おやすみ、あしたも

3.天使みたいにお祝いするから(お祝い編)



*     *     *



『誕生日おめでとう、エレン』
『おめでとさん!』
0時になった瞬間に、ヒストリアとユミルからメッセージが飛んできた。
まだ起きてるのかあいつら、と少し嬉しかったことを思い出す。
「夜にパーティーすっから、18時くらいには帰ってろよ!」
朝、ケニーに誕生日祝いの言葉を貰ったエレンは、ついでにそんなことを言われた。
「ん、分かった」
いってきまーす、と家を出る。
(兵長…じゃない、リヴァイさん。早く来てそうだよなあ)
昨日の夜、彼からメッセージが入って驚いた。
(『午後の予定が空いてるなら、お前の時間を寄越せ』とか…)
春の陽気、咲き始めた桜の並木を横目に駅まで歩く。
(…大丈夫、だよな?)
2人きりで会うなら気をつけろと、言われたことが頭の隅にちらついた。

待ち合わせ5分前。
予想に違わず、すでにリヴァイはそこに居た。
「よお。早かったな」
「リヴァイさんが早そうだったので」
言えば良い心掛けだ、と褒められる。
「少し足を伸ばすぞ」
リヴァイが歩き始めたので、エレンはその後を着いて行く。
「どこへ行くんですか?」
「オフィス街の方だ」

硝子張りのビルが建ち並ぶ、企業オフィスばかりが固まった一角を通り抜ける。
物珍しく上を見上げながら歩くエレンの注意を、リヴァイは目の前で手を動かすことで惹いてやった。
「ここだ」
何となくビルの合間に出来た広い空間に、地下へ降りるエスカレーター。
脇に立つ看板に、エレンはここが美術館であることを知った。
涼しい地下に、入口がある。
チケット、と思ったエレンの目の前に、ひらりと何かが翳される。
「あ、ありがとうございます」
無言で先を行くリヴァイを追いかけ、展示室へ入った。

「…!」

そこにあったのは、壁一面を使った青の写真。
紺碧の海、宝石と呼ばれる日の出の一瞬。
「……」
言葉もなくただじっと写真を見上げ目を輝かせるエレンに、リヴァイは密かに笑った。

この展示会は、様々な分野のアーティストによるそれぞれの『海』がテーマとなっている。
写真であったり絵であったり、はたまた彫刻であったりテキスタイルであったり。
都度都度立ち止まって見入るエレンを、リヴァイはゆったりと待っていた。
「ん?」
海で泳ぐ…鰯だろうか…が絵画の画面左下に向かって形を変え、左下の展示台に流れるように別の彫刻がある。
木製の彫刻は食卓の一部のようで、串刺しに焼かれた鰯がご飯と味噌汁と一緒に置いてある。
「…ぷっ」
堪え切れず、エレンは吹き出した。
作者紹介のプレートには作者のひと言が書いてあり、

ーー Delicious is justice! [おいしいは正義!]
Sasha・B

とあった。
思わず手招きでリヴァイを呼ぶ。
「へい…リヴァイさん、これ…」
エレンの指差すプレートと木製の彫刻を見比べ、2人は顔を見合わせる。
「…まさか、な」
「ですよね…?」



