルルーシュ。キャメロットの面々は元気かな?』

この回線に割り込む許しを得ているのは、黒の騎士団のみ。
斑鳩のブリッジとそれに通じるKMFのモニターで、彼らは息を殺して彼らの会話を聞く。
見るだけならば、全世界の人間が食い入るように見ているだろう。

「元気ですよ?あんなにも優秀な彼らを捨てるなんて、私には考えられませんね」
『捨てたつもりはないのだけどね。ところでルルーシュ、降伏するのなら今のうちだけれど』
「心にもない言葉を言う必要もありませんよ。もっとも、提案くらいなら持っていますが?」
『ほう?聞くだけ聞いてみようか』

ほら、来た。
昔と変わらぬ兄の性格の悪さに、ルルーシュは楽しくて仕方がない。

「大したものではありませんよ。ただ私は、私の育てた騎士団と戦いたいと思っただけです」

シュナイゼルの思考が一瞬停止したことを、見逃さなかった。

「どうです?騎士団の斑鳩とこのアヴァロンは、戦力的に同価値。
KMFも、我が騎士のランスロットとそちらの紅蓮は同戦力。
もっとも、他についてはこちらが補強させてもらうが…いかがですか?」

破格すぎる条件だ。
シュナイゼルは苦笑した。

『うーん、破格だね。騎士団が勝てば、我々の勝ちということだろう?』
「私が討たれて我が帝国が諦めれば、ね。私の力を甘く見ないで頂きたい。
どうせ信じないでしょうが、私はこちらに来てから一度も"これ"を使っていませんよ」

これ、と言ったルルーシュは、自身の左眼を示した。
何のことなのか分かるのは、ルルーシュの"ギアス"について話を聞いた者だけだ。

『確かに信じられない話だけれどね』
「信じようが信じまいが、それはそちらの勝手だ。ああ、ちなみに戦いたいのは『ゼロ』抜きの騎士団ですよ?」
『なに、分かっているさ。彼らが『ゼロ』を裏切ったのは、『ゼロ』が居ずとも戦えるという自信あってのことだろうからね』

あっさりと流れて行く会話の中に、疑惑が混じったことに騎士団の者は気付いただろうか。
とにかく、ここでようやくシュナイゼルは騎士団へ話を投げた。
『だ、そうだけれど。騎士団としての意見はどうだい?』
新たに加わった画面の中で、藤堂が頷き扇の声が宣言する。

『その申し出、受けよう』
『そうだ。オレたちが勝てば、この戦争は終わる!』

ルルーシュは嘲笑したくなるのを、必死に堪えなければならなかった。
そんな素振りはおくびも見せず、ルルーシュは鷹揚に頷いてみせる。

「では決まりだ。後方部隊、全軍を守備位置より下げよ!」
「「Yes,your Majesty!!」」

シュナイゼルがはた、と思い出したように言った。

『ではこちらも、中華の軍を下げてもらおうか。黎星刻、周香凛、洪古といった主力とKMFも下げよう』

動揺する騎士団の声に、当然だと頷いてみせる。

『君たちは彼の話を聞いていなかったのかい?ルルーシュは、『"ゼロ"抜きの騎士団』と言ったのだよ。
中華の彼らは、『ゼロ』あってこその同志だろう?』
「さすが兄上。よくお分かりで」
『皇帝陛下直々のご提案だ。戦力は互角(イーヴン)でなければね』

悪びれもせず言ってのけたシュナイゼルに、ルルーシュも笑みを隠さなかった。
そして分かっていて言っているのだろうと考えるも、星刻や香凛にそれを撥ね除ける理由はない。
「中華軍は後方部隊と同じ位置にまで下がれ。他の合衆国軍もだ」
当然のように斑鳩の司令席から自軍へ命を出し、星刻はさっさと席を立つ。
「し、星刻…!」
焦りを隠せない扇や他の団員に対し、星刻は当然だと答えた。

「お前たちは、天子様と神楽耶様のお言葉を聞いていないのか?
…天子様がギアスで操られているなどと言うつもりならば、この場で切り捨てる」

そういえば、と煙管をくるくると回すラクシャータを見る。
「チャウラー、神虎は出せるのか?」
突然話し掛けられぽかんとしたラクシャータは、ああ、と手を打った。
「そうだったわねぇ。あんたの機体、調整してたっけ」
さっさとブリッジを出て行った彼らに、扇たちは些か呆気に取られていた。


神虎が斑鳩から離れ中華の軍が下がった頃合いを見計らい、ルルーシュは再びシュナイゼルへ告げた。
「では、機体とパイロットの腕で生じる戦力差を、埋めさせて頂きましょうか」
『構わないが…場合によってはお断りするかもしれないね』
「数にして2機。共に暁3機以上の腕の持ち主です」
『…ギリギリだね。アヴァロンのKMFは少ないから、まあ構わないだろう』
「それはどうも。ではご紹介しましょうか。
片方は私が、9年前に誓約を交わした騎士。もう片方は、8年間我が母を守り続けてくれた戦士」

誰のことだ、と誰もがルルーシュの動向に釘付けだった。
end.

2008.9.16

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