ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
C様と誰か。次があるというなら、きっと世界は。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「何年振りにこの国に来たかな…。平和だな、この国は」

そうですか。
治安が悪化したという意見が増えてきましたが。

「ふん。そんなもの、可愛い部類じゃないか。戦争を知らないヤツの意見だな」

…はあ。

「お前もそうだろう?で、何が聞きたいんだ?物好きめ。
当面の宿と、美味いピザを毎食分用意してくれるというから来てやったんだ」

まさか、本当に3食ピザですか。

「当然だ」

…そうですか。
お聞きしたいのは、『ギアス』についてです。

「なんだ、ギアスが欲しいのか?死にかけてるようには見えないが。
それに、何もしなくても生きていけるじゃないか。この国は」

ええ、まあ。

「もっとも、例え死にかけていて生きたがっている人間が居ても、私は何もしない」

なぜですか?

「そう決めたからさ。愛した男が逝った日に」

……質問を替えます。『KMF』という兵器を、ご存知ですか?

「ああ。それがどうかしたか?」

半世紀程前から、各地で発見が相次いでいます。
もちろん、すべての戦争が終結を迎えて研究事業が進み始めたためですが。

「それで?」

KMFとは、独立二足歩行が可能な特攻兵器、でしたか?

「特攻?まあ、前線に投入される兵器ではあったな」

主な武器は?

「剣とライフルだな。一部のKMFは遠隔波動攻撃も可能だった」

KMFの原動力は?

「エナジーフィラーだ。核(コア)はサクラダイトで出来てる」

…その、サクラダイトという物質は、どのようなものだったんです?

「知らん」

は?

「私は専門家じゃないんだ。軍人でもない。知るわけがなかろう」

専門家も首を捻っているから、お聞きしたんですよ。
何しろサクラダイトは、数百年前に枯渇してまったく残っていませんから。

「ふふっ。本当に、人間は繰り返すな。資源は限りあると分かり切っているのに」

……。

「たった2人で戦争を止めた馬鹿が居るのに、それでも争いはまた起こる。
あれから何度戦争が起きたか、私は途中で数えるのを止めた。
…それで?なぜKMFの話を?」

えっ?ああ、そのことですね。
当時の技術力の高さが、あまりに群を抜いていますから…。

「ほう?それは初耳だな」

二足歩行のロボットは、まだ階段を上れる程度ですからね。
小さなものなら、走ったり立ち上がったりも出来ますが。
…ですから、不思議なんですよ。

「なにがだ?」

当時の記録からすると、自動車は現代の方が進んでいます。
ですが、ロボットは違う。
いくら遺っている資料を調べても、その技術が今に伝わっていない理由が分からない。

「…別に、分からなくても困らんだろう」

え?

「あれは兵器。つまりは戦いの道具だ。それに今造ったとしても、どうせ役立たずさ。
だってそうだろう?今は、誰かのスイッチ一つで世界が滅亡し兼ねない」

…核兵器、ですか。

「ふふ、"今は"そう言うのか」

"今は"?

「都市へ撃たれたものは2発。戦闘の場において10発近く使われたな。
名は、"フレイヤ"」

まさか…。当時、すでに核兵器が?

「私は専門家じゃない。原理は違うんじゃないか?」

…効果は似たようなもの、と?

「都市がクレーターになった。一千万単位で人が消滅したな」

……。

「あれが頭の上で爆発すれば、さすがの私も死ねるんじゃないか?」

死にたい…んですか…?

「いや、特には」

特には、って…。生きたいわけでもないってことですか?

「あいつが居ないから、つまらんことは確かだ。
ただ、あいつらが騙し切った『世界』がどこまで騙されるのか、その終わりは見てみたい」

どういうことですか…?

「人は、未だ騙されたままさ。あいつの名は必ず歴史の教科書にあるし、説明も必ず同じだ。
同じく、『Cの世界』も。アレもあいつのギアスに掛かったままだ」

はあ…。
よく分かりませんが、貴女のいう『あいつ』とは誰なんですか?

「お前も学生の頃に習っただろう?ブリタニアの歴史を」

ああ、某国の前身の。

「じゃあテストだ。僅か1年という在位であったにも関わらず、必ず1ページを割かれる皇帝の名は?」

えっ?!



驚いて、思わず手にしたコーヒーカップを取り落としかけた。
『彼女』は立ち上がり椅子に掛けていたキャスケットを被ると、したり顔で笑った。

「どうした?私が"魔女"と知りながらナンパした強者(つわもの)が」

そうだ。
その笑みは、人のあらゆる面を知り尽くしていなければ、創れない。
そして、今ここで去られては困る。
非常に困る。

「安心しろ。教えたアドレスは本物だ。ちゃんと電話も掛かるぞ?」

…なら、良いのだが。
どうせ『彼女』はタダでピザを食べたいだけだ、確実に。
しかし今の話は、本当なのだろうか。

「私が"魔女"であると信じたくせに、それは信じないのか?面白い頭だな」

トリ頭とでも言いたいのか。
専門学用語を並べない限り、膨大過ぎるキャパシティの『彼女』の口を噤ませることは難しい。
ちなみに、前述のことはいつだったかに試みて、一蹴されただけだった。

『彼女』はこちらの意向など無視して、歩き出す。
…それにしても、毎食ピザを食す魔女など聞いたことが無い。
溜め息を呑み込もうと、冷めかけたコーヒーを口へ運ぶ。
足音が止まったので不思議に思って顔を上げると、数歩先で立ち止まった『彼女』が意味ありげに視線を返して来た。

「あいつのことは、本当さ。そして私が、相手が死してなお愛しているのも」

そのとき見た、『彼女』の笑みは。
まるで聖母マリアが浮かべる、"慈愛"という名の微笑みだった。



「何百年も経ったというのに、愛おしいと想う気持ちが一向に薄れない。
そんなやつは、『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』ただ1人だけだ」



ややあって、ハッと我に返る。
『彼女』が去っていくのを、馬鹿みたいにぽかんと見送ってしまったではないか。
…いや、きっと今のアレを聞けば、誰だって同じに違いない。
とりあえず、回していたボイスレコーダーのチェックから始めることにしよう。
ちゃんと『彼女』の許可も取っているから、大丈夫だろう。
end.

2009.12.13

ー 閉じる ー