美術館には、随分と長居した。
そろそろ小腹が空いてくる頃だろう。
「この辺に、美味いパイの店があるらしい」
「パイ!」
昼はオフィスの人間を相手に軽食系のパイがメイン、昼以降はおやつに良い甘味系のパイも出す。
「俺もまだ食ってはいないんだが、ルームメイトが美味いと褒めていたんでな」
ルームメイト、とエレンは反芻した。
「大学の寮に住んでる、ってことですか?」
「まあそうなる」
グルメパァン・ナビと呼ばれる料理の口コミサイトの地図を頼りに、オフィス街の隅までやって来た。
「良い匂いがする…」
「ここだな」
小さな店はテイクアウト専用のようだ。
並ぶパイに目移りしながら、エレンは苺のパイを選ぶ。
「パーティーあるなら、苺のケーキでも出るんじゃねえのか?」
「良いんですよ、季節なんだから。…ん?」
俺、パーティーあるって言いましたっけ?
「ユミルから訊いた」
「…あいつ、意外とおしゃべりですよね」
「口は堅いと思うが」
「まあ、そうですけど」
なんか納得いかない、と眉を寄せるエレンに、リヴァイはホッと息を吐く。
(チッ、口が滑った)
自分でも思っていた以上に、浮かれているらしい。
「あ、リヴァイさん。あそこに公園ありますよ」
桜が咲いてる! とエレンがはしゃぐので、分かったとひと言そちらへ方向を変えた。
「どっかで飲み物買います?」
「ああ。…あそこで良いだろ」
コーヒーチェーン店で、ドリンクを2人分テイクアウト。
「…リヴァイさん」
ドリンクを持つリヴァイの代わりにパイを持っていたエレンは、口をへの字に結んでいる。
「なんだ?」
エレンの顔には、やっぱり納得いかないと書いてあった。
「俺、1円も払ってないんですけど」
なんだ、そんなこと。
リヴァイは小さく笑い声を漏らした。
「誕生日なんだろう、お前。黙って奢られとけ」
「えー…」
併設の大学院で教授の手伝いをしているリヴァイのアルバイト料は、そこそこ良い方だ。
社会人のようにきっちり稼いでいる訳ではないが、こんなもの、心配するような額じゃない。
エレンのアイスココアを渡し、リヴァイは自分のミートパイを受け取る。
「ほら、行くぞ」
「はーい」

オフィスビルに囲まれた公園は、中々に綺麗に整えられていた。
人も疎らで、空いているベンチはすぐに見つかる。
ちょうど桜の傍にあったそこへ、エレンは不機嫌を吹っ飛ばして駆け寄った。
「もう少ししたら満開かなあ」
「次の土日は、どこもかしこも花見客でいっぱいだろうな」
座ると、桜の枝がカーテンのように日射しを遮ってくれる。
「いただきまーす」
買ってもらったパイにパクついたエレンは、その絶妙な甘さと酸味に目を丸くした。
「うまっ?!」
リヴァイもミートパイをひと口食べ、頷く。
「これは美味いな…」
じっとこちらを見てきたエレンの口許に、リヴァイはミートパイを差し出てみた。
「ひと口食うか?」
願ったりではあるが、エレンは躊躇う。
「え、でも…」
「確かに俺は綺麗好きだが、お前なら別だ」
潔癖症とは言わないんだなあ、とエレンが笑いそうになっていると、唇に何かが触れた。
リヴァイの親指が、エレンの唇に付いたパイ屑を拭い取る。

「惚れた相手なら、別だ」

息が止まるかと思った。
(うぅ…)
顔が熱い。
差し出されたままのミートパイをじっと見つめ、エレンはパクリとひと口齧った。
さっくりとしたパイ生地に、コクの深いミートソースがよく合っている。
「…美味いです」
「そりゃあ何よりだ」
顔は見れないままだが、楽しそうなことは判る。
エレンはがばりと顔を上げると、自分の苺パイをずいっとリヴァイへ突き出した。
「貰ってばっかなんで、リヴァイさんもひと口食べてください!」
もう悔し紛れだ。
それに瞠目したリヴァイが随分と動揺していたことを、エレンは残念ながら見逃してしまった。
ざくっと苺のパイが齧られ、ようやくリヴァイが離れる。
「…こっちも美味いな」
「ソレハヨカッタデス」
アイスココアを飲んで頭を冷やすのが、エレンの精一杯だった。

