ここから、
(みんなといっしょに。)
長い、とても永い、夢を見ていた。
何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、自分が死ぬ夢を。
自分が最期に逢いたいと願う人たちが、己の名を叫び嘆く夢を。
『あんたが今思い浮かべた人達は、あんたが死んだら絶対に幸せになれないよ』
アニの声が脳裏に響く。
『君が死んだら、彼らの誰も幸せにはなれない』
ベルトルトの言葉が蘇る。
懐かしい、母の歌声が聴こえる。
エレン、と呼ぶミカサの声が聴こえる。
どうか起きて、とアルミンの泣き声が聴こえる。
夢に飽きたら会いに来て、とペトラの声が聴こえる。
待ってるよ、と笑うクリスタの声が聴こえる。
ちゃんと待ってるから、と微笑むハンジの声が聴こえる。
いつか必ず起きろ、とリヴァイの声が聴こえた。
* * *
ゆっくりと瞼を押し上げると、そこには母の姿があった。
驚きに見開かれた母の目から、エレンの頬へと雫が落ちてくる。
ぽたりぽたりと頬を濡らすものが母の涙であると、エレンは遅れた思考で理解した。
「…おはよう、エレン」
随分と、お寝坊だったわね。
泣き笑いを浮かべたカルラは、エレンの身体を強く抱き締めた。
「……おはよう、かあさん」
エレンはゆったりと言葉を紡ぐ。
びっくりするくらいに優しく強く抱き締められて、それだけの心配を掛けたのだなあと思う。
まだ眠りの縁に足を掛けたままで、瞼が重い。
(でも、もうねむくないから)
テントの布越し、和らいだ陽射しがエレンへと降り注ぐ。
陽射しを取り込み微笑んだ金色の瞳は、生命の輝きに満ちていた。
誰もが待ち望んだ言葉を、エレンは音にする。
「ただいま」
ここから、
2013.8.18
ー 閉じる ー