「ちょっと! どうして兵長とエレンがまた地獄行きなのよ?!」
「誰も殺してないし、むしろ善行の方が多いだろうが!!」
「あれ? ペトラたちじゃん。どしたのー?」
「ああっ、ハンジ分隊長!」
「聞いて下さいよっ! 兵長とエレンが現世での人生を終えたんですが、また地獄行きなんです!」
「ん? さすがに人殺す職業じゃないでしょ?」
私もこれ2回目でさ、人殺したりはしてないから天国行きーって言われたよ。
「へえ…そうだったんですね」
「兵長とエレンは真っ当に生きてて、それも人助けとか動物保護とかしてます」
「それは変だね。ちょっと待ってて、エルヴィンに聞いてくるよ」
「え? 団長ですか?」
「そ。あいつねー、笑えることに天国の管理組合に気に入られちゃってさあ。
まあ、気に入られるように仕向けてたってのが正解だけどね!」
ちなみにあいつも2回目ね。
「…さすが団長」
「腹黒は今も健在ってね。じゃあちょっと行ってくるよ!」
「はい!」
「お待ちしてます!」







天国なんてクソくらえ!







「ひ、ひどい…!」
「『生殖本能に逆らった、非生産的な関係性に溺れた為』? ふざけんな…!」
「なんだよ、この天国ってところはああして互いを想い合うことも許さないのか?!」
「兵長を侮辱した…しかも兵長が大事にされているエレンも!」
完全に"天国"に対し敵意100%になってしまった旧リヴァイ班の面々を、ハンジはどうどうと宥める。
「その気持はよっく分かるよ。私も聞いたとき腸煮えくり返ったからね!」
けど殴り込みっていうか、削ぎに行くのはちょっと待ってくれるかな?
「なぜですか、ハンジ分隊長!」
「兵長とエレンを侮辱するヤツらを、放っておけって言うんですか?!」
「まっさかぁ! エルヴィンに任せようぜって話さ!」
「団長にって、いったい何を…?」
ハンジは人の悪い笑みを浮かべた。
「そう。リヴァイとエレンの処遇について、エルヴィンもブチ切れててさ。すでに対策取ってたってワケ!」
曰く、

『誰よりも縛られることを厭う2人だからね。あの2人の関係性を否定するここへは、逆に来ない方が良いだろう。
地獄の関係者に少し聞いてみたんだが、彼らはあっちでも楽しんでいたようだし』

あの忌まわしい時代の地獄で、気味の悪いギトギトした地獄の生き物をばっさばっさと斬り飛ばし。
審議所では、すべての審議官を脅し(物理)賺し。
「審議なんざ生きてる間に腐るほどやってんだ。そんな七面倒なことで手間取らせるんじゃねえ」
「また俺を枷で縛ろうって言うんですか? ならあんたたち全員駆逐してやる!」
あまりに凶悪な面相をした2人に、慄き震えたのは審議官たち。
彼らが硬直してる間に、エレンとリヴァイはさっさと転生の扉を潜ったそうだ。

ちなみにアジアと呼ばれる地域の地獄では、角の生えた人間のような地獄の生き物をばっさばっさと斬り飛ばし。
裁判所では、地獄を管轄するという一番強く偉い鬼の王を脅し(物理)賺し。
「こんなクソつまんねえ上に汚え場所に1秒も居たくねえんだよ。おら、さっさと通しやがれ」
「リヴァイさん…違うか、リヴァイ兵長。こいつら巨人みたいにでかいですね。駆逐して良いですか?」
「ああ、許す」
地獄の裁判所からは"許すんじゃねえよおおおお!!!"という断末魔が聞こえたとか何とか。

「…ええっと、それで?」
「うん。輪廻の名簿と入り口は天国が管理してるでしょ?
だからリヴァイとエレンの分の名簿を、エルヴィンが強だtu…じゃなくて、譲り受けたんだ」
なんか今、ものすごいことを聞いた気がするぞ?
「…と、いうことは?」
こわごわと聞き返したエルドへ、ハンジは満面の笑みを向ける。

「リヴァイとエレンがどう転生するか、私たちのやりたい放題ってわけさ!!」

うおおおおおおっ!!!
ぃやったあああああっ!!!