「…リヴァイさんって、そんな人でしたっけ?」
最後のひとかけまで食べ切って、エレンは心持ちリヴァイから少し距離を取る。
まるで威嚇する猫のような仕草に、リヴァイはふと笑った。
「そうだな。こんな世界のせいだろうよ」
雀の声に顔を上げれば、蜜を目当てにした雀たちが桜の花を啄いて花がそのまま落ちてくる。
ぽとん、と落ちてきた桜を掌で受け、リヴァイはエレンへ差し出した。
「惜しむ理由はない。抑える必要もない」
反射で受け取ってしまったエレンは、リヴァイを見つめ返す。
「なあ、エレンよ。こんなぬるま湯みてぇな中で戸惑ってたら、『あの頃』は…言葉どころか、目すら意味を為さなかったろうな」
そうか、と思う。
(『リヴァイ兵長』は、あの頃だから存在したのか)
桜の花をベンチの隅にそっと置いたエレンは、また別のものを差し出されて困惑する。
「リヴァイさん…?」
簡素な茶封筒に、それらしいリボンのシールがひとつ。

「誕生日おめでとう。エレン」
もう一度、出会ってくれてありがとう。

今度こそ息が止まり、不覚にも涙腺が刺激された。
「ありがとう…ございます…」
涙を堪えていることなど、きっとお見通しだろう。
相変わらず意地っ張りだと、心の中で笑われているかもしれない。
「…開けて良いですか?」
「ああ」
少し重さを感じる袋を開ければ、出てきたのはブロンズ製のブックマーカー。
非常に薄く細長いそれはページに掛ける上部と一番下の先端が翼の形をして、一部に硝子が埋め込まれている。
それはキラリ、と陽光を反射して、エレンの手の内で輝いた。
ふふ、と笑い、エレンはひとつだけ涙を零す。
「…酷い人ですね、あなたは」
『前』とは違うと言っているのに、俺に『前』を引き摺らせようとするんだ。
「そりゃあ、お前」
エレンよりしっかりと骨張った指先で、リヴァイはくしゃりとその頭を撫でた。
「『前』があるから、必死なんだ」



リヴァイと初めて出会った乗り継ぎ駅で別れて、エレンは電車を待ちながら茜色の空を見上げる。
「『前』があるから必死、か…」
どういう意味なのか、エレンには分からない。
(あの悲惨な世界を知っているから、あの頃出来なかったことをする?)
自宅の最寄り駅で降りて、歩き慣れた道を帰る。
(言えなかったこと。出来なかったこと。それとも…?)
見えてきた自宅の、閉じた店側の扉を過ぎて横の玄関を開けた。

パンッ、パパァン!

身の竦む破裂音が響き、エレンは硬直する。
その視界に、ひらひらと色鮮やかな銀紙が舞い落ちた。
「あっははは! さすがにコレはやり過ぎたかぁ」
逆三角の小さな筒を持ったユミルが、悪い悪いと謝りながらエレンの頭に掛かった銀紙を避けた。
「ごめんね。1回やってみたかったんだ」
同じく筒を持ったヒストリアも、一緒になって紙吹雪を髪の毛から払う。
店のカウンター奥で、ケニーがそれは面白そうに笑った。
「熱烈な出迎えはどうだぁ? 倅よ」
ぽかん、と突っ立っていたエレンは、ヒストリアとユミルが手に持つものを改めて見遣り、徐々に可笑しくなってくる。
「…っふ」
顔を俯けたエレンを心配して覗き込んだヒストリアは、思わぬ笑顔に目を丸くした。
「エレン?」
呼ばれたことで、エレンは本格的に笑い出す。
「あははははっ! やっばい、マジでビビった!」
お前らの誕生日はやり返してやるからなっ!
ヒストリアはユミルと顔を見合わせ、ホッとしたように力の入った肩を下ろした。

「おかえり、エレン」
「おう、ただいま!」

笑い合う2人を見ながら部屋の奥へ後退して、ユミルはこそっとケニーへ話し掛ける。
「おやっさーん。なんかあいつら、夫婦みてぇなことしてんぞ?」
「おーおー、大いにやっちまえ! うちは男所帯で花が足りねえんだ」
それにまた笑いながら、ユミルはエレンに向かってテーブルを示した。
「おら、そこの主役さんよ! お前が席に着かねーと、パーティーが始まらないんだが?」
「分かった。手洗ってくる!」
ぱたぱたとエレンが奥のリビングへ引き、ヒストリアがキッチン側へ回る。
「さて、倅がいねえ内に並べるぞ!」
「はい!」

