果てに続く
(7.どこかの世界で巡る先に)
綺麗に磨き上げられたローファーを履き、チェーンロックを外すとリビングを振り返る。
「行ってきます」
すると母の慌てた声が聞こえた。
「えっ、もうそんな時間?!」
お弁当持った? 保護者確認のプリントも持った?
矢継ぎ早に飛んでくる確認の声に、呆れを隠さぬ声を投げてやる。
「さっき全部確認しただろうが」
おおそうだった、と驚いたように笑う彼女は、"以前に"知る姿とそう変わらず。
「あっ、こっち忘れてた。今日は私もエルヴィンも遅いからさ、夜は隣に頼んだよ」
カルラにはもう連絡してるからさ!
隣家の名前が出たので、頷いた。
「分かった。行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい、リヴァイ」
此処は、リヴァイの与り知らぬ『世界』だった。
気付けば此処に居て、ただの人間として生を受けていた。
玄関の鍵を閉め、廊下の手摺に寄り掛かる。
あと10秒もすれば、
「行ってきます!」
元気な声と共に隣家の扉が開き、同じ制服を来た少年が出てくる。
彼はリヴァイの姿を認めると、ふわりと微笑った。
「おはよう、リヴァイ」
「ああ。おはよう、エレン」
リヴァイも僅かに笑みを返す。
挨拶を交わし終えて、連れ立ってエレベーターへ乗り込んだ。
「今日、リヴァイうちで夕飯食ってくんだよな?」
「何で知ってる?」
「出る前、母さんとハンジおばさんの電話聴いたから」
神様なんて、そんなもの。
ただの自分勝手な、狡い大人でしかないんだと知っている。
それでも自分は此処に居て、何よりも愛しかった相手も此処に居る。
「お前、国IIの課題は出来そうなのか?」
「うーん、昨日父さんにいろいろ話聞いたから、前よりは出来そう」
「グリシャさん、帰ってたのか。良かったな」
「うん」
偶にしか家に戻れない父親について、照れながらも嬉しそうな姿が愛おしい。
リヴァイはもう、愛することも愛されることも知っている。
遺される絶望も、孤独も知っている。
(エレン)
彼はもう、リヴァイを選ばないかもしれない。
今は一緒でも、大人になるにつれて疎遠になり、連絡さえ取らなくなるのかもしれない。
(それでも)
いつまででも、彼の味方で在りたいと思う。
叶うならば、その隣に居られたらと思う。
「今日、アルミン生徒会の朝会なんだってさ。もう先行ってるからって」
「そうか。ならミカサだけか」
こうして笑う彼の幸せを、願い続ける。
自分の手で幸せに出来るなら、それに越したことはないけれど。
( 愛してる、エレン )
ーーー世界が灰になっても褪せなかった、この想いは。
伝えること無く生を閉じても、もう後悔などしないだろう。
--- 果てに続く end.
2013.12.31
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