天国の一角で唐突に上がった雄叫びは、一里先まで届いたという。

「じゃあ、じゃあハンジ分隊長! 次は幼馴染とかどうですか?!」
「家も近所で学校でもいつも一緒なんて、なんて萌えるシチュ!!」
「おっ、イイねーイイねー!」
「あっ、そういえばエレンの馴染みも転生時期じゃなかったか?」
「ミカサとアルミンですね!」
「エレンとミカサとアルミン、そこに兵長…だと…」
「何それ超面白そう! よっし、早速エルヴィンに言ってくるよ!」
「「「お願いします!!!」



*     *     *



エレン・イェーガー、15歳。
自由の翼学園高等部1年生、入学試験成績第2位。
リヴァイ・アッカーマン、15歳。
自由の翼学園高等部1年生、入学試験成績第1位。

「…えっ、リヴァイさん?」
「エレン…?」
焦がれ捜した相手は、思ってもみない同級生。
「うわあ…同じ年のリヴァイさん…!」
「おい、さん付けは要らねえ。敬語も不自然だから止めろ」
「……努力シマス」

けれどこれなら、四六時中一緒に居られる。



そして半年後。
交換留学生としてやって来たのは、非常に見覚えのある2人。
「ミカサ…に、アルミン…?」
「エレン!」
「えっ、まさかリヴァイ兵長…ですか?」
あまりに予想外すぎて、互いにフリーズした。
「…とりあえず、兵長呼びは止めろ」
「あ、はい!」
「クソチビ…まさかお前、もうエレンと…」
「おいミカサ。何を言いたいのか知らねえが、今の俺はてめぇと背丈変わんねえぞ?」
まるで竜虎のいがみ合い。
その恐るべき光景に、生徒も教師も校長ですらも恐れを為して逃げ出した。
どうしよう、止めるべきだろうかと悩むアルミンの隣で、エレンが朗らかに笑う。
「エレン?」
どうしたんだろう、と問い掛ければ、彼は本当に嬉しそうに。

「だって、ミカサにアルミンに、リヴァイが居るんだ」

これなら、みんなで海を見に行ける。
だから、嬉しい。
ほんの少し涙を浮かべながら笑うエレンに、ついつい魅入ってしまった。
「…クソかわ」
「エレンまじエレンジェル…」
言っていることが大して変わらないリヴァイとミカサに、ついアルミンも笑ってしまう。
「うん。そうだね、エレン」

みんなで行こう。



*     *     *



エレン・イェーガー、およびリヴァイ・アッカーマン。
共に享年74歳、老衰。


「…また地獄ですねえ、兵長」
「そうだな」
お前、また兵長呼びに戻ってんぞ。
仕方ないじゃないですか、立体機動装置着けてるんですから。
「あっ、今度はあいつら、羽ありますよ?」
コウモリみたいだ。
「アルミンが言ってた"悪魔"ってヤツじゃねえか?」
「全体的に悪いヤツってことですよね? 駆逐して良いですか?」
「思う存分やれ。俺も思いっきり削ぐ」
そこは怖がるところじゃねえのかよおおおお?!!!
下級悪魔と呼ばれる西洋の地獄の生き物たちは、一斉に悲鳴を上げたという。

「ところで、アルミンから話だけは聞きましたけど。天国ってどんなとこなんですかね?」
「さあな。ここはここで、好きなだけ削げるから俺は嫌いじゃねえな」
汚えのが業腹だが、てめぇが居るなら我慢しても良い。
「地獄を掃除しても、俺たちには何も楽しくないですしね」
「ああ。何の役にも立たねえな」
「ふふっ。ねえ、兵長」
「なんだ?」
リヴァイが隣のエレンを見遣れば、彼は何とも幸せそうに笑って。

「俺、リヴァイ兵長が一緒ならどこだって良いです」

ああ、そんな屈託のない笑顔を見せてくれるな。
一気に胸を突いた愛しさに、リヴァイは笑みを浮かべてエレンの頭(こうべ)を引き寄せる。
「クッ、そりゃあ奇遇だな」
俺も、てめぇさえ隣に居るならどこだって良い。
するとエレンは頬を染めて破顔し、リヴァイはその柔らかな唇にキスを贈る。

周りの景色は美しくない。
生き物だってとても醜い。
けれど、目の前に愛する存在さえ居るのなら。
それだけで、ここは幸福の場所になる。

「天国? 知るか、んなもん」







見えなきゃあ意味が無い!







さあさあ、楽しい転生ライフを!

「ところで君らさあ、自分たちは転生しなくていいの?」
「良いんですよ」
「だってこうしていれば、ずっと兵長とエレンを見ていられるじゃないですか」
「あっは、確かにね!」
--- さよならてんごく! end.

>>補足。
インスピレーション元は以下のボカロ楽曲です。
「さよなら天国」(feat.鏡音リン・レン/mayuko氏)
もう、この方の楽曲はどれもがんがんインスピレーションを下さいます。ぜひ!(*´`*)

2014.7.12

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