店の幾つもの丸テーブルを並べて作った大きなテーブルへ、所狭しと料理が並ぶ。
トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ、旬野菜をこれでもかと並べるバーニャカウダ。
客にも大人気の自家製ピクルスに、鯛とサーモンのカルパッチョ。
「親父も座れよ。次オーブン料理だろ?」
アスパラガスのバーニャカウダをもぐもぐしながら、エレンが自分の隣の椅子を指差す。
「チッ、さすがに料理の順番がバレてやがる」
「…何年目だよ、その台詞」
「えっ、いつもやってんのか?」
「恒例行事的な?」
うっかり吹き出し、ユミルはせっかく箸で掴んだカプレーゼを皿に戻してしまった。
この店の賄いは食べていても正規の料理は食べたことのなかったヒストリアは、ピクルスが気に入ったようだ。
合間にチップスとシーザーサラダを挟み、メインディッシュがやって来た。

ほかほかと湯気を上げるホワイトシチュー。
ジュワジュワとまだ油を撥ねる、チーズハンバーグ。

先ほどよりも2割増しで笑顔になったエレンに、ほんとに好きなんだなあとヒストリアは逆に感心する。
「だって美味いから!」
それはそうだ。
シチューを全員分よそったケニーが、ミトンを外しまた席に着く。
「シチューはコイツの母親の得意料理だ。今じゃ俺より、エレンの方がその味に近いがな」
だから、この春先の暖かな日にシチューが出るのか。
ヒストリアもユミルも、ようやく納得した。


「うまかった!」
「タダで食べて良かったのかすげー疑問だ! ありがとな、おやっさん!」
「凄く美味しかったです」
三者三様に褒められて、ケニーも満更ではない。
「褒められちゃあ仕方ねえな。最後のケーキだ!」
大皿に載った18cmのショートケーキ。
真っ赤な苺が生クリームと一緒に飾られて、載せきれないと判断された蝋燭は7本。
(…あれ?)
目の前に置かれたケーキに違和感を感じたエレンだが、部屋が暗くされてそれが消えてしまう。
蝋燭に火が灯され、ふわりと炎が浮かぶ。

「おめでとう、エレン」
「何にせよ、めでてぇな。もう17か」
「おめでとう」

ふっと吹かれた吐息で蝋燭が消え、ぱちぱちと拍手が上がった。
こうやって父親以外とケーキを囲んだのは、いつ以来だろう?
「さて、切るか!」
明るくなった店内で、エレンは改めてケーキを見る。
「これ、誰が作ったんだ…?」
3人が驚いたようにこちらを見つめ返すので、エレンはこてんと首を傾げた。
「親父じゃ、ねえよな。気づいてないと思うけど、こんな飾り付けしねえもん」
「そうなのか? そりゃ知らなかった」
「おう」
次にユミルを見ると彼女は意味ありげに視線をエレンの隣へ向けて、それだけでもう、答えは分かるというもの。
「ヒストリア…?」
先にバレてしまって、ヒストリアはなんだか恥ずかしくなった。

「私が、作ったの」

ユミルとマスターに手伝ってもらって、食べて感想言ってもらって。
(ああ、でも)
食べて無くなるもの以外にも、用意すれば良かったな…なんて。
今更だけれど、思ったりする。
「男の子にプレゼントするなんて初めてで、何をあげたら喜んでくれるのか分からなくて」
ケーキは作ったことなんてなかったけど。
(ケーキか…)
エレンは笑って、ヒストリアの頭を撫でた。

