真っ白な上質紙の封筒。
差出人の名はないが、押してある印はアッシュフォード家のもの。
宛名は、"ナナリー・ヴィ・ブリタニア"。
「まあ!ミレイさんからですか?!」
嬉しそうに笑った少女に、スザクは何の疑いも無く中の便箋を手渡した。
中身は点字で書かれていて、自分には到底読めないのだ。
(ルルーシュなら、読めるんだろう)
ナナリーは受け取った便箋にそっと手を這わせ、読み始めた。

それは、世界の崩壊を描く序曲。








拝啓  ナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下


前略


エリア11総督就任、誠に御目出度うございます。
おそらく今は、見えぬ門出に心躍らせていることと存じます。

本日、無礼を承知でお手紙など差し上げましたのは、
是非とも貴女に、お礼を申し上げたかったからに他なりません。


ありがとうございます。
今は亡き第3皇女殿下よりも劣っていた、貴女の悟る力に。

ありがとうございます。
閉ざされた世界から踏み出そうとせず、ただ与えられる光だけを
感受し続けている貴女の見えぬ瞳に。

ありがとうございます。
気付こうという努力をなさったかは存じ上げませんが、
差し出される事実を、すべて『真実』だと信じているその心に。


ありがとうございます。


もっとも愛すべき存在を、その手で裏切った貴女に。








手が、震えた。

何だ、この手紙は。
何を言っているのか、この手紙の主は。

青ざめたナナリーにスザクが声を掛けるが、彼女は次の便箋へ震える指を乗せた。








ねえ、貴女に見える世界はどんな世界ですか。
貴女の言う世界とは、どのような世界ですか。

その世界に、貴女の望むものがすべて揃うと信じていますか。
光り輝き、希望に満ちた世界ですか。
ブリタニアという帝国の国是が、認めてくれる世界ですか。
帝国の国是を、変えられる立場に居るのですか。

ああ、すべて肯定されましたね。

自ら見ようとしないその目に、世界が映りますか?
貴女の夢見る世界は、貴女が作り上げたものですか?
望むものがすべて揃う世界が、箱庭だと気付いていますか?
輝くその光は、貴女が発せられるものですか?
ブリタニアの国民の、幸せをも願った世界ですか?

その、低過ぎる継承権で、何かが出来るとお思いですか?
政治を知ろうとしましたか?
同情以外で、貴女は己に皆の気を惹かせることが出来ますか?

…よしましょう。
今の私はとても嬉しくて、無関係なことまで書いてしまいます。

なぜなら、貴女がその手を拒絶したから。
貴女があの優しい手を払いのけたから、僕は何の気兼ねもしなくていい。
堂々と、僕はあの人の弟だと胸を張れる。

なぜなら、あの人の愛した貴女は、人でなしに恋をした。

これでもう二度と、貴女と裏切りの騎士に会う必要もない。
傲慢な自己愛の人間同士、仲良く理想を吐き続ければいい。

さようなら。
かつて、本当にあの人の妹だった人。

どれだけ優しく護られて、どんなに優しい心の持ち主かと。
貴女のことを考えた日もあった。僕は偽りだったから。
でも、違ったね。

優しいのは、あの人だけだった。

僕の口から話せる日が、未来にあれば良い。
いつか相対する日に、あなた方が生きていればの話だよ。


ありがとう。そしてさようなら、ナナリー。


貴女の政策が、思いが、形になる日が来ますように。
今日というこの日は、貴女が世界を裏切った、記念日です。



敬具  ロロ・ランペルージ








2枚目の便箋が、落ちた。
「……っ!!!」
声が出なかった。
震えが止まらなかった。

(その名前は、なぜ?)
(あの人とは、だれ?)
(その場所は、どこ?)

その名前は、1年前まで名乗っていた偽名。
あの人は、誰よりも愛する兄のこと。
その場所は、妹である自分が求める兄の、となり。

3枚目の便箋に、手が触れた。








追伸

すべてを知るのは、君の隣の円卓の騎士。
裏切りの始まりは、その男。

ルルーシュを、兄さんを、最悪の手段で陥れた、最低な人間。


だから、君に譲ってあげる。










※ 空白は反転で

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