スレを放置した後の関係者たち





「えっ、これイヴお姉ちゃんにあげて良いの?!」
「おう。世話になってるし、数が半端になっちまったみてえだしさ」
「やったー! ありがとう!!」
早速写メって教えるー!
アナは嬉々としてカイトから受け取ったポスターを開き、イワシミズくんに持たせた。

ソファに座るカイトとルーク。
2人の間になる位置で、ポップな絨毯の敷かれた床に座るフリーセル。
それは、ぬいぐるみを抱いたフリーセルの頭を撫でるカイトと、彼ら2人を見つめるルークの図だ。

「相変わらず、フリーセル君の性別が行方不明だわ…」
ノノハはアナの後ろからB2サイズのポスターを眺め、腕を組む。
男の娘、というより、これはもう女子だ、女子。
「けど、ほんとにあのスレの通りの構図だったんだね」
キュービックがぽつりと呟き、カイトが首を傾げた。
「スレ?」
「あ、ううん。こっちの話だよ」
そういえば最近、雑誌とかの取材増えたよね。
カイトは彼の言葉に、困ったように頭を掻いた。
「そうなんだよなー。イベントの方がいろんなパズルくれるから好きなんだけど」
悩む箇所が明らかに違うのだが、カイトのパズル馬鹿っぷりは誰もが既知であるので誰も突っ込まない。
「フリーセル君とルーク君は、取材とか平気なの?」
「平気っつーか、あいつらクロスフィールド学園でもいっつも目立ってたからな…」
注目されるのは当たり前であったので、見られることに関しては問題ないだろう。
それはカイトも似たようなものだが、自分のことを棚に上げている。
「ルークは"仕事が溜まる!"って苛々してるな、最近…」
「そりゃそうよね…」
ルークにはPOG管理官としての責務がある。
アイドル云々と副業…どちらが副業だか分からないが…を、している場合ではないはずなのだ。

写メを送り終わったアナは、ポスターを丁寧に巻き直した。
「ねー、カイト。3人バラバラでお仕事したりしないの?」
そういえばそうだ。
ノノハが知る限り、カイトとフリーセル、ルークが単独で取材やレコーディングに入っているのは見たことがない。
…デビューからまだそう時間は経っていないが、3人にはそれぞれに固定ファンが付いている。
確実に売れる要素があるなら、単体での仕事が入ってきそうなものだが。
「ねえよ」
カイトの返答は簡潔だった。
「ていうか、俺もルークも、セルを1人でどこかに行かせる気はねえ」
学園長とクロンダイク社長がそう決めてんだし、当たり前だけど。
「…どういうこと?」
さすがに、すぐには理解できなかった。
聞き返したノノハに対し、カイトは逆になぜ判らないのかという顔をした。

「危ないからに決まってんだろ」

あれ、なんか話が通じてない気がする。
口許が引き攣ったノノハへ、キュービックが溜め息混じりに声を掛けた。
「だから言ったでしょ、ノノハ」
カイトとルークにとって、フリーセルはお姫様みたいなもんなんだって。
「…ごめん、キューちゃん。よく分かんないや」
「分かんなくてもそれが事実だよ、ノノハ。現実逃避はダメダメ!」
「だって、フリーセル君男の子だよ?」
それにこの間見たけど、護身術だって持ってるし!
「うーん、でもノノハの方が強いと思うよ?」
「た、確かに、私はプロレスとかボクシングもやるけど…」
さっぱり納得出来ないノノハの後ろで、コツンとヒールの音が鳴った。

「ふぅん、結構イケメンなんだ。大門カイトって」

全員の視線が、ノノハの後ろに集まる。
慌てて振り向けば、そこには1人の少女が立っていた。
左耳に下がるライン上のピアスが、光を反射してキラリと緑色に輝く。
「誰だ? お前」
突然の闖入者は、皆の視線を受けても平然と不敵な笑みを浮かべたままだ。
釣り上がり気味の眼差しは、猫を思わせた。

「私? 私はレイツェル。真方ジンの弟子よ」

君と同じように。
己の師であり親代わりでもある人物の名に、カイトは目を眇めた。
「ジンの弟子、だと?」
レイツェルと名乗った少女は頷く。
「そうよ。ルーク、カイト、そして私は3人目ってわけ」
彼女は勝ち気な視線をそのままに、白い指先を突き付けた。

「大門カイト。私はあなたには、絶対に負けない」



突然の宣戦布告の意味を、この時点で知る者は他に居なかった。
14.5.6 (アイドルはじめました。)

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