「ありがとな。ヒストリア」

誰かの手作りという意味なら、両親以外のものは初めてだ。
そう教えれば、彼女の顔が輝く。
「ほんと?」
「ほんと」
それなら、少しは特別なものになっただろうか。

「そっか。良かったぁ」

安堵も含めて微笑んだヒストリアに、エレンはドキリとした。
それはどこか。
(リヴァイさんのときと、同じ?)
どうしよう、きっと顔が赤い。


*     *     *


はしゃいで酒飲み過ぎちまった、とケニーが店の外に出て、一緒にユミルも外に出る。
「アタシもちょっと夜風に当たるよ」
エレンとヒストリアは、2人でテーブルの上を片付ける。
「ケーキ、美味かったぞ」
「…うん」
良かった、練習した甲斐があった。
そこで、大事なことを思い出す。
「今日は何もされなかった?」
「は?」
意味が分からず聞き返したエレンに、ヒストリアはぐっと身を寄せる。
「リヴァイさん」
心無しか、眼光まで鋭くなっている。
「おま…どんだけあの人嫌いなんだよ」
「…嫌いじゃないわ。好きでもないけど」
ただ、あまりに強敵なだけで。
「よく分かんねえけど。美術館行って、おやつご馳走になって、んでプレゼント貰ったくらいだな」
分かってはいたが、完全にデートコースだ。
羨ましい。
「プレゼントは何だった?」
「ん? ブックマーカーだった。綺麗な細工入ってて」
『前』の地位の高さゆえの真贋美か、趣味の良い男だ。
「…物の方が、良かった?」
手を止めこちらを見上げた彼女に、エレンはぱちりと目を瞬く。
「良かったって、プレゼントが?」
ヒストリアはこくりと頷いた。
エレンもテーブルを拭く手を止め、彼女に向き直る。

「じゃあ次は、俺もケーキ作ろうか?」

何が、じゃあ、に繋がるのだろう?
訝しく彼を見返したヒストリアに、エレンはまた笑った。
「食べ物だから無くなるけど、味は覚えてる。母さんのシチューの味も、ケーキの味も」
形の有る無しは、重要じゃなくて。
いつの間にかぎゅっと握っていたヒストリアの手を、上からそっと握った。

「一緒だった。一緒に笑った。一緒に食べた。俺は、それで良い」

エレンの欲しいものは、いつだって少ない。
形のあるものは、もっと少ない。
それが『前』を引き摺る所為だと、ヒストリアは気づいた。
(『前』とは違うのに。欲しがれば、何だって手に入るようになったのに)
お金を稼ぐのも簡単になった。
海を見に行くのだって、とても簡単。
ヒストリアだって、欲しいものはほとんど無いけれど。
「エレン」
「なに?」
「それなら、私を欲しがって」
翠の眼が、大きく見張られた。
「私はエレンと一緒にいたい。一緒に食べて、馬鹿みたいに喧嘩して、一緒に」

ねえ、私もエレンも17歳になった。
酷かった『あの頃』とは、違う年齢になった。
「ユミルも違う。リヴァイ兵士長も違う。ケニー・アッカーマンだってそう。
お母さんは亡くなってしまったけれど、でも違うでしょう? 違うんだよ!」
夢か現か、そんなことはどうでも良くて。
「もっと欲しがろうよ。エレンなら、もっと何だって出来る。置いていかれないように、私も欲しがるから」
互いが手を伸ばさなければ届かない。
これはそんな距離だから。

「欲しがっている人に欲しがっているものをあげるとね、あげた人も貰った人も幸せになれるんだよ」

知ってた?
戸惑うように瞳を揺らすエレンに、ヒストリアは手を伸ばす。
はるか夢の向こう、かつて触れたことのある肌は、『あの頃』よりも滑らかだ。
「エレン」
呼んで、合わされた視線に微笑んだ。

「あなたにまた会えて、良かった」

翠色から雫が零れ落ちる前に、目を閉じて身体を寄せる。
初めて触れた唇は、まだほんのりとケーキの甘さが残っていた。
End.

2015.3.30(Happy Birthday, Elen!)

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